06
夜八時ごろ、空から降ってくる雪は今が冬ってことを知らせていた。
河辺では雪は地上につく前に、空から落ちたような雷がその熱で溶けている。
そこからあまり離れてない大橋の上に人影が三つ。
その中に赤が一人。
それは赤だった。
寒さも感じないのか腕がない赤いベストを着ている彼は中の服も赤なのか袖も赤く、ズボンもまた赤色である。
それこそ彼は赤だった。
“ランサーの魔力、大丈夫かな?”
赤の心配に隣に立っていた金髪の女性が言った。
“大丈夫。どうせあれは周りの魔力を吸収してすぐ流してるだけだから。”
それに赤がちょっと機嫌が悪くなったようだ。
“いや、マスターは僕なのに。なんで姉貴が大丈夫って言ってるんですか?”
“その姉貴ってやつ、やめてくれない?遠坂さん。”
遠坂屋敷から離れて大橋でまた出会った円はリノのことを何故か姉貴って呼んでいた。
それにリノは姉貴って呼ばれるのが気に入らなかったのか、いや、気に入らなかった。
それを知らせるためにわざと円のことを遠坂さんと呼んでいるけど、円はそれを知らないようだ。
“あれー?なんで?親戚なのに僕より年上だから姉―”
“誰がババァだ、このクソタレが!やめろってつってんだろうが!XXXXXX――”
円にとってそれはこの世の言語ではなかった。
言葉だけが根源に繋がれた者が居るらしいが、円は彼女がそれではないかと真剣に考えた。
驚いた円が口を閉じ、魔女の子は魔女ってことか、とまで思っていることを機にもしないリノが川辺の芝にいるランサーを見ながら呟く。
“ランサーの魔力に引かれてバーサーカーが出てくれたらいいけど。”
“ハイ、ソウデスネ。リノ様。”
そのカタコトの主人公は隣のアーチャーでなく円だった。
どうやらリノにビビっているようだ。
しかし学習能力がないのか、リノ様もやめてって言う彼女の言葉を無視した結果、もう一度根源を体験し、結局リノさんと呼ぶことになったのだ。
ランサーがわざと魔力を放出している時、ランサーがいるところから大橋を渡ってすぐの小さな深山町の公園には大橋の赤とは違い黒がいた。
黒いタートルネック、黒いズボン、黒いコートを着ている黒髪の霜が立っている。
いつどこから攻撃してくるかわからないアサシンを抑えるためかセイバーが実体化して側に立っていた。
霜は望遠鏡を使ってランサーを見ている。
“本当に直接来るとはな。足手まといにはなるなよ、霜。”
セイバーはまだ昨日のことを引きずいているのか若干皮肉な言い方だった。
それに霜は気にしていないのかランサーから目を逸らさずに口を動かした。
“昨日こともあったからな。”
気にしないとは別として昨日のような状況を作らないためだろう。
“そうか。しかし直接出たからとして私を制御できるのではなかろう。前にも言ったが言う通りに動かしたいなら令呪でも持ってくるが良い。”
正式なマスターでない霜を無視するような発言。
それに霜が望遠鏡を下げセイバーを見つめる。
“わかってる。だからこれを持ってきた。”
そう言い彼は望遠鏡を持っていた右手ではなく左手を見せる。
その手には一冊の本が持たれている。
それが何かを知らないセイバーに霜が話を続ける。
“僞信の書。慎一の令呪を借りてきた。”
それにセイバーの眉間がちょっとだけしわが寄った。
しかしすぐ表情を戻して笑う。
“いいぞ、霜。それが君の手にある間は君が私のマスターってことだな。だったら君の命令全ての行うとしよ、我がマスター。”
生前に自分の王の命令であれば、それがなんであれ叶った騎士。
今まで慎一が彼の王だったが、霜に僞信の書ある限り、彼の王は霜なのだ。
セイバーが理解したと思って霜が望遠鏡を持ち上げようとした瞬間、
それは現れた。
川辺にランサーが現れたのはバーサーカーと話をして城から出たレイヤスフィールが近くに着いてからすぐだった。
雪が降る今、冬の聖女と呼ばれたリズライヒ・ユスティーツァ・フォン・アインツベルンを知っている人ならレイヤスフィールを見てきっと彼女が戻ってきたのではないかと思っただろう。
‘ああー、聞こえる?’
