06
パッ、と体を起こした。
さっきまで横断歩道を渡っていたのに、ここは……。
“うわ、うるさい!何やってんだ!”
“ハハハ、何って見ればわかるだろ?黒板掻いてるじゃん。”
黒板の前に立っている学生とそれに叫ぶ学生。
学生だ。
制服を着た学生たちが騒いでいた。
まだ頭が回らないのかぼーっとした精神できょろきょろ見回すとさっき叫んでいた学生が俺の前に来た。
“ようやく起きたか?昨日寝てない?一時限目と二時限目ずっと寝てたけど。”
一時限目、二時限目?
あ、そうだ。
横断歩道を渡る前はきっと教室に居たのになぜか横断歩道を歩いていた。
あり得ない状況。
“まずは宿題か。”
“あれ?宿題あったっけ?”
俺の独り言にリ君が反応する。
そういえばなぜリ君なのか聞いてみよう。
“リ君ってさ。本当の名前なんだっけ?”
“本当の名前?”
俺の質問に変な表情を浮かべた。
“あだ名じゃなくて、本当の名前だよ。俺の名前も元々は鷲介でしょ?”
俺が自分の名前を話すと、彼が嗤い始めた。
そう、嗤ったのだ。
人をバカにしてるんじゃないかと思うくらいに。
“なんだー、どうして知ったの?最近部長と一緒みたいだけど部長が本当の名前で呼んだか?”
“なに?”
変だ。
リ君の台詞はおかしい。
最近?
一日を繰り返すのは俺だけで、部室に行くのは週に一回だけ。
なのにどうして――
“でもまた帰って来たのを見たら真実はまだか。まあ、もうすこしだ。頑張れよ、鷲。”
その言葉は確実にリ君がこの繰り返す日常にかかわっていることを示していた。
“それがいったいどういう―”
真実を聞こうとしたら予鈴が鳴る。
リ君はそれを聞き、言った。
“その話聴いた?交差点で事故があったらしいぞ。”
今まで何回も聴いた言葉。
名前を知る手がかりになったニュースのこと。
それがヒントだったら既に終わっているはずのもの。
それにもかかわらず、彼をそう言って自分の席に戻ったのだ。
放課後、授業が終わり教室の中にはリ君と俺だけが残っていた。
“いったいなんだ。何を知っている。”
追い詰めるような言葉に彼は笑った。
“何を知っている、か。お前はまだなにも知らないな、鷲。今日もオカルト部に行くのか?”
“どうしてだ。お前が全て知っているからもう行く必要ないだろ。”
俺の言葉にリ君がちょっとだけ眉をしかめて話す。
“俺に聞くと?それはダメだな。俺が知らせていいものだったらすぐにでもそうしたさ。俺もここから出たいんだよ、鷲。”
“出たい、と?”
既に俺が事故にあった本人ってことを知ってる彼がここから出たいって、、
じゃあリ君が犯人じゃないってことか?
“そう。俺はいつでも君がここから出ることを祈ってるよ。そうでなければ俺がわざわざヒントをあげる必要もないでしょ?”
ヒント。
そういうことは彼が今まで話してきたものがヒントだってことか。
“とにかくここまで来たらもうすぐだから頑張れよ。”
そう言い教室から出るリ君、俺は彼を呼び止める。
“待って、一個だけいいか?”
俺の言葉に脚を止めこっちを向かった。
そしてなにも言わずに立ってるだけだ。
でも行かないってことは聴くつもりはあるってことだろう。
“お前が犯人じゃないってことだな?”
“犯人?お前をここに閉じ込めたやつを言うのか?”
俺が頷くと彼は顎を撫でてはすぐ口を開ける。
“まあ、あえて言えば俺になるけど。犯人とはあんまりだな。全てが終わったころには感謝をもらっても足りないくらいだぞ。”
“感謝?”
“そう、感謝。まあ、さっきも言ったけどもうすぐだから頑張りな。”
それを言って今度こそ教室を離れて行った。
わざとヒントをあげてると言うリ君。
しかし答えは教えない。
ならいったいどうすればいいんだ?
普段よりちょっと遅い時間。
部長に今までの話を伝え、ここを離れる方法について話し合う。
“犯人は見つけたけど終わらない、か。そうね、どうすればいいのかな。”
全てを聞いた部長が困ったように言う。
“ですよね。ところで考えてみたら犯人がヒントをあげるとかおかしくないですか?しかも自分も早く出たいって言ってるし。”
“それもそうかな。とにかく君ができるのはヒントを基にゴールすることだけど、、”
そう言い、整理してみようか、と話を繋ぐ。
“詰まった時は整理が一番だよ。まずは世界だね。”
“世界ですか?”
