01
太陽が明るく光っている午後の2時、雲一つない青い空に太陽だけが地上を照らしてる。
きっと普通なら誰もが好きそうな天気だ。
なのに誰もが残念そうに空を見つめているのはきっと日付のせいだろ。
12月25日。
誰もが空を見て雪が降るのを願う特別と言えば特別な日だ。
そんな金曜のクリスマス、昨日から今まで休む時間も無しでケーキを売り続けているアンティークなケーキ屋さんの中でケーキを見ている男の人が一人。
珍しい銀色の髪をワックスで前髪だけ立たせてる、強そうなイメージの男はケーキを眺めていた。
20代後半から30前代くらいに見える彼の身長は170㎝を超え、白いコートに赤いズボンを履いている。
さっきから店員さんの目が彼から離れないのはそのファッションのせいと言いたいところだが、本当は彼が右手に持っている物のせいだろう。
なぜか彼は右手に刀が入っているような鞘を持っていた。
そんな見た目によらず彼は苺ケーキを注文して、空いていた左手にケーキを持って店を立ち去った。
右手には刀、左手にはケーキを持って一番好きな苺ケーキを食べる想像をしながら自分でも知らないうちに笑いながら道を進んだ。
クリスマスの繁華街だからか、普段より人が多いぶつからないように気を付けて歩き出す。
その途中左ポケットに入ってるスマホが鳴り始めた。
‘あ、よりによってこんな時に。運が悪いな。’
両手がふさがった状況だったから仕方なく隣のビルに入りちょうどあった椅子にケーキが入った箱を置いて座る。
スマホを手に取って番号を見たら初めて見るものだった。
080-114-7512、AAD-GEAB? AAD-GEL? AN-GELか!
‘マジか、こいつ。変な番号使ってるな。’
そんなことを思いながら電話に出る。
“もしもしー”
沈黙。
なぜか電話の向こうからの返事が来ない。
イタ電かと思い、切ろうとしたら、ドクン、とする音と一緒にビルが揺れて来た。
“うわっ!”
べたっとする音。
何かが潰れた音で脳裏に赤い何かがかすったが、頭を振ってそれを振り落として音が出たところを見ると、
“あー、くっそ”
苺ケーキが入っていた箱が下に落ちていた。
それも横向きで。
“いきなり悪口はどうかと思いますよ?”
うん?
ケーキを見て一人で呟くとなぜか電話の向こうから話しかけて来た。
“あ、わりぃ。そっちにしたんじゃねぇから気にすんな。それより見ない番号だけど、エンジェルとはまた、、いや、悪口ではないけど。ってあんた誰?”
“誰って、エンジェルって知ってるのに聞いてるんですか?”
相手はまるで自分が天使でもあるかのように言った。
あり得ねぇ、と思っていたら自称天使が話した。
“それより今おしゃべりしてる場合じゃないですよ、クロウ。今すぐあなたの家に戻ってきなさい、今すぐ!では後ほど。”
あ、切られた。
誰か知らないけど自分の言うことだけ言って切るとは礼儀になってないな。
“って言うか電話しなかったらすぐに付いてるわい、馬鹿垂れが。”
切れたスマホに悪口を言ってからポケットにスマホを戻す。
さあ、帰ろうか、と立ち上がるとふっとなにかが足りない気分で下を見たら、
“あ”
落ちていたケーキは未だに変わらないままだった。
ケーキの箱を持ち、さっきの揺れのせいか刀身がはみ出ていた刀をちゃんと鞘にしめて歩き出した。
結局、潰されてるケーキが入ってる箱を左手に持ち、右手には刀を持って家に向かった。
このコーナーを曲がるとすぐ家だ。
クリスマスの外は歩くところでは無いな、と思いながらコーナーを曲がると、
ぐさっ――
黒い帽子に黒いサングラス、黒いスーツを着てる男とぶつかる。
腹に何かが刺された気がした。
男と距離を取って腹を確認するため下を見ると、そこには赤い血が――
“あ、すみません。どうしよ。これ、洗濯代、、”
左手にアイスを持っている男が赤色のアイスを口にしてから財布を出した。
どうやらアイスとぶつかったようだ。
“いや、いい。大丈夫。ズボンと似合うし。”
男に挨拶するよう目礼して家に進む。
兵庫県神戸市にある「ホテルモントレ神戸」の十階ホテルが俺の家だ。
要するに家無しのホテルくらしってことだ。
とにかくホテルに入って二階まで登り右にある三番目の扉の前に立つ。
もう既に潰れてるケーキを下に降りてズボンのポケットから鍵を出して扉を開く。
“あれ?開いてるじゃん。クリスマスだから早く終わった?”
扉を足で止めたまま下に置いたケーキを持って部屋に入る。
“俺、来たよー”
暗い。
外はクリスマスと似合わずあまりにも明るいのに、部屋の中はあまりにも暗い。
あの暗い部屋の真ん中だけが闇から逃れていた。
真っ赤なものが置かれている。
それはまるでよく実った林檎のような人の頭だった。
おかげで俺はもう一度、ケーキを落としてしまったのだ。
まあ、いいか。
もう食べる人もなくなったし。
“意外と落ち着いてますね。”
後ろから聞こえる声はさっき電話した女のものだった。
“うん?いやいや、これ見ろよ。ケーキ落とすくらい慌ててるけど?”
後ろ向いて女を見ながら落としたケーキを指しながら言った。
でもこれは女と言うよりは、ちびだ。
身長150㎝くらいかな、歳はどう見ても十代。
って言うかなんかコスプレでもしてるのか、金髪にコート、スカート、ストッキング、靴全てが白い、病気か?
あ、そういえばエンジェルだっけ?
どうやら中二病のようだ。
“失礼ですね。背はしょうがないけどこう見えても五百歳も超えた本物の天使研修ですけど。”
考えでも読めるのか反論してくる自称天使研修。
“いや、だから本当ですって。”
“馬鹿が。研修とは本当って言えねぇんだよ。それよりなんだ、お前が本当に天使だとしてもなんか理由があって来てるんじゃねぇの?ぱぱっと言ってよ。いや、そもそも死んだばかりなのにお前が電話しなかったら今幸せにケーキ食べてるさ。結局お前のせいじゃねぇのか?はあ、これだから研修は。”
俺がのべつ幕無しに話し続けると天使って奴はぼやけていた。
そりゃあそうだろう。
間違ったことは一つも言ってないから。
“過ぎたことはいいや。それで?なにしに来た。”
はっ!と言う音が聞こえそうに気を付ける自称天使が口を開けた。
“いや、特になにかあるわけではないですけど。”
“あ、そう?じゃあいいや。ここの整理しとけ。天使だからできるだろ?じゃあ―”
天使って奴はほったらかし、手には刀だけを持って部屋を立ち去る。
あっ、と言う声と共になにかを叫ぶ自称天使。
どこかの住所、たぶんそこに彼女を殺した奴がいるのだろう。
“オッケー、やってやるさ!”
聴こえるかはわからないが、大きな声で感謝を伝えてから走り出した。