こんにちは。
トレイルランナーズ大阪の安藤大です。

 

前回の記事はこちら
 

レポートとても楽しく拝読しています。最後に安藤さんが捕まえた女性はミークさんだったのでしょうか?20km過ぎで追いついたの?それから?小説のようなドキドキの展開、続きがとっても気になります。(佐賀県鳥栖市在住/50代女性ランナー)

 

いよいよ佳境、第1回ベトナムトレイルマラソン Vietnam Trail Marathon4レース後編1。

 

コースはハイキングコースではない、大会のために草刈りされ、整備されたもの。つまり、誰も歩いていない、走っていない人類未踏のコースを、第一回大会で走っている事実に興奮した。

 

 

「(捕まえたぞ!!ジョー・ミーク!)」

 

 

ジョー・ミーク。あなたのような足の速いランナーがなぜここにいる?大会主催者は招待選手紹介で「彼女は男女総合で優勝する実力があります」と話していたので、目の前にジョー・ミークがいるということはそこそこのいいペースにいるのかもしれない。

 

もしこれがマラソン大会だったらフルマラソン2時間46分、100kmウルトラマラソンを7時間台で走る女子のエリートランナーに僕が追いつことができるはずはなく、その背中さえ見ることはなかっただろう。やっぱりロードを走るのとトレイルを走るのとでは違うということだろう。ますますマラソン大会に参加をして、速い記録を目指すことに関心はなくなった。トレイルでちゃんと自分の実力を発揮できることの方が重要だ。僕はトレイルランナーなのだから。

 

数日前にハノイ周辺で大雨が降り、トレイルは泥沼化し滑りやすく、彼女は下りで悪戦苦闘しているようだった。下りが苦手な女性ランナーは多いが、女性ランナーでトレイルの下りが速い人には国内、海外一人も出会ったことがない。なぜ男性よりも女性の方が下りを苦手とする人が多いのか理由はわからないが、彼女も例外ではないようだった。

 

もう一名の男性ランナーは足を攣って立ち止まった。まずはその男性を追い抜いた。

 

彼女は泥がついて滑りやすい、ゴロゴロした岩場で苦戦しているように見えた。彼女の後ろについて歩き、その息づかいを感じた。「ぜえぜえ、はあはあ」明らかにオーバーペースだ。僕はその後ろをのんびりペースでつく。しばらくして「先に行って」と道を譲られた。

 

「先に行って」とは言われたものの、彼女は平坦な道や上り坂を走るのが速く、すぐに追い越されてしまう。僕はトレイルランニングの上りは山登りだと考えており、傾斜5%を超える坂道は走らないとマイルールで決めている。いかにスピードハイキングでいいタイムでゴールできるかがテーマだ。一方、僕は下りが速く、上りでの遅れをすぐに挽回してしまう。しかし、さすがは女子の世界トップランナーである。メンタルが強い。ぜえぜと息を切らしていながらも一向にペースが落ちることがない。

 

お互い抜きつ抜かれつを繰り返し、20kmから42kmぐらいまでずっと2人で走っていた。

 

1分1秒が惜しい。休憩しさえしなければジョー・ミークと一緒に走ることができる、順位もキープできることがわかっていた。

 

42kmを過ぎてシューズに入った小石を取り除くため立ち止まった瞬間に抜かれ、その後追いつくことはなかった(ジョー・ミーくは女子優勝、男女総合7位。僕より40分速くゴールした)ウルトラトレイルの女子世界トップランナーと70kmのレースで一緒のペースで長く走ることができたのは今後の自信につながった。

 

左足の裏に大きなまめができたようだった。ゴールまでまめが潰れなければいいが。足裏のマメの原因は、摩擦と蒸れ、不衛生が原因だとわかっている。過去に足裏にマメができたのはいずれも70kmを超える長距離レースで、蒸し暑かったり川の中を歩いたりするコースだった。この日も泥の水たまりの中を走り続けていた。本来であればソックスを変えたり足裏を拭いたりするのがマメ防止に望ましいが、今日はその1分1秒さえ惜しいので先を急いできた。

