ちょっと前にですね、満月さんから素敵な夢小説をいただきました!
お忙しい中リクエストにこたえていただき感謝です。
もちろん大好きな十四郎とあつかましくもヒロインはわたくし沙羅でございます。
ものすごく素敵な作品ですので皆様是非!!
ほかにも素晴らしい作品がたくさんあります。
An impertinent lip(銀魂/夢小説/土方十四郎)
言葉は、人のように生まれ成長し、そして消えていく。
だからその魂が宿る時、人の心を動かすのだ。
人は消えても心にあり続けるように
言葉も消えても心にあり続ける。
そう誰に教えられるでもなく、魂に刻み込まれた真実の話。
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息が荒い、と肩で息をしながらそう思う。
自分では気をつけているつもりだったが、案外こういうときにぼろが出るものだった。
家事などで忙しいとは言え、剣はずっと振るっていたし同じ年の子供には負けなしだった。
剣の道を極めれば極めるほど「女にしておくのが惜しい」と言われた。
女って男って何?
強ければ、女であることなんて関係ない。
そう思いながら、愛用の竹刀を持って草むらの中へと駆け出す。
少しでも身を隠せるように、少しでも遠くへと敵を引きつけられるように。
自分のイメージはこんな時カモシカだ。
気配を消し駆け出す。
全身が熱い。こんな時、一人の男の名前が脳裏を掠める。
(…十四郎……ッ)
後ろから数人の気配がし、自分の背を追ってきているのを安堵しながら
近づく死に対しての恐怖に身体がバラバラになりそうなほど心臓が激しい音を立てている。
しっかり、足動け!そう自分の足に叱咤を飛ばしながら。
町の道場で幼馴染の十四郎と私はよくぶつかり合う仲だった。
始めは私の方が強かったのに、最近では続けて試合をすると引き分けが多くなってきている。
そう道場でも私に適うものは誰もいなかった。
「強過ぎるよ、沙羅ー、ちょっとは手加減してよ」
「あら、私はこれでも手を抜いたつもりなんだけど?」
完封無きまでに伸してしまい、ぼろぼろになる同じ道場の生徒たちに哀願されるが
聞く耳は持たない。
力を抜くことは自分の持論に反する。
「手加減無用」
そう言いながら土方は長い髪の毛を高く縛り直し防具を付けている。
「…上等。今日もかかって来なさい。道場の床に沈めてあげるから」
「今日こそ沈むのはテメーだ、こらァァアア!」
静かに闘志を燃やしていた土方は面をつけると一気に加熱させた。
そう叫び一礼し、自分の目の前へとやってくる。そうして此方へと一礼をすると、同じように一礼し
面の奥から睨む視線に、此方も闘志を燃やして視線を向けた。
「「おねがいしますっ!」」
「始めッ!!」
師範代の掛け声に上段の構えをして切り込む。胴という有効箇所ががら空きに
なる構えであるため観客に徹している他の生徒たちからどよめきが走る。
それは、相手からすればこれだけの弱点を晒しているのに負けるのは屈辱であり
振り下ろされる技は一撃必殺であるから受け止めきれずに形を整えきれずに
追撃の剣先にやられるかもしれない。
僅かな動揺が土方の目の中に映るものの、直ぐのそれを振り払うように目に力を込めて踏み込む
土方に此方は迎え撃つために上段から剣を振り下ろした。
数時間後、道場は既に夕暮れ時でオレンジ色に床が染まっていた。
床に寝転んで息を切らす十四郎の横に、寝転んで自分も寝転んで夕日を眺める。
「は、…ハァッ、…ハァ…ッく、そ…ッ」
「あはははっ、今日も私の勝ちねー、明日の道場の掃除お願いね」
笑いながら転がって土方を見つめれば、本当に悔しそうにしていた。
道場の床が冷たくて気持ちがいい。
小さいころからずっと剣道をしてきて、これからもずっとやっていけると信じている。
そっと此方へと視線を向ける土方に小さく笑いかければ
ずっと傍にいた土方の目が少し真剣みを帯びていてどきりとした。
そんな顔したことはなかったように思う。そんな男の目を。
(ナマイキ、ナマイキ―……)
そう心の中で罵っても言葉が出なかった。最近よくそんな顔をするようになった土方に
剣道では勝てても、負けてしまう気がして。
それに名前も付けられずに立ち上がると、土方に向かって手を伸ばした。
