エピローグ
織衣とレイヤスフィールそして慎一を背に負った露が大空洞の入り口を抜け出す。
何故か気まずい沈黙の中で口を開けたのは露だった。
“じゃあ俺は先に帰ろ。ライダ―”
沈黙を飛ばすような軽い口調でライダーを呼ぶ。
多分この五日間で出来た新しい習慣だろう。
自分も知らないうちにライダーを呼んだのが恥ずかしいのか悪口を出しはじめる。
“Fuck!本当に役立たずだな。こんな時に居たらRockなものを。ちっ、歩くしかねぇか。”
その悪口に返事する相手ももう居ない。
それを気付いた露はもう一度呟くように悪口を出して、階段を下りる。
残ったのは二人のマスター、いや、聖杯戦争が終わった今は単なる魔術師だろう。
ホムンクルスだった彼女、レイヤスフィールさえも。
織衣とレイヤスフィールは柳洞寺の階段を下りて決めてない目的地に向かう。
まず決まったのは約六時間くらい後の朝の飛行機を乗ってロンドンに変えるってことだけ。
歩く途中、織衣が口を開ける。
“ちょっとゆっくり歩こう、レイヤ。急いでなくてもいいでしょ?”
それにレイヤスフィールが頷き、二人並べて冬木市を歩く。
もう今日が終わろうとしている十二時に近い時刻、七人のマスターと七人のサーヴァントが戦った聖杯戦争が終わった日の夜はとっても静かだった。
中をいっぱい詰めた満月が照らす地上を氷のように冷たい冬の空気が頬を通り抜ける。
ふと隣の少女を見ると彼女もこっちを見つめてくる。
“私のせいじゃないですよ。”
冷たい風に自分を見つめたと思ったのか変なことを言う彼女を見て笑う。
それに彼女も同化されたのか一緒に笑った。
しかし頭の中では色んなことを考えている。
セイバーが消えた後、レイヤに手を伸ばした瞬間なにかが起きたのは確かだ。
そしてそれによって彼女はもうホムンクルスではなくなった。
それと同時に体中にあったサーヴァント七人分の魔力がなくなったが、彼女自身の魔力は未だに残っている。
それで気付いたのだ。
聖杯によって私の願いを、彼女が人になるのを叶えたのだと。
既に願いは叶えたと言うのに今、この夜にもう一つの願いが叶えるのであればこの時が続けるようにと思い空を見ながら歩いてく。
空には多い数の星がきらめいていて今にでも落ちそうだ。
どうやらそれは隣に居た彼女も一緒だったようで、
“ねえ、織衣。流れ星、見たいですね。”
そう言い彼女が笑いながら指を空を向いて線を引く。
“そうね、見れたらいいね。”
冗談で振りかざした指先。
綺麗な尾を引いた。
それはまるで魔法のようで。
その光景にわあ、と驚く彼女の笑顔はあまりにも幸せそうで、私も一緒に笑ってしまう。
あまりにも幸せな時間、いくら時間が経っても今の光景は忘れないだろ、と思いながら雪が積もった冬木市を歩き出した。
聖杯戦争が終わった次の日、会社で霜からの連絡を受けて間桐家に戻って来た間桐慎五は慎一の部屋のベッドで横になっている自分の息子を見て霜の肩を握って叫んだ。
“お前のせいだろ、慎一を戻せ、霜!!”
慎一は心臓が呪いに浸食されて起きれなくなった。
現代の呪いでないこれを解けるのはできないだろう。
慎五はそれを聞いて霜に叫んでいるが、霜のせいでないことくらいわかっているはずだ。
それでも目の前にある、心臓が止まった息子を見てできるのはただ誰かを恨むことだけだっただろう。
それをわかるからこそ、恨まれている霜も、部屋の外でそれを聞いている露も何の言い訳もなしでそれを聴いているのであろう。
やがて体力が切れたのか座り込んだ慎五を向かって霜が口を開ける。
“慎五兄さん。俺、外国に行こうと思ってる。”
それを聴いているのかどうか俯いてたままな慎五に霜は話を続く。
“露兄さんの言葉によると聖杯戦争はここだけでなく外国でも起きているらしい。だから俺は露兄さんと一緒に行くことにしたよ。その間、慎一を頼んでいい?”
慎一の心臓にかかれた呪いを解けるために聖杯を探しに行くと言う霜の言葉に慎五が頭を上げる。
“バカだな、霜。慎一は俺の息子だ。俺が世話を見るのは当然だろう。”
涙でぐちゃぐちゃになった顔でやっと言える慎五の返事に霜は微笑み、頷いてから部屋を出る。
露がその後ろをついて行こうと脚を動くと慎五の声が聴こえて来る。
“露と言ったか?俺の弟、霜を頼んでいいか?”
