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★自作乙★

小説について考える日々のあれこれ。創作日記。読書。自己分析。

 【第一部】


 番長は中学三年の秋、学校を中退した。彼は生徒たちが死ぬほど嫌っていた担任の英語教師をミディアム(半殺し)にしたことにより、義務教育制度からの追放を受けた、ということになっていた。多くの仲間が彼の失脚を嘆き、生徒の過半数が授業をボイコットして職員室におしかけ、番長の復学を要求した。生徒たちの抗議に学年主任は、当面自宅謹慎という処分は施したが、退学そのものは番長の意思であって学校側の意図するものではない、ということを明らかにした。それを知った生徒達は、すぐさま番長の自宅へ訪れ、数日間に及んで復学の説得を試みたが、番長はそれに一切応じなかった。ある日番長は、広告の裏にマジックペンで最後の言葉を書き残し、座り込みを続ける舎弟たちに向かって、それを自室の窓から投げ放った。その言葉は以下の通りである。


「俺は中学を率業しない。義務教育という制度を率業する」


 そのメッセージに舎弟やファンの女子共は号泣し、卒業の「卒」の字が間違っていることさえ誰一人気付きはしなかった。中学生たちの嗚咽は鳴り止まず、その宗教的で不気味な光景は、彼らが保護者に連れ戻される真夜中まで番長宅の前で続いた。


 深夜一時半。番長は自室からカーテン越しに窓の外を見渡し、信者が完全に去っていることを確認した。面倒なことになった、と番長は思った。担任を半殺しにしたのは、授業中にプレイしていたニンテンドーDSを取り上げられたことへの逆恨みであった。しかし、生徒達は番長の武力行使を、自分たちが受けた屈辱への報復であると疑わなかった。担任である英語教師は陰湿な性格で、出来の悪い生徒たちに英語で侮辱の言葉を発することがしばしばあった。「どうせ、お前らには何言ってるかわかんねーだろう。ふはははははは。イディオッツ・ゴー・ホーム。ドラクエ・ニフラム・ドットコム」などと言われた日には、辻斬りを決意した生徒も何人かいたが、受験を控えているという身でもあり、誰もが保身的となって殺意を抑えていた。そのため今回の番長の行為は、必要以上に英雄視されることとなった。


 番長が学校を辞める真の動機は、未だ進路が不確定であることもあってか、そういった面倒な「人生の選択」そのものを放棄する機会を欲していたことにあった。今現在、彼の学力では、この界隈の最低ランクに位置する園芸高校しか受け入れ先は無いとされていた。その高校は「ビーバップハイスクール」の「戸塚水産」、あるいは「今日から俺は」の「開久」、あるいは「特攻の拓」の「ラン高」などに比類する不良の巣窟であり、はっきり言えば、金をもらっても入りたいとは思わなかった。喧嘩に全くの自信が無いわけではなかったのだが、彼はどちらかというと「猛将」というよりは「知将」であり、血気溢れる仲間の破壊衝動を誘発して、代理人に敵を討たせる、という戦い方でこれまで上手く立ち回ってきたわけである。舎弟の中には、確実に自分よりも強いと思われる猛者が何人もいるのだが、舎弟勢は誰一人として番長の「最強」を疑わなかった。つまり番長は、舎弟有りきの「最強」であった。その舎弟らのほとんどが、意外にも中の上の成績をキープしているため、誰も園芸高校へは便乗してくれぬ上に、単身であのヤクザ予備軍のような悪人面が跋扈する園芸高校へ入学するなど自殺行為以外の何ものでもなかった。園芸というだけに、植物人間にされてもおかしくはない。連中は「何も考えない葦」だ。番長は人一倍の想像力を駆使して、考えられる限り最悪の高校生活を予想し、現実逃避こそ妥当であると判断した。


 まさかの中学校中退という、アルバイトの履歴書も録に書けぬような現状に見かねた両親が、親戚知人と手当り次第に息子の受け入れ先を頼み込んだ末、遠方の親戚が土木作業員見習いとして面倒を見るとの配慮を施し、春にこちらへ来るようにと、番長に告げた。あっさり進路が決まった番長は、受験戦争という人生最初の社会的実戦をまんまと逃れ、皆がシャープペン片手に問題集を埋めている時間、彼はタッチペン片手に新たに購入したニンテンドーDSで、一日平均8時間「桃太郎電鉄DS」をやっていた。肩書きは当然「番長」であり、尚、ゲーム内での彼の所持金は28兆4585億9200万円であった。


 悠々自適な番長のニート生活は三月末まで続いた。その間、番長は総計122本のDVDをゲオから借りた。ゲームにも飽き、有り余る時間を映画鑑賞で潰してした彼の最もお気に入りの映画は「バトルロワイヤル」であった。番長はこの映画を一ヶ月に一度は再レンタルし、自分を主人公の七原秋也に重ねていた。引きこもりで生じた孤独は、受験というバトルロワイヤルでクラスメートは全員死んでしまったものと想定することにより解消された。番長は自分こそ、この残酷な人生サバイバル唯一の生き残りであると疑わなかった。


 3月29日。番長は誰にも別れを告げることなく一人街を去った。生まれた街から遠く離れた田舎町に夜行バスが到着したとき、何故か「バトルロワイヤル」のラストのテロップが頭に浮かんだ。それは未知への序章でもあり、新生活へ向けての決意表明でもあった。

 番長は心の中で、今一度自分に叫んだ。


 「走れ!」



 (つづく)