★自作乙★ -15ページ目

★自作乙★

小説について考える日々のあれこれ。創作日記。読書。自己分析。

  【第二部】


 それから18年の月日が経った。番長は「住所不定無職」の身で、ついに街へ舞い戻ってきた。既に33才になっていた番長は、世間の厳しさにすっかり牙を抜かれ、中学時代の凛々しさは一変し、その容貌は、昼間からプラプラしているそこいらの無職のゴロツキと何ら大差なかった。

 番長の放浪記は以下の通りとなる。



 <15才> 4月、親戚の営む有限会社木村工務店へ見習い社員として入社。同年4月、体調不良を理由に退社。飽きれ果てた雇い主の親戚は、働かぬのであれば、今すぐ実家へ帰れと怒鳴りつけるが、温厚な夫人の配慮により、自立できるまでしばらく住居と食事だけは引き続き面倒を見てあげようということになり、番長は無職のままそこでしばらく暮らすこととなった。このまま帰郷すれば、目撃者に何を言われるかもわからないので、形はどうであれ、ここに留まることはむしろ願ってもなかった。タダ飯を喰らい続けるドラ息子の傍迷惑を恥じた実家の両親は、謝礼として毎月5万円を親戚の口座へ振込続け、それを親戚は大いに喜んだ。番長に与えていた離れは、ゴミ置き場のようなものだし、餓鬼一人の食費など切り詰めれば1万円もかからない。給与を与えるべきはずが、逆に保育費をもらうことになろうとは、親戚夫婦にとっても願ったり叶ったりであった。両者に利益のあるこの処遇は、実に三年ほど続いた。


 <18才> 時々発揮する妙なカリスマ性もあってか、番長は女には困らなかった。フラれるのも早いが、女ができるのもまた高速であった。中学一年の童貞喪失を伴った最初の恋人から数えて39人目となる彼女と別れた4時間後、番長は後の人生を大きく左右する女と出会うことになる。

 女の名はヒロ子といい、30才のバツイチであった。孫の誕生を焦る元夫の両親に、子供が出来ないという理由で表向きほとんど追い出されたようなものであるヒロ子は、5年前の離婚を期に、半ばヤケクソで片っ端から男を食い荒らしては狂気とも言える性生活を送り続けた。どうせ自分は妊娠の心配がないのだと高を括り、誰彼構わずに中出しを許した。しかしヒロ子は不妊症ではなかった。半年の間に216人の男と性交を続けた結果、彼女は妊娠した。当然誰の子かもわからないため、彼女は迷わず堕胎したが、その罪悪感と、自分を捨てた元夫こそが真の種無し野郎であったことへの怒りで躁鬱病となり、勤め先の生命保険会社を辞めた。元夫の家はそこそこの家柄であったため、離婚時に受け取った財産分与の額はかなりのもので、ヒロ子は仕事をせずとも生活には困らなかった。

 番長との出会いは、パチンコ屋であった。依然無職のヒロ子は、躁鬱病のリハビリとしてほぼ毎日パチンコに通い、孤独の時間を浪費していた。しかし、元々の運の悪さもあってか、戦歴はことのほか無残なものであった。一ヶ月に57万円負けたときには、冗談抜きに自殺を考えたが、そんな思考は通帳の残高を見れば一瞬で吹き飛んだ。手切れ金も含まれていた財産分与の総額は、実に1000万円近い額に及び、その膨大な金額は、孤独な女性の生命を維持するのと同時に、確実に堕落への拍車をかけていた。

 一方、女にフラれて打ちのめされていた番長は、あれこれと思い悩む自分に嫌気がさし、思考をストップさせる手段としてパチンコを選択した。居候先の親戚から嫌味を言われながらもようやく捻出した2千円を握り締め、勝負をかけたが、10分ともたずに撃沈した。無一文となった番長は、親戚宅へ戻る気も起きず、リベンジを果たそうと店内でパチンコ玉を拾い集め始めた。そのあまりに無様な姿が、この日珍しくフィーバーしていたヒロ子の目に止まった。番長の容姿はどちらかというとタイプであった。元々は、誠実で将来性のある好青年に惹かれていた彼女ではあったが、そういった連中こそいざというときに手のひらを返すものだという現実を、例の結婚生活で思い知らされていたためか、パチンコ屋で玉を拾い続ける無様な不良少年という絵は、彼女の心の余白を虹色に塗りつぶした。保険会社での外回りで培ったコミュニケーションのノウハウと、男を食い荒らしていたころの色仕掛けで、ヒロ子は一回り年下の番長を7秒で落とした。隣の台に座らせ、出玉を好きなだけ与えた。この出会いに、幸運の女神が微笑んだかのように二人は揃って大勝した。番長とヒロ子は居酒屋で飲み明かした後、ラブホテルで三回性交した。全てが順調であり、幸福であった。ラブホテルで目覚めた二人は、窓から下界を覗き、せっせと会社に向かう人々を見下ろしながら「見ろ!人がゴミのようだ!」と、揶揄して楽しんだ。実に爽快で、完全な朝であった。二人はまた抱き合い、フロントに電話をして、モーニングコーヒーと避妊具の追加を要求した。

 

 誰もが一生に一度は、そんな一日があってしまうため、時折人生を大きく踏み外すこともある。いや、すでに踏み外している二人だからこそ、転落の余兆は、暗闇から差し込む暁光と捕らえられたのかも知れないのだ。



(更につづく)