08
教会を出る時にはレイヤスフィールのことを考えていた織衣は教会から遠くなると聖杯戦争で勝つためにどうするべきかと悩んでいた。
その途中に後ろから自分の名前を呼ぶ声が聴こえて来た。
“酷いなー。なにをそんなに考えてるの?織衣。”
リノの言葉に自分がなにか見逃した会話でもあったのか考えながら口を開ける。
“あ、すみません。ちょっと他の考えをしていて―”
織衣がなにか間違ったのか、さっきまで笑っていたリノの表情はいつそうだったかのように敵に対する殺気を出している。
“家に帰るまでが遠足って言うのに、残念。私たちの遠足はここで終わりにしましょ。”
リノの言葉に織衣がどういうことかわからないようでぼっとしているとリノが話を続けた。
“君がキャスターのマスターってことは知ってるよ。そしてホテルの人たちの魔力を使ってなにかをしていることも。”
それに織衣の眉間に皺が寄る。
“なにかをしていると?”
その表情は作為的なものではなかった。
織衣の表情を見たリノがむしろ驚いたように持っていた敵愾心を晴らして聞いた。
“どういうこと?キャスターの勝手ってこと?”
“すみません。ちょっと待ってください。”
織衣はそう言い黙った。
どうやらキャスターと話しているようだ。
間もなく話が終わったのか織衣が口を開ける。
“そうですね、キャスターが人たちの魔力を集めていたようです。”
織衣は今知ったことをリノに伝え、それを聴いたリノが言った。
“知らなかったんだ、よかった。じゃあそれ止めてもらえるよね?”
当然のように話すリノに織衣もまた当然のように答える。
“いいえ、止める理由はないですね。”
織衣の返答にリノの顔が歪んだ。
“一般人にまで手を出すつもりなの?”
“時間が経ったら戻るんじゃないですか。キャスターもバカですね。どうせするなら死ぬ直前まで取ればいいものを。あ、だったらすぐばれましたかね。”
人の命をなんとも思わないように言う織衣の頭にキャスターの声が聴こえて来た。
‘アーチャーが来ちゃいましたよ、ミス空小路。どうしましょうか?’
そしてその同時に目の前のリノが口を開けた。
“そう。じゃああなたを殺すしかないわね。”
その台詞に織衣の口角が上がった。
自分のサーヴァントが危険だと言うのにそんなのはどうでもいいかのように微笑む。
“そうですか?エーデルフェルトさんのこと、もっと賢い人かと思っていましたが違ったようですね。”
織衣がリノの苗字を口にしたのはそれが最初で最後だった。
一方同じ時刻、闇が降りた教会に向かう丘を登る者がいた。
そうでなくても暗い冬の夕方というのに丘を登る男もまた真っ黒だった。
ブラック。
霜はついさっき円、そして彼の友達と別れ教会に脚を向けた。
そして今教会の前に至り、神に向かう扉を静かに押した。
ゆっくり歩き入るとそこにはまるで待っていたかのように一人の男子が立っていた。
“入りたまえ、祈りでもして行くか?”
謹厳な声の持ち主は神父服を着ている。
台詞とは違い威圧的な雰囲気の中、霜が口を開ける。
“いや、用事はそっちだ。”
“ふむ、ゆるしの秘蹟か。それもよかろう。”
“いや、ゆるしの秘蹟をするべきなのはそっちの方だろ。監督役がマスターとは中々の不正行為ではないか。”
それに神父の口角が上がり、やがて笑い始める。
“これは驚いた。不正を知り断罪にでも来たか?セイバーのマスターよ。”
神父が嗤うと霜の前にセイバーが実体化して現れた。
それと同時にセイバーは神父に走りつけ――
タン!タン!タン!
銃弾がセイバーを止めさせる。
アサシンが神父の前に実体化したのと同時に神父が教会の奥に走った。
“キャスターと思ってたがアサシンだったか。”
“セイバー、あれはここで落とせ。俺は神父を追う。”
霜はそう言い入って来た扉で出て教会の後ろを向けて走った。
教会に残った者は二人。
アサシンに与えられた任務はマスターが安全に逃げるまでに時間を稼ぐこと、一方セイバーは敵を倒すこと。
敵の背後で暗殺を専門とするアサシンに敵の前で戦い時間を稼げなんて、死ぬと言うこととなにが違うだろう。
それでもその命令を受けた男は命令を行うために死を前にした。
“ほお、マスターへの忠義、いい志だ。だがそれだとここで死ぬぞ?”