彼女が耳につけてある小型のスピーカーから織衣の声が聞こえてくる。
それは城に来ていた織衣が賢者の石とともに渡したものだった。
“はい、聞こえます。織衣。”
マイクはついてないはずなのにどう聞いたのか織衣が返事する。
“オッケー。じゃあ今からセイバーの位置を教えるから頼んだよ。”
レイヤスフィールが頷くと織衣がセイバーと彼のマスターの位置を伝える。
それを聞いたレイヤスフィールは彼らに向かって脚を動き出した。
冬の聖女と名は今は大聖杯になったアインツベルンのホムンクルスと聴いていたが、現存する物の中で今目の前にいるものよりその名前が似合うものはないだろう。
霜はレイヤスフィールを見て息を止めた。
その息を取り戻したのはセイバーの言葉だった。
“ふむ、何故バーサーカーのマスターがここに来た。ランサーはあっちだぞ?”
セイバーが剣をランサーがある川の向こうを指しながら言った。
それにレイヤスフィールが表情を変わらせないまま答える。
“いいえ、セイバーを先に倒そうと言う提案がありまして。”
織衣との共同作業を隠すつもりもなく彼女がそう言うと、セイバーが笑った。
“ふはは、強いのは苦労をするな。同盟を結びこの私を倒しに来たた。”
セイバーの言葉に返答せず、レイヤスフィールがバーサーカーを呼び出す。
実体化したバーサーカーはあっと言う間に巨大になり雪が積もった大地に相応しい雪園の一匹狼になった。
“UUUUhhhhhhh――!!!”
“よかろう。ランサーの代わりに遊んであげようとするか。”
セイバーの言葉が終わるのと同時に理性を失った狼は走り付け――
それを止めるのは黄金の槍だった。
“ほお、いつの間にか飛んで来たか、ランサー。悪いが今日はお前と遊ぶ時間はなさそうだが。”
“いや、悪いのはこっちだ。うちの犬が世話になったようだが、連れて行くとしよ。”
ランサーの登場にレイヤスフィールが織衣にどうしようか聞こうとしたがその必要はなかったようだ。
“いいだろ、連れて行け。”
セイバーがバーサーカーをランサーに譲り霜と一緒に公園から離れた。
そうやって戦場になる公園に残った二人のサーヴァント、ランサーとバーサーカーだけが残るとバーサーカーがランサーに走り出した。
身長が四メートルも超える獣が走りかけ巨大な右腕をランサーを向けて振った。
本来なら昨日と同じべきになるはずの戦場。
しかし今日のランサーはそれを避ける気はないのかその場で槍をバーサーカーの心臓に向けた。
まるで相打ちを狙うようなランサー。
獣の爪と黄金の槍が同時に敵に着――
“ちっ、アサシンめ。”
かなかった。
バーサーカーの右腕は破裂する音と共に体から離され、ランサーの槍は何かに当たって軌道が外られたみたいにランサーの右のほうに跳ねられた。
無くなった右腕は気にもしないバーサーカーは続けて左腕を振り、ランサーはそれを後ろに避ける。
そしてバーサーカーの右腕は再生し、
“これじゃもう犬って言うより普通の化け物だな。”
いや、それは異形だった。
無くなった右腕を代わるように付いてるのが二つ。
賢者の石によって過大な魔力が入ってるせいか、形だけは狼に似ていたバーサーカーの右腕は肩から二つの腕が出ている。
それでもなんとも思わないバーサーカーは目の前にある敵に攻撃を続けた。
大橋の上でランサーの助けとしてバーサーカーの右腕を撃ち飛ばしたアーチャーはリノの命令でアサシンを探している。
ランサーの槍を狙った銃弾が飛んで来た場所は深山町商店街の近く。
正確な位置把握兼、運が良ければバーサーカーを止める兼、バーサーカーのマスターを狙い矢を放たれたのが既に十一回。
それを決まった場所で止めても驚いてるはずなのに、十一度の銃弾は全部違う方法から飛んで来た。
どうやらアーチャーの矢の軌道を見て彼の位置を把握し逃げながら撃ってるようだ。
だからって矢を放つのを止めてアサシンを探すのに集中したらランサーが苦戦することは見なくても想像がつく。
彼が悩んでいる時に近くの空に二輪車が浮いていた。
その車を向かって力をかけてない矢を放たれる。
それにライダーか露がアーチャーを気付いたのか近くに近づいてきた。
“おい、なんの用だ。攻撃とは思われなかったが。”
“光輪車に私を乗せてくれませんか?”
