第1 初めに
平成29年12月13日、広島高裁は、広島松山両市の住民が申し立てた四国電力に対する伊方原発の差止命令を認める旨の決定を下しました。原発関連で住民の申し立てを認めた判断は高裁では初めての判断ですが、その理由は阿蘇カルデラ(阿蘇山、熊本県)が破局的噴火(地下のマグマが一気に吹き出す壊滅的な噴火)をした場合、火砕流が原発に到達し、周辺住民に多大な危険が生じる可能性がないとは言えないということにあります。
今回は翌日の新聞報道で知る限りの判決内容から、私なりに出来る限り分かりやすく解説していこうと思いますので、よろしければ読んでいただけると嬉しいです。
第2 理由の骨子
1 どうやって判断するのか(司法審査のあり方)
本来、危険があることを証明しなければならないのは、命令が認められることで利益を受ける住民側です。しかし、その理屈を前提として、裁判所は、①「住民らが生命身体に重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことを相当の根拠資料に基づき主張立証(疎明)する必要がある」と述べます。つまり、実際に裁判所に様々な証拠を提出しなければならないのは四国電力側である、と述べているのです。
そして、②「四国電力が疎明を尽くさない場合、具体的危険の存在が事実上推定されると解すべきである」と述べています。疎明を尽くさないといはつまり、四国電力の立証活動が成功しなかった場合で有り、その場合は具体的危険が存在する、すなわち差し止めは認められる、という、ことを判断しているのです。
このような考え方には、本来の理屈(立証しなければならないのは住民側であるとの理屈)とは異なっているので、多少の違和感が生じるかもしれません。しかし、実際に原発の安全性を専門的に説明できるのは電力会社です。
2 火山事象の影響による危険性
規制委員会が策定した安全審査の内規(火山ガイド)とは以下のような内容です。
①原発から半径160キロメートルの範囲に位置し、将来の活動可能性がある火山については原発が運用する期間中(原則は40年)の間に活動する可能性が十分に小さいかどうかを判断すべきである。
阿蘇山は、伊方原発から約130キロメートルに位置するので、半径160キロメートル以内にあります。そのため、この火山活動の可能性が十分に小さいかどうかを判断することになります。
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② 活動可能性が十分に小さいかどうかを判断できない場合、発生する噴火規模を推定する。
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③その噴火規模も推定できない場合、過去最大の噴火規模を想定し、設計対応不可能な火砕流が原発に到達する可能性が十分に小さいかどうかを評価する
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④火砕流が原発に到達する可能性が十分に小さいと評価できない場合、原発の立地は不適当となるので、その敷地に原発を立地することは認められない
という判断手法です。
ここで重要なのは、火山の噴火がどれくらいの規模になるかなどというものは将来のことで、今の時点で分かるはずがおよそないことです。阿蘇山がどれくらい活動するか、噴火はどれくらいか、などというのは起きてからでないとわかりません。そのような自然現象は分からないからこそ、東日本大震災の際にも我々は事前に対応できなかったのです。
つまり、①火山活動は十分に小さいかなんて評価することは出来ない、そして②発生する噴火規模も祖推定することは出来ない、という場合がほとんどでしょう。
そうすると、この火山ガイドの考え方をより簡単に説明すると、
「近くにある火山の火砕流が原発に到達するかどうかは、③過去に一番大きかった噴火規模で判断しなさい」ということです。
これまで以上の噴火があるかもしれませんが、少なくとも過去に一番大きかった噴火の危険がまた生じた場合に原発に危険が生じなければその土地に原発を立てることはいけませんよ、ということです。
3 判断プロセスに当てはめてみると
(1)過去最大規模の噴火とは
過去に一番大きかった噴火。それは今からおよそ9万年前に起きた阿蘇4噴火というものです。専門的には火山爆発指数7だそうです。この噴火が起きるならば、火砕流が伊方原発まで到達する可能性はあると評価できるそうです。
そうすると、先ほど述べた③過去最大規模の噴火を前提とした結果、④火砕流が原発に到達する可能性が十分に小さいとは評価できないことになります。
(2)9万年前の噴火を想定していいのか!?
ここで疑問に残るのは、約9万年も前の出来事がまた起きることを想定していいのか?という点です。確かに過去に一番大きかった噴火の規模を想定すれば、歴史上認められる過去の大噴火を基準にせざるを得ません。
先ほどの火山ガイドの文章をその言葉通りに今回についてあてはめた場合の当然の結果です。
しかし、そこまで過去の出来事を基準にすることは火山ガイドも想定してないのではないか、そう解釈して、火山ガイドの適用を狭めてきたのがこれまでの原発訴訟の判断手法でした。
今回の広島高裁は、まさに言葉通りの解釈をしたということです。
この点について、決定文は、「当裁判所としては、社会通念に関する評価と、規制委が最新の科学的技術的知見に基づき策定した火山ガイドの立地的評価の方法・考え方の一部との間に乖離があることをもって火山ガイドが考慮すべきと定めた自然災害について広島地裁決定のような限定解釈をし、判断基準の枠組みを変更することは原子炉等規制法や新規制基準の趣旨に反し、許されないと考える」と記載されます。
つまり、一般の人の考え(社会通念)とはずれているとしても、火山ガイドの文章に照らしてそのまま9万年前の火山噴火を想定すべきである、ということです。
4 今後の原発訴訟はどうなるか
端的に言って、あまり変わらない可能性が高いです。規制委員会は、広島高裁が注文を付けたのに従って、火山ガイドの内容を修正して、そんな約9万年前のことは考慮しません、という文章を付け加えるでしょう。
そうすれば、裁判所はその新しい火山ガイドに従って判断せざるを得ず。そうすると9万年前の火山噴火を想定することは出来ません。
そうすると、火砕流が原発に到達するような過去の火山噴火を考慮することは出来ない結果、原発に火砕流が到達し被害が生じる具体的危険は存在しない、ということになります。
今回の決定は、来年に別の裁判所が伊方原発訴訟について判断するまで原発の活動を止めなさい、というものでした。
そうすると、四国電力や規制委員会は、新しい火山ガイドに従って再度主張立証を試みるでしょう。そうすると、再び裁判所は住民側の差し止めの申し立てを認めないことになりそうです。
いずれにせよ、今後の裁判所の判断にも注目です。