04
パッ、と体を起こした。
さっきまで横断歩道を渡っていたのに、ここは……。
“うわ、うるさい!何やってんだ!”
“ハハハ、何って見ればわかるだろ?黒板掻いてるじゃん。”
黒板の前に立っている学生とそれに叫ぶ学生。
学生だ。
制服を着た学生たちが騒いでいた。
まだ頭が回らないのかぼーっとした精神できょろきょろ見回すとさっき叫んでいた学生が俺の前に来た。
“ようやく起きたか?昨日寝てない?一時限目と二時限目ずっと寝てたけど。”
一時限目、二時限目?
あ、そうだ。
横断歩道を渡る前はきっと教室に居たのになぜか横断歩道を歩いていた。
あり得ない状況。
それが意味するのは当然、
“あり得ない。”
方法などないってことだった。
どうしてもこの地獄のような状況から逃がす方法が思い出さない。
無限に繰り返す日常。
そこから逃げる方法はないのか?
繰り返すほどに心境は鋭くなり、他人の言葉に耳を向ける心は持たなかった。
だから気付かなかっただろう、この状況を簡単に抜け出す方法を――。
放課後になり俺は部室に向かった。
“ふーん、そうなんだ?”
席を向き合わせ座ってる部長の口から出た言葉に緊張とは爪のあかほどもないものだった。
それとは逆に俺はまた弾かれるのを考えたら心臓が居たいくらいだ。
“そんな余裕ないですよ。もう何回か数えたのも忘れたくらいですから。”
実は午前から話したかったけど部長が授業を受けるって意地を張ったから仕方なくこの時間になった。
だから死ぬまで残り7時間もないこの時間に部長と話しているわけだ。
“それで前も私に手伝ってもらったってことだよね?”
“はい、そうですよ。まっっっっったく役に立たなかったけど!”
さっきまで前日の、いや、以前のことをわからない部長にサクっと話した。
それでも人は変わらないのか相変わらず呑気な部長。
“それで他の方法はないですか?家に行かないのはダメでしたけど。”
“さあー”
“また出た!さあー、これパターン変えませんか?”
全然人の言葉になんも考えて無さそうな台詞に叫ぶと、
“さあー”
同じことを言ってくれる部長だった。
“あー、まあいい!ちゃんと考えてみてくださいよ。もう死ぬのうんざりだから。”
“うーん、じゃあトラックが来れないところに居ればいいんじゃないの?建物の中とかー”
“お!それいいですね。さっすが部長、ありがとう!”
やっぱ部長は頭がいい。
これをすぐ考えるとは。
あ、でもまたダメだったらどうしよう。
挨拶をして出ようとした体を戻しまた部長の前に座る。
考えてみたらまたダメだった場合今までの説明をするのに時間がかかるはずだ。
この際に全部聞いて行こう。
“もしかしてそれ以外はないですか?”
“さ―”
“オッケー!さあー禁止!それ禁止な!”
“……て”
どう考えても路線変更に見える言葉を無視してまた考え始める。
ふむ、やはりトラックを避けるのが一番だろうな。
“ところでさ。”
“はい?”
色々考えていると何故か部長が先に話しかけた。
今までなかった初めてのパターン。
それも結構慎重な声だ。
いよいよこの日常から抜け出せるのか?!
“私もう帰らないとダメだけど。”
“……。”
……。
“今家に帰るのが問題かよ?!俺、死ぬぞ!!”
部長の言葉に今まで重なっていたストレスが爆発し、俺も知らないうちに、そう、俺も知らないうちに部長の胸倉をつかんで振った。
それに部長はそのまま揺れていて、まもなく口を開けた。
“ところでさ。”
“なんですか?”
真面目な表情でなにか言おうとする部長の雰囲気に一応動きを止める。
でももしここで本当に家に行くとか言われたらこのまま一緒に死ぬのも悪くなさそうだよな、ふふふ。
“今なんか怖い考えしてない?”
