プロローグ
キキィ――――――
“―――”
夕焼けになったところ。
横断歩道を渡る途中、いつかF1大会で聞いた、タイヤがアスファルトを掻く音が聞こえてくる。
音が鳴ってるのは右側。
走っていたダンプトラックが速度を落とせないのか、自分の信号が赤色になった今でも俺を向かって走って来る。
運転席に座っている運転手さんとは違い、車は止まる気は無さそうだ。
だからと言ってハンドルを回すには信号を待っていた人たちの数が多かった。
渡る人はたった一人。
自分だけだった。
こんな状況で思い出すのは変にも、
‘あ、スマホ見ながら歩くなって言われたのに、聞けばよかった―’
よく聞いていたお母さんの言葉だった。
そんな俺の考えを知るかどうか、知るわけないけど、トラックは止まらずに、そのまま――
キキィ――――――
“―――”
パッ、と体を起こした。
さっきまで横断歩道を渡っていたのに、ここは……。
“うわ、うるさい!何やってんだ!”
“ハハハ、何って見ればわかるだろ?黒板掻いてるじゃん。”
黒板の前に立っている学生とそれに叫ぶ学生。
学生だ。
制服を着た学生たちが騒いでいた。
まだ頭が回らないのかぼーっとした精神できょろきょろ見回すとさっき叫んでいた学生が俺の前に来た。
“ようやく起きたか?昨日寝てない?一時限目と二時限目ずっと寝てたけど。”
一時限目、二時限目?
あ、そうだ。
横断歩道を渡る前はきっと教室に居たのになぜか横断歩道を歩いていた。
あり得ない状況。
それが意味するのは当然、
“うわー、夢かよー。”
とっさに緊張が解けて机にもたれ掛かった。
トラックに轢かれて死ぬ夢とは縁起が悪い。
“夢?たしかにそんなに寝たら夢も見るさ。どんな夢だった?”
“あ、それがね。”
待った。
話そうと思って相手の顔を見て、ふっと気付く。
なんで顔がよく見えないんだろう。
ピントが合わない望遠鏡で月を見るようにぼやけている。
そんな俺のことを知らない相手は首をひねる。
“なに?なんで止めるの。”
“いや、実はさ。こんなこと言うと変だと思うだろうけど今お前の顔がよく見えない。”
なにが起きたか知らないけど言ってもいいと思ったから事実を話す。
“お前は俺の頭が可笑しくなってるんじゃないか思うだろうけどさ―”
変人扱いになるのがいやだったのか、自分の知らないうちに言い訳をしようとする。
そんな俺を見て奴が話した。
“何言ってるんだ?眼鏡かけてた奴が眼鏡かけてないから見えないのは当然だろ、あほか?”
“あ”
奴の話に気付いて鞄から眼鏡の箱から眼鏡を取り出す。
寝る時に眼鏡が不便で外していたことを忘れていた。
どうやら夢のせいか調子が可笑しそうだ。
気を取り戻すために頭を二回振って彼を見る。
“今日変だな。大丈夫なのか?”
“ああ、もう大丈夫、、あれ?”
あー。
本当に、どういうことだ。
今度は名前だ。
奴の名前が思い出せない。
新学期でもなく、もうすぐ学期が終わる一月と言うのに、それを本人に言えるわけでもないし、どうしよ。
いろんな名前を思い出して悩んでいたら、
“今度は名前がわからないと言うのはないだろうな?”
どうやらバレたみたいだ。
苦笑いしながら頷くと、彼が呆れたように言った。
“ノイス・リ。どうしたら友達の名前も忘れるんだ、お前は。”
ノイス・リ。
あ、思い出した。
特別な名前でリ君って呼んでたっけ。
“はは、ごめんごめん。”
申し訳なさで笑いながら言うと、
“まさか自分の名前は忘れてないだろうな?イーグル。”
真剣に聞いてくるリ君。
“いや、まさか。さすがに自分の名前は忘れないよ。”
あり得ない話に手を振りながら返答する。
それにリ君は、それはよかった、と笑う。
そんな話をしているといつの間にか時間になったのか予鈴が鳴る。
予鈴に合わせて学生たちが席に戻る。
もちろん、リ君もそうだ。
そうやっていつの間にか夢の記憶は消え、授業が始まった。
予鈴がなる。
授業の記憶は残らないまま、放課後になった。
ぼっとしていると、リ君から話しかけて来た。
“イーグル、今日は部活だっけ?”
“部活?”
“あれ?違った?今日は金曜だから部活だろう?”
部活。
俺って部活に入ってたっけ?
“えっとー、なんだ、、”
よく思い出せなくてはっきり言えないと、リ君がうっとうしそうに言った。
“またかよ。今日本当に変だな。お前、オカルト部かなにかで金曜は行かないとだめって言って俺と一緒に帰ってなかったじゃんか、また忘れた?”
“オカルト、、あ、そうだ!”