アーチャーがランサーと手を組んでバーサーカーを倒そうとしたけどアサシンの邪魔が入り、それを追っていることを短く伝える。
それに露があっさりと受け取った。
アサシンとバーサーカーを倒すのは自分たちにとっても悪くない話だったからだろう。
そうやって光輪車に乗ったアーチャーは千里眼でアサシンを見つけた。
雲から降りてくる雪のように白いアサシンを見つけるのは千里眼がなかったら把握できなかっただろう。
“そういえば私のマスターが話があるそうです。”
アーチャーはそう言い自分のマスターの位置を知らせて霊体化してアサシンのほうに向かう。
“あいつがアサシンを倒してくれたらRockだがな。”
露は呟きながらアーチャーから聴いて場所に向かった。
どこから飛んで来た矢を瞬間的に銃で撃ち落とすと、そこには弓を持ったサーヴァントがいた。
‘アーチャーに見つかりました。どうしましょうか?マスター。’
‘バーサーカーとランサーの戦いが終わるまで時間を稼げろ。’
マスターの命令に頷いたアサシンはさっきまで持っていた銃を他のものに変えた。
見るにも両手で持つべきなそれを彼は両手に一つずつ持っている。
スオミKP/-31。
フィンランドの機関短銃でスオミはフィンランドを意味するフィンランド語である。
9㎜パラベラム弾を装填したドラム弾倉と速い連射速度で効果的に撃ち続ける火力はフィンランドにとって優れた全力になってくれた。
フィンランド軍が使用してフィンランドの独立を守り「救国の銃器」に呼ばわれている。
そんな誰でも使う銃が宝具なはずないだろう。
しかし、その銃から発射された銃弾は見事にアーチャーの矢を止めさせた。
‘聖杯に与えられた知識によるとあれはフィンランドの普遍化された銃器だ。なのになぜあんなものが宝具に含まれるのか。’
ランクを持つはずのないそれは間違いなく魔力が流れている。
そうでなくとも自分の矢を止めたものが宝具でないわけがない。
同じ形の宝具が二つ。
あまりにも奇妙な状況に会ってしまったアーチャーだったが倒すべき敵ということには変わらなかった。
引き続き降っている雪が地面に積もって行く。
その中で戦う者が二体。
一体は四メートルを超える巨体で脚が四つ、腕が六つな化け物。
そしてその化け物を一人で相手しているのは身長180㎝を若干超え、自分の背より二倍ではちょっと足りないくらいの長さの槍を使う黄金の男だ。
それをちょっと離れた場所で見ている者たちがいた。
“セイバー、あの化け物は倒せるか?”
霜の質問にセイバーがちょっと困ったように答える。
“あれなしでか?倒せるといいたいが……、あれは無理だな。しかしあれを使えば倒せる、と思いたいところだな。”
セイバーの回答に霜はバーサーカーのマスターを狙おうかと思ったが、マスターが狙われたらバーサーカーが走り付けるのを思い出しやめることにした。
“ランサーが勝つのを願おうか。いざとなったらあれを使おうとしよ。”
そう呟くと、ランサーが大きく距離を開けるのが見えていた。
戦う以外のなんの考えもできないくらいの戦闘。
自分の前にはいつの間にか自分の三倍以上の大きさになった化け物がいた。
化け物の腕は六つで切れば切るほどその数を増やしている。
これはもう逃げるべきではないか、と思いたいくらいの敵だった。
そんな途中に頭の中で円の声が聴こえて来る。
‘準備はできたぞ、ランサー。’
頭の中で聴こえた声に大きく笑った。
‘でも宝具は昨日も通じなかったけどどうするつもりなの?’
アーチャーのマスターとの計画通りはしたがそこまでは知らなかったのか円が聞いてきた。
‘令呪だ、円。こんな時のものだろ、それは。二つくらい使えばこの化け物も倒せるだろ。’
‘え?!ダメだよ!後で霜先輩のセイバーと戦う時に使わないと。’
馬鹿みたいな男。
彼のことは今までの三日の間に聴いていた。
自分が一度も勝てなかった間桐霜と男にたった一度でも勝つために参加した聖杯戦争。
生前敗北を知らなかった者はそれを理解できなかった。
しかし昨日油断したとは言え、目の前の化け物に負けてからそれを知った。
そう、今は彼の心が理解できたのだ。
‘馬鹿野郎。お前がその霜ってやつに勝つために挑んでるように、俺もまたこの化け物に勝ちたいと思っていることをわからないのか、円。’
呼ばれて初めて、彼は自身のことを俺と言った。
それにどんな感情が籠っているのか、わかるはずのない円だが、
‘なんだー、同じだったんだね、僕たち。そう、ただ勝ちたいだけだもんな!’