アサシンはセイバーの言葉を黙り通した。
“ふん、まあ私が気にするべきではなかったか。じゃあここで失せろ、アサシン。”
セイバーが飛んだ。
それは例えじゃなく、実際に彼の足元から魔力が放たれアサシンとの距離をあっという間に減らす。
アサシンはそれを二つの銃で撃った。
しかしセイバーは銃弾を切り落とし、そのままアサシンの体を――
切る瞬間アサシンはたった一度の跳躍でさっきまでの距離を開ける。
セイバーが魔力放出で減らした距離をただ後ろに跳躍しただけで開けたのだ。
非常識なくらいの跳躍力、非常識なくらいの速さ。
それくらいはアサシンと言う英霊の範疇に属するもの。
しかし非常識と思われるのが二つ。
一つは二手に持っている銃がどうみても英霊のものとは思われない普通の銃で、もう一つは外されるべきの銃弾が軌道を変え自分に飛んで来たってことだ。
せいばーはそう思い口を開けた。
“魔術でも使わなければ不可能だろうに、アサシンのくせに魔術を使うか。”
魔術。
実際、とあるネクロマンサーの魔術師キラーは死体の指に呪いをかけて弾丸に使っているがそれは敵の心臓を狙うという。
そのような魔術を使えばかのうだろうけど――
“そんな小技で勝てるとは思ってないよな?”
嗤うように言うセイバーの言葉に違いはなかった。
例えアサシンがヘーラクレースだとしてもクラスに縛られ召喚される聖杯戦争でアサシンがセイバーを勝てるのは難しいだろう。
“恨むなら自分のクラスを恨むがいい!”
セイバーが飛んだ。
さっきと同じ状況。
たださっきは単にアサシンの攻撃を把握するだけだったのか、今回は逃げるアサシンを追いついいた。
アサシンに休む時間などない。
追いつかれたらそこで終わる鬼ごっこなようなものだ。
一撃で殺されると言うことは確実だろう。
それを把握したアサシンは二回目の跳躍で教会の壁に飛びながら腕を開いて銃口を横に向けた。
銃弾が放たれた瞬間、方向を変えセイバーに向かう。
アサシンに向けて飛び空中にいたセイバーは両側から飛んでくる銃弾を剣を大きく振って止め、
壁に脚が届いていたアサシンの手にはいつの間にか違う武器が持たれていた。
M28。
ランサーの頭を貫通した銃。
それをセイバーに向け、撃つ。
ほぼゼロ距離での射撃。
セイバーはそれを切るより止めたほうがいいと思ったのか剣の横を向け銃弾を受け止める。
そしてそのまま銃弾を止めた反動で地上に降り、アサシンが居たところを見ると彼は既に消えていた。
“ちっ、逃げたか。”
そしていつ戻って来たのか霜が教会の扉から入って来る。
“逃した。魔術まで使ったのにこっちのスピードでは全然追い詰めなかった。”
“そうか、こっちも逃げ足は速いようで逃しちまった。それにしてもさすがアサシンか、気配を探せないな。今から追いつくのは難しいだろ。ところで霜、あの神父は追いつかないのが当然だ。”
次に繋がるセイバーの言葉は霜にとってもかなりの衝撃だった。
“人間じゃないからな、あれは。よくできた人形だ。”
公正であるべきの監督役がマスターであることが不正ではなく、そもそも誰かの意思が籠った人形だったところが不正だったのだ。
その時教会の中から誰かが現れる。
“これはどういう状況ですか?”
監督役の神父が保護していたレイヤスフィールだった。
教会の姿はひどかった。
礼拝を行うところの椅子はほとんど元の場所から離れ、その半分は壊れている。
それにあっちこっちに銃弾の跡が残っていて、窓ガラスの壊れていた。
こんな教会の見てなにも聞かないほうが可笑しいだろう。
“ちょうどよかった、レイヤスフィール。教会から派遣された神父がマスターだってことがあからさまになった。聖杯の器として君はどうする?”
“どうする、とは?”
“既に脱落した土地の持ち主である円の保護を受けるか、それとも小聖杯に手を出すものはないだろうからここに残ってもいいだろ。”
以前の聖杯戦争で小聖杯を狙ったマスターは多かったけど、霜の性格上そんな輩がいるとは思ってなかっただろう。
しかし今回の聖杯戦争では聖杯より、聖杯戦争自体を求めたマスターが多いので間違いではなかった。
“私は聖杯の器です。たとえ負けたとは言いマスターだった者の保護を受けるには行かないでしょ。ここに居て残りのサーヴァントが二人になった時に大聖杯がある柳洞山に向かいます。”
レイヤスフィールの返事に霜がわかったと言いレイヤスフィールを教会に残したままそこを離れた。
午後七時、公園の中。
人の姿とは二人しかない公園の中に、誰かの左腕だったものが落ちていてその周りに血がたまっている。
その腕の前には右手に刀を持った女の人が立っていて、彼女の前三メートルくらいのところに金髪の女性が一人。
おかしい。
きっとなにかがおかしい。
さっきまでの二人の距離はほぼ五メートル、それがたった一度のジャンプでゼロになるとは。
あまりにも瞬間の出来事で私も知らないうちに後ろに跳ねた。
痛い。
織衣の足元になにかが置いてある。
いたい。痛い。
公園の電灯が光ってるにも関わらず、彼女の陰に隠れてよく見れない。
痛い。いたい。痛い。
どこから来るのかわからないけど頭の中で痛い、とうるさく叫んでる。
いたい。痛い。いたい。痛い。
うるさい!
