05
パッ、と体を起こした。
さっきまで横断歩道を渡っていたのに、ここは……。
“うわ、うるさい!何やってんだ!”
“ハハハ、何って見ればわかるだろ?黒板掻いてるじゃん。”
黒板の前に立っている学生とそれに叫ぶ学生。
学生だ。
制服を着た学生たちが騒いでいた。
まだ頭が回らないのかぼーっとした精神できょろきょろ見回すとさっき叫んでいた学生が俺の前に来た。
“ようやく起きたか?昨日寝てない?一時限目と二時限目ずっと寝てたけど。”
一時限目、二時限目?
あ、そうだ。
横断歩道を渡る前はきっと教室に居たのになぜか横断歩道を歩いていた。
あり得ない状況。
“まあ、結局は原因探しってことか。”
“うん?何の話?”
独り言にリ君が聞いてくる。
そういえば眼鏡のことを始めに教えてくれたのもリ君だった。
リ君なら普段と変わったのがなにかわかるかも知れない。
“リ君、なにか普段と変わったことない?”
“普段と変わったこと?さあ?あ、そういえば―”
何か思い出したようだ。
どうやら今度こそここから逃げ出せる!
“その話聴いた?交差点で事故があったらしいぞ。”
“……。”
がっくり。
なにかと思ったら、今まで何度も聴いた話とは。
“そんなんじゃなくて俺と関係したものでさ。なんかない?”
“それ以外はよくわからないな。なんで?ところでキャラでも変わった?”
どうやらこいつ本当にロボットではないのか?と思うくらい事故とキャラに拘るリ君の言葉を否定しようとしたら予鈴が鳴った。
そのまま授業が始まり、俺はまた放課後を待つことになった。
放課後、いつものように部長に向かい以前までの説明済ます。
それに部長はいつものように頷いて相談モードに入った。
“それで異常を探している、と?”
“はい、なんか違い分かりません?”
“さあ、よくわからないな。周りに近づいてくる人とか居ない?”
“あ、それも言われましたけど。リ君しかないですよ。でもそもそもリ君はいつも一緒だったから。”
“そう?それでももしかしたらっていう場合もあるからね。犯人は親しい間にあるもんだよー。”
“犯人ってこれ小説じゃないですから。あ―”
反射的に反論したけど、失敗を気付く。
でも反逆の機会はある。
“現実は小説より奇なり。それが現実っていう奴だからですか?”
“嘘、、私の台詞、、”
“ふっ。”
……。
いや、今こんなバカな遊びをしている場合か?!
“こういう場合じゃないですよ。とにかくリ君は知らなさそうでしたけど。”
“いや、言ったの君だし、、ところで犯人が真実を教えるわけないでしょ?”
どうやら部長はリ君を疑っているようだ。
これがオカルト部員の感ってやつか。
“じゃあリ君が犯人だとしてその次は?”
“さあー”
もう聴きすぎて飽きた台詞に文句を投げる。
“リ君もそうだし、部長もそうだし、ロボットですか?なんでそんなパターン守ってるんですか?”
“うーん?リ君もそう?”
俺の言葉に何か気付いたのか真剣に聞いてくる部長。
それにリ君が話していた言葉を伝える。
交差点の事故に関したものとキャラに関した言葉。
それを聴いて部長が口を開けた。
“その事故って君の事故じゃないのー?”
“はい?いや、そんなわけないでしょ。俺、また生きてますよ?”
“君の一日は繰り返してるけど、ニュースは更新されてるかもよ?”
部長のあり得ない話にそんなわけないと思いながらスマホを出してニュースを見る。
事故死、幼児殺害、死体遺棄などの記事。
ヘッドラインだけ書いてある記事の中で事故死って書いてある記事を開く。
穂群原【ほむらばら】高校前で交通事故 高校生1人死亡。
16日午後6時12分ごろ、冬木市深山町にある穂群原高校の前の交差点で、ダンプトラックが高校生を弾く事故が起きた。この事故で学生は死亡した。
被害者は穂群原高校の3年生の田中さん(18)で、周りには田中さんの携帯と思われるものが落ちていた。
一方、警察は運転手が黄信号の時に通すために速度を落とせなかったと判断し正確な事故経緯を調査している。
……。
今日の18時12分?
なんだ、この馬鹿げたニュースは。
まだ18時もなってないのに、既に記事が出ていると?
混乱していると部長の声が聴こえてくる。
“やっぱり。これで解けたんじゃない?君、多分今昏睡状態じゃないかな?”
“いやいや、あり得ないですよ。俺が昏睡状態なのにここに居るって。そもそも事故ったのは田中さんで俺じゃ―”
あり得ない話で抗弁を並べると、部長は本当に変だと思う表情で、
“うん?君、苗字田中でしょ?”
