今回の日航機と海保機の事故ですが、普段から飛んでいるパイロットにしか分からない要素が色々含まれていると思いました。もちろん最終報告書が出るまでは確実な事は分かりません。今回の記事は、一人のパイロットとして感じたことを書いているだけです。

 

海保機が、管制の指示とは異なって滑走路に入ってしまったのではという点が報道されています。

パイロットならば、大小色々なミスが毎日起きるという事を誰でも知っています。そのミスが起きないように、二人のパイロット、管制、他の飛行機が気をつけて動いています。そんな風に気をつけていても、時には私のコックピット内でミスに気付き、時には管制官、時には他社の飛行機が間違いを起こします。私たちはロボットではないのです。最近はアメリカの航空業界もリスクマネージメントやリスクアセスメントといって、少しでもリスクを高める要素を考えるようになりました。例を言うと、私生活での問題やストレス、睡眠、病気、天候、疲労、遅延、飛行機の故障などです。海保機のコックピットの中で、滑走路に入る事に疑問は出たのか、それとも二人とも確信して入って行ったのか、こういった事故をどうやって防ぐのか、それが一番大事だと思います。「私には絶対起きない事故。」、そんなことは言えないのです。

 

 

これが日中だったら?管制官も、日航機も、滑走路にいる飛行機に気付いたかもしれません。夜の空港にいる飛行機って不思議なくらいに見えないんです。夜間、滑走路に向かうために地上を時速30キロで走行中、「はっ!あれ、飛行機?」と前方50メートルくらいの飛行機にドキッとした事が何度もあります。自分達が着陸する時も、先に着陸した飛行機が滑走路にいるかどうか容易には見えません。上や後ろから見る飛行機のライトは、空港のライトとブレンドしてしまってハッキリ見えないんです。

 

海保機が滑走路の途中の所(インターセクション)にいた事も見えなかった要因の一つだったと思います。ただでさえ見えないのに、滑走路を少し入った所に飛行機がいるとは、着陸するパイロットは予想しないと思います。もし滑走路の一番端(初め)の所にいたら、日航機が気づいたか、なんとか着陸をやり直して、衝突を免れた可能性があったかもしれないと想像してしまいます。

 

そして、日航機が着陸の許可を得た交信を、タイミングのずれで海保機は聞くことができなかったという事も大きいです。誰かに着陸の許可が出たのを聞いていれば、自分が滑走路に入る時には緊張感が増しますし、着陸するはずの飛行機がどのくらいの距離の所にいるのかTCAS, 航空機衝突防止装置のスクリーンを見て確かめたりします。

 

↑からも分かる通り、航空事故の多くは、当たり前に見える大きな原因だけではなく、事故に繋がるいくつもの要因(chain of events)が繋がっているという特徴があります。

 

本当に悲しい事故ですが、今回の避難、本当に素晴らしいです。客室乗務員さん、脱帽です。

 

外に炎が見えているのに、なぜ瞬時に非常出口を開けないかというと、エンジンがまだ動いている可能性が大きいのと、外部の状況の確認が大きいと思います。何百人もの乗客が非常口のスライドを使って出る前に、コックピットでは避難時に乗客が死亡したり重症を負ったりしないように、チェックリストが行われているのです。あとは、機内の窓からは大丈夫に見えても、そのすぐ横や後ろの火事がひどいかもしれない。その状況確認をできるのは、双眼鏡やカメラを使う管制、他の飛行機、消防車です。ただ消防車が到着するのは多少時間がかかるのと、夜間での事故は目で被害を確認するのは難しいです。予想していなかった衝撃や爆音、激しくぶつかってショックを受けている身体、立ち込める煙、窓から見える大きな炎、叫び声や泣き声、連絡が付かないコックピット。

 

こういった中での判断と避難の実行は、信じられないレベルのものでした。奇跡と呼んでも過言ではないでしょう。亡くなった方々のご冥福と、巻き込まれた方々のご回復をお祈りしています。これからも安全第一で乗務したいと思います。

 

 

 

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