彼はそう言った。
「同じ」と言う彼の言葉にランサーが笑う。
‘よしー!行くぞ、ランサー!’
その言葉を合図にランサーが後ろに飛びバーサーカーとの距離を開けた。
深山町の空から飛んで来た光輪車が橋の上に立ち待った。
そこには男女が二人。
“お、来たね。ライダーのマスターさん。”
“あ、来てやったぞ。そっちの赤は初めてだな。ランサーのマスターってことか。”
円は自分を見てランサーのマスターってことを知った露を見て驚いた。
“おお、すごい。なんでわかったの?”
しかし露は彼を無視してリノに向かった。
“って言うか、てめぇはあほか?敵である俺に自分たちの位置を知らせるなんで。サーヴァントもない奴らがさ。”
露の言葉通りだった。
自然に結託した相手ですら信じては行けない戦争で、敵に自分たちの居場所を知らせるものはないだろう。
しかも自分たちのサーヴァントもないと言うのに。
そんな当たり前な露の言葉にリノがニヤニヤと笑う。
“そうそう、それ。敵に指摘するなんてどう考えてもお人好でしょ?そんな人が卑怯に襲うわけないと思ってさ。”
“ああ、そうですか?Fuck!大した推理ですね。で、なんの用だ。”
“あの化け物ちょっとだけでいいけど止めれる?”
リノが手でバーサーカーのところを指した。
そこには初めて見た時より遥かに大きく、化け物になったバーサーカーがいた。
露がそこを見てはちょっと考えるふりをして口を開ける。
“どんだばけもんだ、ありゃ。してみないとわからねぇな。どうするつもりだ?”
“へえー、しないと言わないんだ、あんた。”
それに悪口を出す露にリノが計画のことをざっくり話した。
それを聴いた露はライダーに言い、光輪車がバーサーカーが居る所に近づく。
たどり着くとライダーが自分の腰にある剣、顕明連を抜け露に話した。
“マスターよ、命令を。”
“めんどくせぇ、使えばいいものを。まあ、悪くねぇか。宝具を解放せよ、ライダー!”
その一言で顕明連に魔力が集まり始め、
“文殊智剣大神通・恋愛発破・天鬼雨!”
呪唱が終わりライダーが顕明連を上に向かって投げると一気に千個に分裂する。
そしてその刃物は地上を向け、バーサーカーに落ち始める。
露が下を見たらちょうどランサーがバーサーカーと距離を開けていた。
――――――
クラス Rider【ライダー】
マスター 浅上露
真名 鈴鹿御前
性別 女性
身長・体重 154cm・38kg
属性 混沌・中庸
ステータス 筋力D 耐久E 敏捷C 魔力B 幸運B 宝具A+
クラススキル 騎乗A+
保有スキル 神性B
宝具
大通連 B / 小通連 B
空を飛ぶ剣で刀身だけが存在し持ち主の念に応じて動く。
顕明連 A
魔力があればあるほど分裂するのが可能な剣で持ち主の念に応じて動く。
ただし分裂するほど、一つ一つの力は弱くなる。
光連車 A
六つの脚を持つ二匹の霊馬が引く空を走る二輪車。
霊馬の脚が大気を踏む度に大気が揺れる。
二輪はいつも光っている。
文殊智剣大神通・恋愛発破・天鬼雨 A 対軍宝具
顕明連の真名解放で顕明連に魔力を込め、分裂させ攻撃する。
顕明連一つ一つが元々の顕明連の力を持つ。
魔力量によって数は調整可能。
――――――
真っ白な雪とは違い速い速度で落ちてくる刃物がバーサーカーの体を粉砕していく。
しかし化け物の体は粉砕と共に再生されどんどん大きくなるばかりだった。
その状況でランサーの槍に魔力が集まり電流が集まって行く。
それは昨日と同じく轟音を出しながら雷のように電気を散らす。
途中――
‘七つのサーヴァントの一つ、ランサーのマスターとして命じる。宝具を解放せよ!’
円の右腕にある三画の令呪の中一つが消え、ランサーの魔力が一時的に膨大になる。
‘もう一度ランサーのマスターとして命じる。あの化け物をぶち殺せ!ランサー!!!’