 

(48km)

やがて日が高く昇り始めた。強烈な太陽光に晒され、暑さでペースがダウンし始めた。体感気温は25℃近くにまで上昇した。「1月のベトナムは冬で比較的涼しい。そう聞いたからエントリーをしたのに話が違う」僕は愚痴った。座りこむような木陰もなく、容赦ない日差しが照りつけた。日焼け止めを塗っておいて正解だった。あるランナーは、「日焼け止め?塗らないよ。どうして曇りで冬の季節なのに」その結果どうなったか?ゴール後は顔や肌を真っ赤にして帰ってきた。曇りの場合でも紫外線は身体に降り注ぐ。標高が1,000mも超えるような山の上であれば一層強い。これは長年のレース経験値から得た教訓だった。

 

「山では備えあれば患いなしではない。常に備えよ。」だ。

 

ランナーにはコースマップも配布されているが、給水所やコース上にはコースの見取り図が大きく張り出され、残りの距離や高低差がひとめでわかりこれはランナーに役立った。

 

足裏にまめの次は、お腹の具合いが急降下し始めた。お腹を下しただけでなく、ずきずきと痛みも感じはじめた。この日はじめて給水所でトイレにかけこみ、うんうんとうなった。すぐに下痢止めを服用しようと考えたが、ウィルス性の腸炎なのか、食あたりなのか、水あたりなのか?それによって対処法が異なる。ウィルス性の腸炎であれば下痢を止めてはならない、むしろ身体から排出しなければならない。

 

給水所の水が合わなかったのか。口にしたバナナから異臭がしたがそれがいけなかったのか、牛の糞が点在する泥のトレイルで転んで手をつき、その手で水を補給したり物を食べたりしたのがまずかったのか。考えられる要因はいくつもあった。しかし、この腹痛と下り腹を止めないことにはレース続行できない。下痢止め薬を服用することに決めた。腹痛ぐらい大したことはない。別に死なない。死ぬこと以外はかすり傷。

 

(56km~64km)

下痢はおさまったが、お腹がずきずきと痛む。腹痛のために歩きそうになる。山村部に入ると村人が一家総出で応援してくれる。ランナーを目にするのは初めてで大興奮なのだ。

 

歩いていてはいけない。颯爽と走っている姿を見せたい。村人たちは”ランナー”を見に来ているのだ。”ウォーカー”じゃない。よろよろと苦悶の表情を浮かべながら歩くランナーが来たらちょっとがっかりするだろう。それも上位で来たランナーが余裕のない表情で走ってきたら尚さらがっかりだろう。僕は手を挙げ、精一杯子どもたちの声援に答えた。

 

僕らはここではヒーローなのだ。

 

左足のまめが完全に潰れ、皮がめくれたことがシューズの中でわかった。一歩足を出すたびに脳に激痛が走る。疲労している脳がしゃきっとしてちょうどいい。骨折やアキレス腱断裂のようなケガは即レース続行不可につながるので絶対に避けなければならないが、足裏のまめぐらいは死なない。死ぬこと以外はかすり傷。

 

この日は誰一人にも抜かれていなかった(前方を走るランナーとの抜きつ抜かれつはあった)。スタートしてからはずっと「5番だ」と給水所で言われ、5番を維持し続けてきた。このまま逃げ切れるだろうか?

 

「(表彰はトップ3まで。でも…ひょっとしたら大会によっては5位表彰まであるかもしれない。年代別表彰があったら3位になれるかもしれない。)」そう考えるとここで気を抜くわけにはいかなかった。ここまできて1人にでも抜かれて、5番が6番になったら僕はあとあとで後悔することになるだろう。

 

負けたくない!

 

次回、第1回ベトナムトレイルマラソン Vietnam Trail Marathon4レース後編2完結編。

Never Stop Running.

 

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