オカルト部。
確かに加入にたばかりだけど週一回は来てと言われていた。
“まさかのために言っておくと、部室は二階だからまた忘れるなよ。”
念のため心配してくれるリ君の言葉にありがとうと伝えると、リ君は俺の肩を二回叩いては手を振って教室を出て行った。
俺もぼっとせずに早く行かないとー。
急ぐ必要はないけど、リ君との対話で遅れた時間を埋めるために早歩きで部室に着く。
“こんにちは―。”
誰かが居ると思い教室に入りながら挨拶をする。
しかし何故か教室の電気は消され、真っ黒だ。
厚いカーテンが閉じている教室の中はすぐ前も見えないくらいに真っ黒だった。
光は俺が入った扉から入るくらい。
そんな暗い中、真ん中の席に座っている人が一人。
“来たか、入りたまえ。”
“あ、はい。”
扉を閉じると、それこそ闇だけだった。
全く見えない。
“あの、、”
“うん?なんだ―?”
“見えないんですけど。”
“そりゃあね。光が無いからね。”
あまりにも当然な返事で頷く。
光がないから暗いのは当然だった。
“いや、そうじゃなくてなんでこうしてます?電気付けていいですか?”
“うーん、そうしようか。”
特に何かを思っていたわけでは無さそうで頷く相手。
カーテンも開け、電気も付ける。
“やっぱ暗いのがよくない?”
明るいのは嫌いなのか、オカルトの雰囲気じゃないな、と文句を言う。
“いや、それでも全然見えないんじゃないですか。ところで別の部員は?”
“帰らせたよ―。”
“はい?なぜですか?今日は部活ないですか?”
“いや、元々はしようと思ってたけどさ。今朝運よく、いや、運悪く?君を見かけたけどさ。なんかこう悪い気運に包まれていたから。それで念のため他の子たちは帰らせてもらったよ。”
……。
いや、まあオカルト部の部長らしい言葉ではあるけど、、
“悪い気運ってなんですか?”
“なんでいうか―。ふわっと浮いてる感じ?まるで二次元的な?そんな感じ―。”
わかるだろう?と聞く部長に一応頷くけど、全くわからん。
“とにかくそういう理由で今日は活動中止。それで先に知らせようと思って、一時限目終わって行ってみたら寝てたからさ。そのまま帰ってたけど、今まですっかり忘れた、あはは。”
“えっと、じゃあ帰っていいですか?”
“あ、うん、まあ、そうね。帰っていいよ―。でも気を付けてね。知っているだろうけど悪い気運だからさ。”
部長の話に一応もう一度頷いてから教室を離れる。
こうなると知ってたらリ君と帰ればよかったな、と思いながら歩いてると、
“イーグル?なんだ、もう帰るの?”
リ君が呼び出した。
“お、リ君。そうだね、今日は休みって感じらしい。”
“ちょうどいいな。一緒に帰ろうよ。俺も今から帰るところだしさ。”
“オッケー。”
夕焼けがに照らされる学校の中を二人で歩く。
二人を止める者はなく、時間が経つまま二人は歩き出す。
学校を出て家に帰る道、横断歩道の前にリ君が話していたことを止めて言った。
“じゃあ、またな。”
“え?”
なんで急に挨拶をするのかも知らないまま疑問に思うと、呆れたかのように。
本当に、この表情を見るのが今日で何回目か。
“え?ってなんだ、え?って。俺はこっちだろ。しっかりしろよ。それともなんだ。設定か?記憶喪失の設定?”
文句を言うような彼の言葉に俺は苦笑いするだけだった。
そうやって変な笑いでリ君と離れ横断歩道の前に立つ。
赤信号。
ちょうど変わった信号の前に立っていると、一人や二人、人が増えていく。
三分も過ぎない時間だけどぼんやりと待つには退屈な時間。
ポケットに入ったスマホを出してネット記事を目にする。
事故死、死体遺棄、火災などの俺とは関係ないニュースの記事を見ていると、いつの間にか信号が変わる。
青信号。
歩いていいと言う知らせ。
それにあんま考えずスマホを見ながら横断歩道を歩き始める。
キキィ――――――
“―――”
夕焼けになったところ。
横断歩道を渡る途中、いつかF1大会で聞いた、タイヤがアスファルトを掻く音が聞こえてくる。
音が鳴ってるのは右側。
走っていたダンプトラックが速度を落とせないのか、自分の信号が赤色になった今でも俺を向かって走って来る。
運転席に座っている運転手さんとは違い、車は止まる気は無さそうだ。
だからと言ってハンドルを回すには信号を待っていた人たちの数が多かった。
渡る人はたった一人。
自分だけだった。
こんな状況で思い出すのは変にも、
‘あれ、これどこかで――’
デジャヴ。
そんな俺の考えを知るかどうか、知るわけないけど、トラックは止まらずに、そのまま――
キキィ――――――
“―――”
To be continued……。