令呪。
サーヴァントの強制命令権であり、結局のところ魔力の集まりだ。
それを二つも使えた今、ランサーを止める者はこの世に誰も居ない!
“命令を行うぞ、マスター!その肉、一片たりとも残しはせん!!!”
ランサーが空を飛んだ。
その体は矢を放つための弓のよう。
そして響く雷の真名――
“世界の果ての八つの雷【ケラウノス】!!!”
雷の槍が綺麗にバーサーカーの心臓を狙い放たれる。
雷がバーサーカーを燃やしつけるのと、
ランサーの頭が貫かれたのはほぼ一緒だった。
聖杯戦争に召喚されたのは単純にもっと強い相手と戦うため。
セイバーと戦い同じくらいの強さを持った相手に楽しめた。
バーサーカーと戦い自分の槍が通用しない相手がいると知った。
バーサーカーにやられ始めて敗北を知り、魔力が切れ初めて危険さを感じた。
復讐を決めた瞬間、この相手だけは絶対に自分の手で殺そうと思った。
そしてそれを願えると瞬間なのに―――
“アサシン―!!!!!”
たかが暗殺者一人に我が倒れるのか?!
たかが銃弾一つで我が死ななければならないのか?!
たかがアサシンクラスに我が死ぬのか?!
たかが!たかが!卑怯な糞野郎のせいで?!
“卑怯なアサシンめ!!呪ってやろう!!糞野郎が!!!”
銃弾が飛んで来た方向を見つめながらアサシンを罵倒しながらランサーはそのまま消滅した。
そして主人を失った槍はその力をだいぶ失いバーサーカーの心臓に至り、
一条の光が空から落ち、化け物を燃やしつけた。
雪が地上を埋めてる深山町の商店街の建物の屋上。
アーチャーとアサシンが戦っていた。
連射速度は速いが一つ一つの破壊力は弱いアサシンの銃弾と、速度にはちょっと遅れているが一つ一つが強くて当たったらそこで終わりなアーチャーの矢。
アサシンはアーチャーの矢を撃ち向きを変えるだけで精一杯だった。
向きが変わった矢は地上に落ち雪が舞い散る。
もし今日雪が降っていなかったらアサシンがアーチャーの前に立つことはなかっただろう。
アーチャーが雪の中に隠すアサシンを捕まえようと近づくと考えている瞬間、遠くで膨大な魔力の集まりを感じた。
自分のマスターからランサーが真名解放をすると伝えられる。
その時、アサシンが武器を変えた。
M28。
たった一発でアーチャーの矢を止めていた武器だ。
照準器がないいそれを両手で持つことを見てアーチャーがどっさに矢を放たれ、M28は銃口から火を噴き出した。
刹那だが先に放たれた矢がアサシンの仮面に当たって破壊しアサシンをそのまま飛ばされ、銃弾は綺麗にアーチャーを外れて後ろに抜けた。
‘外れた?いや、そんなはずない。まさか?!’
アーチャーがなにかを考え後ろを向く。
彼の視野に入ったのは何十メートルも離れた公園の上空。
そこには頭が貫通されたランサーがいた。
それを把握したアーチャーが再び飛ばされたアサシンのほうを向かったが、そこにはまるで最初から誰も居なかったようになんの跡も残っていなかった。
離れてランサーが消えるのを見ていたセイバーが笑う。
“くははは、滑稽だな。結局伝説と同じくその槍を手放した瞬間死んでしまうとは。面白い話だ。それにしても威力が落ちてあれとはすごい魔力だな。”
“見てる場合ではない。行け、セイバー。”
ランサーの最後の攻撃を見たセイバーが感心していると霜がセイバーに命じた。
それと反応したかのように燃えている化け物が強い相手を探すようセイバーのほうを見つめる。
“じゃああれを使うぞ。”
“ああ、許可しよ。”
セイバーがなにかを使うとも聞かずに霜が許可を出した。
それにセイバーが手に剣を持った。
それは昨日持っていたバルムンクとは違い、黒い刃に赤い呪いが刻まれている剣だった。
そして化け物を一気に消滅させるために魔力を集め始める。
ランサーが最後に放たれたケラウノスに体の半分が消えたバーサーカーの体は既に再生され今はもはやただの肉に過ぎなかった。
それでもなにかに支配されたように戦う相手を探して動き始める。
そんなバーサーカーにレイヤスフィールが令呪を使いセイバーの居場所を向かって宝具の解放を命じる。
そしてレイヤスフィールの耳に織衣の声が聴こえた。
‘レイヤ、後ろの森に入って隠れて。今すぐ行くから。’
それを聴き彼女は移動し、鳴き声が大気を震わせた。
“UUUUUUUUUhhhhhhhhhhhhh―――!!!!!”