今まで恨んでいた自分の弟を頼むと言う慎五の言葉に露が後ろを向いて彼を見つめる。
そして霜が微笑んでいた時よりも大きく笑った。
“霜もあほだが、あんたもあほだな。霜は俺の弟でもあるぞ。死なせるわけねぇだろ。それにもう家族が死ぬのはごめんだからな。”
“ああ、安心した。”
それでもう話はなさそうだから露は部屋を出ようとして、ふとなにか思い出したのかまた慎五を見て口を開けた。
“慎五……兄。Fuck、無理だ、無理。とにかく慎一の体のことは遠坂に協力を求め。そしてあんたも無理するなよ。せっかく聖杯を持って来たのに死体が増えていたら困るからな。”
それで終わりなのか、
“じゃあ、またな、兄貴。”
そう言い扉を閉めて離れる露。
それを見て慎五はちょっと笑いながら呟く。
“はは、弟が一人増えちゃったな。”
その後、二人の日本人コンビがロンドンの時計塔近くで起きた聖杯戦争で姿を現れたのは、今から遠くない話である。
何日前から新都の私立病院、円のお父さんが院長でいる病院の二百一号の二人室を一人で使ってる女性がいた。
“うう、おい、水……。”
普通なら二人で使うべきの部屋を一人で使ってる理由はたった一つ。
彼女が一般人にバレてはいけない魔術師だからだ。
普段は自分の金髪を結んでるけど患者だからか髪を結んでいない彼女の体はもう全部治って傷をは見えないけど左腕だけは見当たらなかった。
それでも既に苦痛はなくなったのか平然と水を飲みたくて誰かを呼んでいる。
“なんだ、円!え、居ない。どこ行った?”
何回呼んでも返事がない相手に結局彼女は自分の体を起こした。
それと共に待って居たかのように相変わらず髪の色以外は赤な円が入って来る。
“あ、起きた?”
上半身だけ起こしているリノを見て走って来る円。
それを見てリノが文句を言う。
“遅いぞ、どこ行ってきたの?”
話しながら水が入ったペットボトルを指すと、円がそれをリノに渡した。
リノが水を飲むのを見ながら円が答える。
“あー、衛宮さんに電話して来たよ。”
その言葉に、ぷう、と飲んでいた水を空中に噴射するリノ。
“ええ、汚い!”
“いや、待って、今なんて?”
布団に広がった水をタオルで拭く円にリノが聞いたら彼が答える。
“うん?電話して来たって。”
“いやいや、大事なのはそこじゃなくて!”
“あ、衛宮さん?”
その言葉にものすごく首を縦に動くと円が微笑みながら話を続ける。
“衛宮士郎さん、リノさんが傷ついたって言ったら遠坂、いや、今は同じ衛宮だった。とにかく凛婆さんと来るって言ってたから。”
“うそ?!なんで言ったの?!いや、それよりまさか―”
“うん、もう病院の前だって、何号室か聞かれ―けえっ”
円が話を終わらせる前に、リノは自分が傷ついているのも忘れたかのように、右手だけで円のむねくらを取る。
その途中、扉が開ける声が聴こえて、そこには懐かしい顔が二人。
その顔に、リノは次のように反応するものであった。
“げっ、マジかよ。”
その後、どこかの人形術師に会って彼女が義手を付けるのは、今はまだ遠い話である。
極東の地で一週間くらいの聖杯戦争が起きて、ちょうど一週間が経った昨日、全てが終わった。
こういうとなにが終わったのかわからないから説明すると、聖杯戦争が終わった次の日の朝、私とレイヤはホテルを整理して駅の近くでタクシーに乗り空港に向かった。
そこで飛行機を乗ってなんと十二時間二十五分もかかってロンドンの時間で午後一時くらいにロンドンの空港に着いた。
どうも八時間と言う時差が少なくはないが、もう何回も経験している私としてはどうってことない、それにレイヤも問題なさそうだったのでそのまま時計塔に向かった。
時計塔に付いてそのまま地下にある自分の教授室にいるはずのロード・エルメロイⅢ世に訪ね、聖杯戦争の結果を知らせた。
その後は既に冬木市に根元が発生した事実を知っているはずの偉い奴らがなにを持ってくるかわからないからエルメロイⅢ世ではなく今は隠居したエルメロイⅡ世が直接自分の弟子たちを集めたらしいけど、そこは私と関係ない話。
報告の後、近所にある自分の寮に戻って来た。
そのその助手や助けを呼べる時計塔の特徴上、二人でも住めるほど大きな部屋だったからレイヤが住むところに関しては問題ない。
そうやってなんの問題なく、昨日の夜、ロード・エルメロイⅢ世がお偉いさんたちの意見をまとめて私に持って来てくれた。
しかしそれよりも、
“私、イギリスの旅行してみたいです。”
と言った彼女の願いを叶えるため、まず彼女の気が向くまでは―――
“織衣、何していますか?早くしないと先に行きますよ?”
あの日の、初めて見た時のような服を着ているレイヤはあの日と同じくあまりにも輝いていた。
それを目の中に刻み、ジャケットを持って立ち上がる。
“今行くから待って、レイヤ―”
―――目の前の幸せを満喫するとしよ。
Fin.