“え?いやいやいや、まさか。それより話は?”
考えを読まれたようだが首を振って不定する。
部長は変なような表情を浮かべたけどすぐに真面目な表情で言い出した。
“こんなのはさ。根本的な問題を解決するべきじゃないかな?”
“根本、、?”
“うーん、、なんて言うか。トラックが走って来る原因とか?あるんじゃないかな?それとも呪いをかけた人とかいるんじゃないかな。だったらその人を始末するのが早いんじゃないかな?”
始末とか怖い単語が出たけど無視して考えてみる。
そういえば何事にも原因はあるだろうから、その原因を解決したらこのイラつくところから離れる!
“おお、さすが部長!頭がいい人は違いますね!”
“うーん、それより君の頭が―”
“はい、ストップ!それより今から原因究明会を始めましょ!”
部長の根本を貫く言葉で事件は進み始める。
“いや、進み始めるんじゃなくて、私帰るよ?”
“おっと、心の音が抜け出したか。でもだめです。”
“……。”
ジッと睨んでくる部長。
普段穏やかな人が怒ると怖いって聴いたけど、眼鏡の向こうの目が怖い。
しかし俺も負けるには行かない。
負けたら死ぬ、という考えで、実際に死ぬけどな、とにかくそんな考えで部長を睨む。
その後ちょっとしたトラブルがあったけど、なんとか説得して20時まで会議をすることになった。
“昨日とはなんか変わったことない?”
どうやら家に早く帰りたいようで、積極的になった部長の質問に答えていく。
“さあー”
“いや、パロらなくていいから真剣に考えて。”
部長の名台詞を出すと、部長が真面目に言い出した。
ちょっと考えてみたけど思い出さない。
“昨日と言ってもですね。俺にとってはもう何ヶ月の前の話ですから。そんなの覚えてるわけないでしょ?”
堂々とした返事に眉根をひそめる部長だったけど、すぐ別の質問を投げる。
“じゃあ繰り返すたびに話かけるとか、変に周りを回ってるとか、居ない?普通そんな人が犯人だからさ。”
“なんの犯人ですか?”
“そりゃあ、推理小説の。”
どうやら小説だと勘違いしてるんじゃないか?
“これ小説じゃなくて本当の出来事ですけど。”
呆れたように言ってみたけど、部長はまるでこの時を待ってたように手のひらで口を隠し指三つで眼鏡を治しながら言う。
“現実は小説より奇なり。それが現実って奴さー”
“部長、、正直ここオカルト部じゃなくて十二病部ですよね?”
“イーグル君、なにを言ってるの!もともとオカルトも十二病も同じもんだよ。考えてみて、右腕に黒竜が眠っているとかそれこそオカルトだろ?”
堂々とオカルトを無視してるような台詞を投げる部長。
そんな部長に一言しておきたかったけど、無駄に時間が経つような予感で無視する。
“そういえばリ君が結構話しかけてますけど。それはもともとですよ。親友ですし。”
“え、シカト?いいけど。じゃあリ君で決まりだね。殺―”
“ストップ!殺人犯にさせるつもりか?!”
“あ、そうね。じゃあ全部じゃなくて半殺しでどう?これくらいで合意しよう。”
……。
どうやら早く家に帰りたいようだ。
それにしても適当すぎじゃない?
“部長、適当すぎると帰れないですよ?”
“げっ、わかったよ。それより眼鏡拭き貸してー。”
どうやらさっき眼鏡を直すうちに指紋がついたのか眼鏡拭きを探す部長。
だからなんでバカなことをして。
“はい、ここ―”
“ありがとう。うん?君?これを放してくれないと。”
眼鏡拭き……。
俺はいったいいつから眼鏡をかけてなかったんだ?
“ま、、まって。部長、俺いつから眼鏡かけてなかったんですか?”
“うーん?今日はレンズじゃなっかった?”