ランサーの攻撃を受け、令呪一つ分の魔力を得て蓄積された魔力は昨夜のそれを遥かに超えている。
もう誰でも止め無さそうなそれを、
“破滅をもたらす報復の剣【ダインスレフ】!!!”
セイバーの剣からはみ出る漆黒な闇は夜の闇さえ食らい、そのままバーサーカーが発した魔力と共に化け物さえも食らいつくした。
“ちっ、気持ち悪い剣だ。これが呪いってもんか、持ち主さえ食うのか。”
セイバーの鎧の上に蜘蛛の糸のように鮮明な赤黒い線が剣を持った右手から肘まで絡みついている。
バーサーカーが倒したのを確認した彼は魔力の温存のため霊体化し、霜は戦場か離れた。
――――――
クラス Saber【セイバー】
マスター 間桐霜
真名 Hagen von Tronje【ハーゲン・フォン・トロニエ】
性別 男性
身長・体重 190cm・89kg
属性 秩序・悪
ステータス 筋力A 耐久A 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具A++
クラススキル
騎乗 A
―幻獣・神獣ランクを除くすべての獣、乗り物を乗りこなせる。
対魔力 A
―A+ランク以下の魔術は全て無力化する。事実上現代の魔術師は被害を与えるのが不可能。
保有スキル
直感 C
―戦闘時、常に自身に最適な展開を感じ取る能力。ただし、攻撃のためにしか働かない。セイバーにしては低いランク。‘なんとなくここに攻撃したら当たりそう’くらいの考えが浮かべるくらい。
魔力放出 A
―武器・自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出する事によって能力を向上させる。
宝具
幻想大剣・天魔失墜【バルムンク】 / Balmung A+ 対軍宝具
原典である魔剣「グラム」としての属性も兼ねていて手に持った者により聖剣、魔剣の属性が変化し竜類の血を繋いだ者に追加の被害を与える。
剣の柄にある青い宝玉には神代の魔力が保管されておりこれを解放したら黄昏色の剣気を放出する。
破滅をもたらす報復の剣【ダインスレフ】 / Dáinsleif A++ 対城宝具
ニーベルンゲンの魔剣。
持ち主に破滅をもたらす呪いの宝具。
北欧の英雄、シグルドの倒した一族に伝わる魔剣で、元々はファフニール竜が収集していた宝具である。
強力な「報復」の呪いを持つが、同時に持ち主の運命さえ破滅へ追い落とす。
魔剣、聖剣は栄光と破滅を両立させるが、この剣は破滅のみを所有者に与えるという。
真名解放をしなくても持っているだけで持ち主を浸食し最後には心臓に至り持ち主の命を奪う。
伝説によるとその剣を三度目に抜いた時に所有者が命を失ったと伝われる。
――――――
新都のとあるホテルの最上階でキャスターとともにモニターを見ていた織衣が急いでホテルを出ていく。
手に持ったスマホにはレイヤスフィールの姿が映っている。
“レイヤ、後ろの森に入って隠れて。今すぐ行くから。”
バーサーカーを消滅してから彼女を狙う相手は多いだろう。
一人のマスターとは言え最後に聖杯になり願いを叶えてくれる器なのだ。
だからこそ彼女を先に手に入れようとする織衣。
しかしただそれだけなのか、織衣はついさっきキャスターと話していたことを思い出した。
「おほほほ、そうですか?いや、よかったです。もしバーサーカーが倒れたら彼女を救いに行くとか、のことはないでしょうね?」
それに自分はなんて言ったのか。
「いや、当たり前じゃん、そんなの。私が他の人を救う人に見えるの?」
その時は、そう確信していた。
きっと彼女がどんな状況になろうと自分とは関係なかろうと。
しかしさっきセイバーの魔力を感じバーサーカーが持たないと思った瞬間、自分も知らないうちに脚がビルの非常口に向かっていた。
それを予め知っていたようなキャスターの言葉が気になるが、今はそれよりも彼女を救いに走っている自分のことがおかしくて頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
幸いとアサシンはアーチャーに打てられ回復には時間がかかるだろう、しかしそうでなかったとしても自分は走っているだろうと思う。
彼女が聖杯の器だから……。
いや、違う。