「早く帰ろ、…今日は母さんが十四郎の分も夕ご飯作ってるよ」
「……、……、おぅ」
何か言いたげな十四郎は手を取って立ち上がると、その視線を暗くなってきた空へと向けた。
それからはいつものように罵り合って家路に付く。
家も近所の私たちは帰るときも大概一緒だった。
そんな私たちに畑を弄っている近所の人たちも兄弟のようだと笑う。
それでもいい、十四郎の傍に居られるなら。
そう思うようになってしまったのは一体いつからだろう、キュと拳に力を込めて
そんな思いを振り払うように家の戸を勢いよく開けた。
ある日のこと、道場に行けば人っ子一人いないことに気付いた。
朝早かったわけでもない、そろそろ日が昇り朝餉を終えて来るころの時刻。
それなのに師範代の姿もなければ、いつも自分より早く着て素振りをしている十四郎の姿もない。
それに不思議に思って胴衣を身につけていると、道場の裏手で何か争う声が聞こえた、ように感じた。
確証がないが、どこか胸騒ぎがして竹刀を握り締めて裏手に出ると。
「師範代ッ」
「…沙羅ちゃん…ッ?逃げ、ろ…ッ!」
数人の浪人崩れに囲まれた師範代が息を切らし、満身創痍の姿で立っていた。
子供の私にも一目で危険なことが分かる。
怖い、逃げ出したい。そんな気持ちを奮い立たせて足にグッと力を込めた。
持っていた竹刀を構えた。
漲る闘志を開放し、竹刀を持つ手に力を込める。
「お前か、この道場で一番の剣士は?」
「…可愛らしい顔して、俺たちとやろうってのかい?」
浪士たちが自分の姿に気付いて此方へと興味を引かれたように
近づくのを咽喉を鳴らして睥睨する。
「そんなこといって、女の私に負けたら町の笑われ者ねっ」
「…なんだと?」
ゆらり、と余裕を浮かべていた顔の気配が変わった。ソレに対して自分は
嘲笑の顔を、余裕を浮かべたまま視線を逸らさない。
喧嘩や試合の時、そうするように教えられたからだ。
一瞬でも気を許したら、喧嘩や試合に気合で負けてしまう。
私に負けようと負けまいと町の嫌われ者になることは目に見えているが、大人は女子供に
からかわれるのを一番嫌うという。
もう一押しだと、口端を吊り上げる。
「まぁどちらにしても、笑われ者だとは思うけど?」
「なんだとッ!?」
そう此方に敵意を向けさせて、応援を呼んでもらうためだ。
一対一なら敵いそうだが、3人もの人間を相手したことがない。
立っているのもやっとの師範代には視線を向けずに間合いを詰めて来る浪人に竹刀を
構えたまま睨み合う。
そうしてその後ろにいる師範代に視線が少し絡む。
意思を乗せれば小さく頷く様子にくるりと背を向けて走り出す。
「追えッ!」
そうしながら浪士を引き連れて道場から離れていく。少しでも道場から離れて道場を守らないと。
その一身で駆け出す。道場には幼い子供たちも沢山通っている。
その子らを危険に晒すわけにも行かない。
たとえその選択が裏目に出てしまったとしても、自分にはこの竹刀がある。
負けるわけには行かなかった。
道場から遠く離れた何もない草原まで走り、くるりと振り返る。
息を切らしながらも「やっと諦めたか…ッガキ!」とお決まりの文句を言う浪士に
竹刀を構えて肩で息をする。
「諦めてないわよ、・・・諦めた方がいいのはそっちじゃないの?」
「なに?…愚弄するのも…」
「道場荒らしの方がよっぽど馬鹿なんだから!」
激昂した男たちが切り込むのを竹刀で受け止める。その力強さに眉を顰めるが
負けるわけには行かない。
絶望はしない、これからも十四郎の傍で剣を鍛えていられるように。
自分は剣の道で同じ位置に立ちたい。
竹刀で払いのけると息を切らして睨みつける。
そんなときだった。
同じ胴衣姿のポニーテールの男の子がさっと目の前に庇うように竹刀を構えて立った。
「…十四郎!?」
「…テメーら、一人の人間に3人でなんて卑怯じゃねーか」
俺も混ぜろや、と竹刀を構え切り込んでいく。
それにハッとして、自分も竹刀を再び構え直し切り込む。女扱いじゃなく、仲間として扱って欲しいということが
分かって、言われた言葉。
それに少し胸が熱くなりながらも土方の背に背を合わせる様に浪人たちを睨む。
「…どうして、きたのよッ?」
来てくれて嬉しかったのに、憎まれ口しか叩けない自分にとっくの昔から気づいていたように
土方はクックッと笑うと、自分も目の前の浪士たちを睨みながら話す。