“いや、きっと今朝は眼鏡をかけて、、”
変だ。
そもそも眼鏡なしでこうもちゃんと見えるはずがないのに。
なにかが変だ。
いったいいつからだった?
きっと最初にはかけていたはずなのに。
最初?
最初にはきっと――
「何言ってるんだ?眼鏡かけてた奴が眼鏡かけてないから見えないのは当然だろ、あほか?」
リ君の言葉。
そう、その時はリ君の顔がよく見えなくて眼鏡をかけたのに。
“で?今はよく見える?”
考える途中に部長が話しかけてくる。
それに、よく見える、と返事する前に部長がまた口を開けた。
“あ、変なのを聞いたね。眼鏡かけてないのに見えるわけないか。”
その言葉に、世界が滲んだ。
絵に水でも流したかのように、とっさに形がぼやけて、やがて全てがうまく見えなくなる。
結局鞄から眼鏡を出してかける。
そうすると元通りに戻ってきた。
“いったいどういうことでしょ、部長。今までは眼鏡なしでもうまく見えたのになんで、、”
“それがこの世界の攻略法じゃないかな?”
“攻略法?”
小説の次はゲームと来たか、、
あり得ない話にはてなを浮かぶと部長が話し続ける。
“今まで眼鏡をかけなくても見えたように実際にはあり得ないことが起きていて一日が繰り返しているってところじゃないかな?”
“だとすると、このような異常を全部見つけると、、”
“元に戻るかもってことだね。”
これは吉報だ。
異常、眼鏡をかけなくても見えるような異常現象か。
“でもそれをどう探しますか?”
“さて。”
“それも禁止しましょうか?”
笑いながら最大限の怒りを示すと部長が返事した。
“いや、今回は考えがこもったさてだったから許して。それよりなんかない?”
異常現象。
うーん、わからない。
“全然わからないんですけど。”
“はあ、、なら仕方ないね。次回までの宿題にして今日は帰ろう。”
結局根本的な解決はわからずに部長と別れる。
それでも眼鏡という手掛かりは一つ見つけたから、これからなんとかなるだろうという希望が生まれた。
諦めなければ、なんとかなるさ。
どうせ終わりがない世界だから。
“それよりまずは今日のトラックを避けてみようかな!”
普通のトラックがなら来れない場所を思い出してみる。
そうして一番いい場所を見つけて隠れる。
トラックが出たら隠れている理由はないだろうけど、トラックからじゃなくて、
“あれ?そういえば警備っていたっけ?”
もしかしたら現れる警備から見つからないように暗い教室の中で引っ込んでいる。
トラックが飛ぶわけでもないし二階なら十分だろう。
席を決めてスマホを出す。
いつの間にか23時を超えていた。
“もうすぐか。でも退屈だしゲームは昨日いっぱいしたし今日はネットでも見ようか。”
ネットに入るとニュースが目に入る。
事故死、幼児殺害、火事などの今の俺とは関係ないニュースのヘッドラインだけ読んでウェブ漫画を読み始める。
楽しい時間は結構早く進みいつの間にか24時になったのか、
キキィ――――――
“―――”
太陽は消え、月が地上を照らしてる夜。
いつかF1大会で聞いた、タイヤがアスファルトを掻く音が聞こえてくる。
音が鳴ってるのは右側。
いったいどこで現れたか、そもそもなぜ俺が横断歩道に立っているのかわからないが、
走っていたダンプトラックが速度を落とせないのか、俺を向かって走って来る。
運転席に座っている運転手さんとは違い、車は止まる気は無さそうだ。
だからと言ってハンドルを回すには、いや、十分回してもいい状況だと言うのに。
ハンドルは運転手の思う通りにはならず。
ターゲットは決まっている。
こんな状況で思い出すのは、
‘やっぱダメか。’
思った通りということだった。
そんな俺の考えを知るかどうか、知るわけないけど、トラックは止まらずに、そのまま――
キキィ――――――
“―――”
To be continued……。