聖杯の器は教会側から保護、回収するべきなのになぜ自分はこうも彼女の安全を確認しようとするのか。
「そうですか。私としてはよかったです。もしあなたが成功していたらわたしがあなたと会うことはなかったでしょう。そしたらわたしは本物の化け物を召喚しこの広い城に一人だったでしょうね。」
自分が森を離れると実体化したバーサーカーと彼女が交わした対話。
聴いていた。
きっとそのせいだろう。
孤独。
自分の過去そして現在。
きっとこれからもそうであろう。
いつも孤独だった。
空小路はいわゆるヤクザの家だった。
自分を産んだ親は一人目が女のを知ると後継にならないと思い放置した。
でも家門の名のためだろう。
捨てられず、着るもの、食べるものなどと生きるためのものはたりなかった。
でも家門の名のせいだろう。
誰とも彼女に近づかず、後ろでは虐めされる身。
だからこそ彼女は強さにしがみついた。
誰よりも強くなろうと誓った彼女は剣道に拘れその始めとして十三歳になる年、一段を取った。
そして何故かそこに居たエルメロイという時計塔の教師の目に立ち留学することになる。
きっと家に居るよりもましだと思っていた織衣はそこでもっと大きい孤独と出会った。
家門の名もない単純な人だと思っていた彼女がトップに名を上げることによって猜忌と嫉妬は天に上るよう立ち上げ、それこそ知ってくれる者は一人も居なかった。
その中でたった一人のエルメロイだけが彼女の理解者だった。
ため口をする時のイライラしてる点はエルメロイのおかげだろう。
それによってどうせ孤独であればもっと強くなり敬るようにしてやろうと思った彼女はそれこそ同僚思いとはどこにも見当たらない執行者に入ることにした。
だからこそ誰よりも自分がよく知っていると思っている言葉。
今までも自分を追っている孤独。
だからこそ彼女は孤独じゃないことを祈り、雪が積もった地上を走った。
そこに居る誰もがセイバーとバーサーカーを見ていたせいか織衣は無事にレイヤスフィールが隠れていた森に着いた。
執行者になってから今までどれだけ走っても息が詰まることがなかった彼女が初めて息を切らしていた。
そんな彼女に一つの声が聴こえて来る。
“早かったですね。しかしなんの用で。”
下から視線を上げるとそこには雪に包まれた森の中、真っ白なドレスを着た冬の聖女がいる。
自分が走ってきた理由をわからないような言い方。
そりゃあそうだろう。
レイヤスフィールが聖杯の器と言うのは参加者の大体が知っているはず。
しかも教会の監督役が彼女を保護するはずなのに自分がここまで来る理由はなかった。
それにもかかわらず走って来た織衣が息を整えて口を開けた。
“レイヤ、私と一緒に行きませんか?”
マスターとは言えバーサーカーがない今正直言って足手まといになるはずの彼女を連れて行こうとする織衣。
今まで生きてきながら感情に走って無駄なことはできるだけしなかった織衣が口を走ったのだ。
それに、
“いいえ、聖杯の器である私は教会に行くべきでしょ。”
レイヤスフィールがあっさりと拒否する。
聖杯としての当然な答え。
もちろん織衣も知っていた。
ただ思うより先に口が走っただけ。
だからその当たり前な答えに、はい、そうですね、と当たり前な回答をしようとする彼女の言葉は続くレイヤスフィールの言葉に止められた。
“でも……。最後に私に会いに来るのがあなたなら私は嬉しいと思います、織衣。”
まるで久しい友に見せるような微笑みと共に伝える言葉。
それを聴いた織衣は、
“もちろん!待っていて、レイヤ。絶対会いに行くから!”
聖杯戦争が始まった以来、初めて自分の意思を持って聖杯を手に入れようと決意したのだ。
織衣とレイヤスフィールの姿を見ている者がいた。
聖杯の器であるレイヤスフィールを回収するために来ていた神父だった。
‘あれはキャスターのマスターか。ここで殺して置きたいが、まだセイバーが生きている今キャスターとの取引は有効だ。実に残念だな……。’
神父はそう思いながら二人に姿を現した。
その後監督役である神父が後付けを済ましレイヤスフィールと共に教会に帰った。
そしてそれで今日の戦いは終わったよう、みんなバラバラになった。
そこに居る二人を除き。
夜の十時ごろ、遠坂屋敷のリビングに二人が居た。
“それで、今からどうする?”