部長が俺の疑問に頷いて話し続ける。
“うん、ここ。一日が繰り返すこの世界のこと。”
“整理もなにもそれが全部ですけど。”
“その落ちはトラックってことね?”
部長の言葉に頷く。
トラックに轢かれて終わる、繰り返す1月16日。
これがそのバカな世界だ。
“じゃあ世界は置いといて、次は異常について。”
異常。
横断歩道を渡るとトラックが走って来ることを言うと、部長が首を横に振る。
“それは世界のこと。異常は君に関したものだよ。”
“俺?”
“眼鏡、かけなくても前見えてたでしょ?それが一つ目。”
あ、そういうことか。
なら次は、
“名前ですね。”
“そう。二つ目は名前ね。何故か君は自分の名前である田中鷲介を忘れイーグルと思っていた。”
じゃあ最後は、
“記事ですね。”
俺が答えを言うと部長が頷いた。
事故のことが書いてある記事。
まだ起きてないことが既に記事になっているのはおかしい。
“でも一つおかしいことがある。”
あまりにも当然なことを言う部長に俺は当然なことを言う。
“そりゃあおかしいことですからおかしいですよ。しかも一つじゃなくて三つじゃないですか。”
“いや、そうじゃなくて記事のことだよ。”
何がおかしいのかわからなくて黙ってると部長が話を続けた。
“知らない?眼鏡と名前は君の認識から来た以上だけど最後は違う。”
“俺の認識?”
“そう。眼鏡をかけなくてもちゃんと見えるのと名前を勘違いしていたこと。二つとも君だけ勘違いしていたものだよ。でもニュースは違う。私にもはっきり見えているから。”
確かにそうだ。
前の二つは俺だけの勘違いだった。
眼鏡をかけなくても見えるのは俺だけがわかるものだし、部長は俺の名前を知っていた。
しかしこの記事はどうなのか。
俺だけじゃなく、部長、つまり俺じゃない人にも見えているこの世界での現実だ。
“なら―”
“そう。これは誰かがわざと書いたってことになる。まだ起きてない事件を時間さえ変えながらね。そしてそれが可能な人は―”
ネットの記事を時間を変えてあげ、そして実際に起きたはずのトラックの事故を知っている者。
それができる犯人はたった一人――
“お前だったか?!”
部長だけだ。
椅子から立って座っていた部長の胸倉を握って振る。
そうして犯人はあからさまになった。
残ったのはこの世界から出るだけだ。
“いやいやいや、そんなわけあるか?!あほか?!”
当然そんなわけなかった。
“まあまあ、冗談ですよ。”
握っていた部長を解放して椅子に座る。
“リ君ですかね?”
部長が呆れた顔で口を開ける。
“こんなバカな冗談を、、まあ、そういう可能性が高いかな。ってことはここになにかヒントがあるだろうね。”
“それを見つけたら終わり、ってことですね。”
部長は俺の言葉に頷いてからスマホで記事を確認する。
そこに書いてるのは前と変わらなかった。
穂群原【ほむらばら】高校前で交通事故 高校生1人死亡。
16日午後6時12分ごろ、冬木市深山町にある穂群原高校の前の交差点で、ダンプトラックが高校生を弾く事故が起きた。この事故で学生は死亡した。
被害者は穂群原高校の3年生の田中さん(18)で、周りには田中さんの携帯と思われるものが落ちていた。
一方、警察は運転手が黄信号の時に通すために速度を落とせなかったと判断し正確な事故経緯を調査している。
“どう?前と同じ?”
“はい、一緒だと思いますけど。”
“では探してみようか。”
記事を一つ一つ確認してみる。
日付、繰り返す一日だから信じ難いけどスマホの時計は16日になっている。
時間、トラックに弾かれるのは横断歩道を渡る時だから確実ではない。
でも最初に弾かれたのはそれくらいだったと思う。
とりあえず置いといて、場所、これも時間と同じく。
でも名前だけは間違ってなさそうだ。
俺の名前が田中鷲介ってことは確実に覚えているから確信できる。
“どうやらなさそうですけど。”
記事を確認している部長を見ながら言うと部長が首を横に振る。
なんか見つけたのか?
“死亡、この部分がおかしい。”
“え、なんでですか?”
“死んでるのにここに生きてるわけないでしょ?”
確かに文章としてもおかしいけど、
“そりゃあ死後世界だから―”
“はあ?なに言ってんの?死後世界があるわけないじゃん?あほか?”
なんで急に不良みたいな言い方なのか知らないんですけど。
“いや、あるかも知れないんじゃないですか?”
“いやいやいや、ない。絶対ない。だって私がもう死んでるわけないじゃん。”
前も聴いたけど、やはり記憶がなくても人は変わらないようだ。
“そうだとしても変わることありますか?”