あまりにも変なことを言った。
田中、、
俺がなにも言わずにいると、部長が気付いたように続ける。
“あ、名前さえ忘れていたんだね。田中鷲介。”
田中鷲介。
そう、部長の口から出たのは、間違いなく俺の名前だった。
“じゃあイーグルってなんですか?”
混乱に満ちている頭の中をどうにか落ち着いて聞く。
“あだ名だよ?私たちオカルト部員は全部あだ名って呼んでいるでしょ?私も部長に呼ばれてるし。”
“いや、それあだ名ですか?”
今の部長の話で思い出したけど確かにあだ名だった。
オカルト部員らしくあだ名を決めよう、と誰かが意見を出したのだ。
せめて自分が決めようって言う話になり、俺は鷲介の鷲であるイーグルに決めたのだ。
その時は格好いいと思ったけど今思ったら結構恥ずかしい。
そんなことを思っていたら部長が微笑みながら言った。
“そもそもイーグルなんて名前なはずないでしょ?日本人だよ?日本語喋りながらイーグルとかないわー。”
確かに言われてみればそうだった。
日本語を言いながらイーグルという名前になに一つの疑問も持たないとは。
“あれ、待って。じゃあリ君は?”
“さあー?私は会ったことないから知らないよー。”
確かにリ君と部長が会ったことはない。
クラスメイトと部活メイトって感じだ。
じゃあなんでリ君はあだ名みたいな名前なんだろう。
“君の名前と同じように忘れてるだけじゃない?”
“そうなんですかね、、?”
そうかも知れない。
今まで自分の名前を忘れていたから。
でも、
“考えてみたらイーグルって最初に読んだのも彼ですよ?”
そう。
最初にイーグルと呼んだのはリ君だったのだ。
“じゃあ君がリ君にイーグルの名前を教えていたか、それとも―”
犯人とか、と言う部長の言葉は今までと違い一番あり得そうに聞こえていた。
いつの間にか時間は流れ、初めて部長と一緒に学校を出る。
“そういえば俺死んだじゃないですか?ならここは死後世界とか?”
“そんなわけないよー。死後世界なんてあるわけないでしょ?”
オカルト部の部長がそれを言うのか。
“いったいなんの自身ですか、それは。”
俺が笑いながら言うと部長が当たり前のように言った。
“私がこの年で死ぬわけないでしょ?私は八十まで生きる運命だから。”
“何ですか、そのあり得ない話は。”
“酷いなー。あり得ないなんて。”
全然論理的じゃない話に反対意見を出しながら道を歩く。
“死後世界説よりは君の頭の中説のほうが可能性高いと思うよ、私は。”
“頭の中ですか?”
俺の疑問に部長が頷いて話を続く。
“考えよ、考え。心像とも言える。こうやって話してる私も君が考えている私ってこと。もしかしたらリ君という友達もそうかも知れないし。君さ、今まで私とリ君以外に話した人いる?”
部長の言葉で思い出してみる。
一日を繰り返しながら対話をしたのはたった二人。
リ君と部長だけだ。
“でもそれは親しい人が二人だけだから。”
“あ、ごめん。仲間外れ?”
“いやいや、そんなんじゃないですから。”
それにしてもなんで二人以外に話してみようとしてなかったんだろう。
考えてみるけど特に意味があるわけではなかった。
まあ対話の必要を感じなかったから、ってのが理由なら理由だろう。
“まあ、そんなものだから次はクラスメイトに話しかけてみてー。私の予想では無理かと思うけど。”
“なんでですか?”
“それはまだ確実ではないから次に話そうね。じゃあ、今日はここまで”
そう言いながら青信号になった横断歩道を渡る部長。
俺はふっと何かを思い出して部長の隣に走ってきた。
考えてみたら誰かと一緒に横断歩道を渡ったことはない。
いつも一人。
そしてトラックが現れるのはいつも一人の時。
そしたら他の人と居たらもしかしたら、と思った。
キキィ――――――
“―――”
夕焼けになったところ。
横断歩道を渡る途中、いつかF1大会で聞いた、タイヤがアスファルトを掻く音が聞こえてくる。
音が鳴ってるのは右側。
走っていたダンプトラックが速度を落とせないのか、自分の信号が赤色になった今でも俺を向かって走って来る。
運転席に座っている運転手さんとは違い、車は止まる気は無さそうだ。
だからと言ってハンドルを回すには信号を待っていた人たちの数が多かった。
渡る人はたった一人。
自分だけだった。
こんな状況で思い出すのは変にも、
‘これもダメか―’
どうやらダメみたいだ。
そんな俺の考えを知るかどうか、知るわけないけど、トラックは止まらずに、そのまま――
キキィ――――――
“―――”
To be continued……。