「楽しそうな事してるって聞いたからな。…それと」
お前の声がした、そう小さく告げて切り込んでいく。
それに聞き返すことができなかった。鋭い剣捌きは動物的勘を併せ持つものであるが
やはり十四郎にはセンスがある。それでもまだ荒い、と言わざるを得ない。
何とか目の前の浪人を倒し、向き直れば十四郎も荒い息を吐きながら何とか
倒していた。その様子にホッとしていると、残っていた浪人が背後に迫っている事に気づけずにいた。
それに荒い息を吐きながら、目を見開く十四郎の様子で気づいた私は、迫っている危機に
その場から動けずにいた。
「…、・・・ッ・・・・・・ッ!!」
「・・・ッ沙羅ァアア!!」
十四郎の声が随分遠くに聞こえ、その衝撃を受けるよりも先に、その場に押し倒されて
押し倒した身体に目を見開く。
寸での差で十四郎が自分を庇ったのだ、と気づいたのは十四郎の額から流れる血。
「ぃやあああっ!」
悲鳴を上げて十四郎に縋りつく、目を弱々しく閉じた十四郎は、私の声にも目を開かない。
そうして自分へも竹刀を向けてくるそれにもう視線は向けられない。
衝撃もなく、意識をなくしてしまって。
気づけば、道場の休憩所に敷かれた布団へと寝かされていた。
「…、私…?」
「沙羅、目が覚めたか?」
目を開ければ心配そうに覗き込む道場に通う子供達と視線が合い、目を瞬く。
「…、あの男達は?…十四郎は!?」
ハッと目を見開いて、勢い良く周りを囲む子供たちに聞くと、手当を施した師範代が顔を見せた。
微笑み頷く師範代が指し示したのは縁側で。
そこには頭に包帯を巻かれた十四郎がこちらに背を向けて座っていた。
慌てて布団から抜け出して縁側へと、十四郎の傍へと足を向けると腰を下ろす。
此方に視線も向けず、視線を前へと向けたままの十四郎へ口を開こうとすると。
「もっと、…強くなりてェ」
そう呟く声には怒りが混じっていた。なんに対しての怒りかと首を傾けながら「十四郎」と呼びかける。
視線を向けられることなく、それでも悔しそうに歪んだ唇を噛む姿は、何の言葉も届かないような。
何の慰めも届かない、そんな様子が見て取れ、言葉が見つからず口噤む。
「もっと強くなって…、お前を守れるようになりてぇんだ」
「…え?」
お前の背に庇われたままじゃ、…お前に言いたいこともいえやしねェ。そう告げられた言葉に目を瞬く。
十四郎の視線を逸らし続けていたのは私だった。
それなのに、十四郎は自分に力がないからだと言う。
十四郎の温かな心に触れて、思わず涙が零れそうになる瞳に力を込めて精一杯微笑んだ。
「ナマイキ、…でも待ってる、から…」
「それまでに少しはいい女になってろよ、…沙羅」
そう言って視線を向ければ、此方へと視線を向ける十四郎の笑みに頷いて立てられた
小指に小指を絡めたのだった。
*
今日は、幾分涼しくなり、山から吹く風もすっかり秋めいてきている。
コスモスが早い秋の訪れを告げて、着物の裾を揺らした。
あれから、十四郎とずっと一緒にいられると思っていた幼い頃は卒業し、
江戸へと真撰組の設立のために行ってしまった十四郎と別れ、
まだ此処にいる。
道場はいまだ変わらずあるし、たまに顔を出しては子供達の相手を買って出ている。
何も変わらない自分が歯がゆいが、…それでもあの言葉を信じて待っていた。
その時だった。
さく、さく、と草を踏むように歩く足音が近づいてくるのに気づいて振り返れば
十四郎がいた。
すっかり大人になったけれど、変わらない照れくさそうな笑みを片頬に浮かべて。
「…、迎えに来た」
共に来てくれるか?そう手を伸ばす十四郎に、頬を涙が伝うのを感じながら抱きついて腕を回す。
すぐに十四郎も私の身体を抱きしめてくれる。その腕の力強さが嬉しくて。
「前の言葉撤回、な。…お前は昔から良い女だ、沙羅」
なんせ俺が惚れた女だからな、と告げられた言葉にナマイキ、と小さく呟くのは精一杯で。
でも焦らずとも時間はたっぷりある。
あの時塞き止めた言葉を語り明かせる夜は、これからいくらでも。
**
言葉は時に約束、と言う言葉で結ばれ、人を結びつける。
それは心を暖かくし、気づかせ、そして大切なものへとなっていく。
そうしていつかは強固な絆になっていく。
二人の間で。
I waited for you all the time.
fin.