名前と眼鏡の時みたいに死んだのが事実でなければなにか思い出すべきじゃないのか?
でもまだ、っていうか前にも聴いたけど変わったことはない。
それにトラックに轢かれて生きているわけがない。
だから死んだってことは変わらないと思うけどー
“でもそれ以外はなさそうだよー?”
部長はそう言いながら鞄を持って立ち上がる。
その行動を見ながら俺が首をかしげると部長も首をかしげては何もなかったように扉を向かって歩き出す。
“いやいやいや、おかしいじゃん!なんで急に家に帰るんだよ?!”
“え、それ私のだよ?”
“いやいやいや、これ俺がさっきに使いましたから。初めから読んでみたらすぐわかります。っていうかなんで帰ろうとするんですか。まだ解決してないのに。”
“うーん?そりゃあ時間だからね。それに私の意見はここで終わりだよー。君の勘違い説?実は生きてましたーって意見。”
そう言ってそのまま消える部長。
“答え出た?”
“うわ、ぴっくり。なんだ、いつ来た?”
もうちょっと考えてみようと思ったところリ君が現れた。
“部長が出るのが見えたから来てみた。どう?もうわかった?”
“いや、全然。”
“そう?部長のやつ早く出たから解決できたかと思ってたのに。まあ、部長の代わりとはなんだけど家に帰りながら話を聞いてあげようじゃないか。”
“なんで上から目線?”
“さあ、上に居るから?”
俺の質問にリ君は笑いながら教室を出る。
俺が自分のことを着いて行くのが決まったかのように。
それを見て俺は苦笑いをしてリ君に着き教室を出た。
冬だからか、いつの間にか太陽がなくなり暗くなった道をリ君と一緒に歩いてく。
その間の対話とは今まで部長としてきた話と、そのうち外れて意味もない日常の話とかそういうものだった。
その間にふっと思い出したことを聞いてみる。
“そういえばなんで他の部員とは会ってないんだろ。”
“うん?そりゃあ必要なかったから。”
“必要?”
リ君は俺の質問になにかを考えては、まあいいか、と呟き話を続ける。
“簡単に言うとこの世界のジャンルは推理だからさ。それに必要な最小の人物だけでいい。”
“推理?”
“そう推理。何故か一日を繰り返す依頼人とそれを解決してくれる探偵。それにヒントをあげる助っ人が一人。それで十分さ。”
“あれ?犯人は?”
俺の質問にリ君が笑う。
“だから犯人じゃないって。強いて言えば犯人は世界ってところかな。残りはゲームで言うとNPCってもんかな。意思はあるけど、どうせ彼らと時間を過ごしても攻略は不可能だからな。”
“そうか、その攻略ってのは?”
“この世界の秘密だよ。そろそろ解決するところじゃないの?”
“うーん、心当たりはあったけどね。変わるのがないんだよな。眼鏡と名前に関したのは気付いたらする元に戻ったって感じだけど、今度は―”
話をしながら歩いてみるといつの間にか横断歩道の前に立っていた。
もうすぐ青になるのか、向こうのちょっと離れた場所から走って来る人たちも見える。
そんな人たちを見ながら話を続ける。
“もしかしたらトラックに弾かれたけど、生きているんじゃないかな、とね。”
俺の言葉を聞いてリ君は首を縦に振る。
そして俺のほうを向いて明るく笑った。
“やはり奴を探偵にさせてよかったな。残りは採点だけだ。行け。”
“え?”
俺の疑問に答えずに彼は俺を車道の方に押した。
それと同時に、
“お母さんの言うことちゃんと聞け、スマホだけ見ないでさ―”
どこかで聴いたような、そうでないような、そんな声だった。
青信号。
歩いていいと言う知らせ。
渡るつもりはなかったのにリ君によって突き出される。
そして奴は現れた。
キキィ――――――
“―――”
夕焼けになったところ。
横断歩道に突き出された瞬間、いつかF1大会で聞いた、タイヤがアスファルトを掻く音が聞こえてくる。
音が鳴ってるのは右側。
走っていたダンプトラックが速度を落とせないのか、自分の信号が赤色になった今でも俺を向かって走って来る。
運転席に座っている運転手さんとは違い、車は止まる気は無さそうだ。
だからと言ってハンドルを回すには信号を待っていた人たちの数が多かった。
渡る人はたった一人。
自分だけだった。
こんな状況で思い出すのは変にも、
‘俺はここで死なない。’
生きていることを信じた。
そんな俺の考えを知るかどうか、知るわけないけど、トラックは止まらずに、そのまま――
キキィ――――――
“―――”
To be continued……。