思い空気を壊したのはリノの方だった。
ランサーが消えた今、円に聖杯戦争を続ける方法はない。
それでもどうするかを聞くところが疑問だっただろう。
“どうって?僕は終わりでしょ?サーヴァントも居ないし。”
当然な円の返答にリノが頷いて立ち上がった。
“まあ、確かにそうね。じゃあ無事に元の生活に帰るのを祈ってるよ、円。じゃあね。”
リノが円の挨拶を受けて屋敷を出る。
そして自分の家に向かった。
雪道を歩きながらアーチャーからアサシンとの戦いについての報告を受ける。
フィンランドの銃を宝具として使っている英霊。
戦いの最後にアサシンの銃弾が確実にランサーを撃ったってところでアサシンが千里眼を持っている可能性が高いと思った。
それを聴いたリノがちょっと考えて口を開ける。
“それ、シモ・ヘイヘじゃない?”
フィンランドの血が流れるエーデルフェルトらしく、リノの口からすぐフィンランドの伝説のスナイパーの名前が飛び出た。
Simo Häyhä。
彼は第二次世界大戦の直前にフィンランドとソビエト連邦の間で起こった冬戦争で、百日をちょっと超える短期間で一人で542名を射殺した記録がある。
ちなみに542という数字は単に狙撃だけのことで、機関短銃のスオミKP/-31でも200名以上を殺したという。
一人で800名近く射殺したってことだ。
そのせいで当時ソビエト赤軍からは恐怖の対象であり、彼らから「白い死神」と呼ばれたと言われている。
なにより驚くべきのところは彼がたった一度も照準器を使ってないと言う点にある。
彼は既に心の中で照準線を合わせて射撃をしている境地に至ったとしても過言ではなかろう。
リノはアサシンの真名に間違いないと思いながら、明日積もる雪のことを心配しながら道を歩き出した。
――――――
クラス Assassin【アサシン】
マスター 言峰
真名 Simo Häyhä【シモ・ヘイヘ】
性別 男性
身長・体重 161cm・55kg
属性 中立・悪
ステータス 筋力D 耐久E 敏捷A+ 魔力D 幸運B 宝具B
クラススキル 気配遮断A+
保有スキル 千里眼C / 魔眼C
宝具
象徴は私に意味なし / Symbol minulle ole järkeä C 対人宝具
自分が生前に使っていた全ての武器を宝具として使える。
ランクはD~Aに性能によって決まれる。
戦場の白い死神 / белая смерть B 対人宝具
ソビエト赤軍からは恐怖の対象として呼ばれていた異名。
自分の魔眼の視野に入った対象の魔力を読み出し射撃の時放たれた銃弾は魔眼のバッグアップを受けターゲットを外れない。
雪が降る戦場では運のパラメータと気配遮断のランクが一段階上がる。
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ホテルに帰って来た織衣を迎えるのは今は慣れたキャスターだった。
キャスターは織衣が上がって来るのを待って居たかのように笑い始めた。
“おほほほ、どうでしたか?ミス空小路。”
全てを見ていたのにわざと聞いてくるキャスター。
きっとその頭には彼女をからかう考えに満ちているだろう。
“うるさいですね。友達に会いに行くのがなにが面白いの?”
もはや真顔に言う織衣。
キャスターいはそれもまた面白かったようだ。
“友達ですか、あはははは!ああ、このなんとも似合わない台詞ですか、ミス空小路。”
“うるさいってば!それよりあんた、私になにか隠してるでしょ?さっきのことなんで知っていたの?”
その言葉に今まで笑っていたキャスターがぱっと止まった。
話題を変えるために投げていたけど図星のようだった。
キャスターが今まで見せたことなかった真剣な表情で言う。
“いいえ、あなたに被害を受けるつもりはないですよ。ミス空小路。”
“ふん、なにを考えているのかわからないけど、私の邪魔にはならないようにね。”
真剣な姿で言うキャスターを信じているのか織衣は詳しくは聞かなかった。
そしてキャスターにモニターの確認を任せ寝室に入る。
それを見送りキャスターが呟いた。
“一応今日は生き延びましたけど、また次が問題ですね。まあ何とかなるでしょ。”
そこには元通り真剣さとは見えないキャスターが居た。