誰かが叫ぶ声を無視し、敵になった彼女を向いて魔術を使おうとし左腕を上げ――――
“あ……れ?”
反応がない。
痛い。いたい。痛い。いたい。イタイ。
持ち上げようとしているが、左腕を持ち上げれない。
一体どうして?と左腕を見て――――
痛い。いたい。痛い。いたい。イタイ。痛い。いたい。イタイ。痛い――!!!
痛みの正体を気付いた。
そこには肩先っからその下にあるべきのものが存在していなかった。
“―――――!!!!!”
あまりにも痛いと声も出ないって事実だったな、とまるで他人事のようなことを頭の中で考える。
右手は自動に左肩を掴め、臨時に地を止めるため簡単な治療魔術を使う。
“まさか魔術の実力の差で勝てると思っていました?これだから魔術の研究だけしてる人たちはダメなんですよね。実際の殺し合いになると全く意味のないんですよ、そんなの。”
彼女が距離を詰めてくる。
ここが戦場ってことも失い、苦痛に喘いでいる私に彼女が一歩一歩近づいてくる。
逃げないと。
彼女から逃げないとここで死ぬ。
それなのにどうして脚は動いてくれないんだろ。
続けて狭くなる距離。
そして彼女が持った刀が届く位置に立った瞬間―――
“はあ?!このバカ!!”
織衣が叫びながら、刀を振る。
そして、
“そこまでです、キャスターのマスター。”
リノの前に現れたアーチャーが止める。
“ちっ”
いつの間にかアーチャーと距離を開いた織衣が舌を打った。
正確にさっきまで立っていたところ。
リノの左腕が落ちてあるそこに織衣が立っている。
“これがなにかわかりますか?アーチャー。”
織衣がアーチャーを気にしながら座り、さっきまでリノの左腕だったものを持ち上げる。
そこにはアーチャーの令呪が残っていた。
“これを私が持っているってことがどういうことか理解していますね?アーチャー。”
サーヴァントの命令権である令呪を持っているってことはそのサーヴァントのマスターってことと同一だ。
それを見てアーチャーが口を開ける。
“あなたがそれを使うことは不可能でしょう。”
アーチャーの台詞通りだ。
令呪を使用するためには魔術回路が動かないとダメだが他人の腕にある魔術回路を使うのは不可能だ。
移植でもしたら使えるだろうけど今の段階ではただ相手の契約を切っただけ、自分がマスターになったわけではない。
“へえ、よく知ってますね。ちっ、黙ってくれてもいいんじゃないですか?”
そう言いながらも織衣はアーチャーから逃げる考えで頭の中がパンクしそうだった。
しかしアーチャーの言葉一つで今まで考えていたことが全部吹き飛ばす。
“いいでしょう。では今からあなたが私のマスターってことでいいしょうか?”
“な……に?”
アーチャーの言葉に驚いた声を出したのは後ろにいたリノだった。
この状況で敵のマスターを殺し、自分のマスターの腕を取るどころか、マスターを変えようと言ったのだ。
“アーチャー……。どう、して?”
少しだけど正気を戻したリノの質問にアーチャーが答える。
“どうして……ですか?おかしいですね。聖杯を手に取るために召喚に応じた身として勝てるマスターと契約するのは当然じゃないでしょうか?”
自分が正しいとでも言いたがるアーチャー。
それにリノが叫ぶ。
“あの人は関係ない人たちを巻き込んでるのよ?!そんな人と契約してまで聖杯が必要って言うの?アーチャー!”
“私が正義の味方とでも思っているのか?”
アーチャーがサーヴァントに召喚された以来、初めて誰かに敵意を示す。
“そう、間違ってる?あなたは生前に人を助けていたじゃない。”
リノの言葉に彼の表情が歪む。
“間違ってる。人を救ったのはただの命令だったからだ。人間など自分しかわからない存在だ。そんな人間を助けるわけあるか。”
羿【げい】。
古代中国の神話に出る伝説の射手神。
天帝である帝夋の息子たちである十人の太陽が同時に空に浮かび、地上は灼熱地獄のような有様となり、作物も全て枯れてしまった。
それを解決するため帝夋は羿に紅色の弓と白羽の矢を与えて地上に派遣したが、羿は十人の太陽の中で九人を殺してしまう。
その後も羿は、各地で人々の生活をおびやかしていた数多くの悪獣を退治し、人々にその偉業を称えられた。
しかし自分の息子たちを殺したことで帝夋が羿と妻の嫦娥【じょうが】を神籍から外したため、彼らは不老不死ではなくなってしまった。
羿は崑崙山の西に住む西王母を訪ね、不老不死の薬を2人分もらって帰るが、この薬を一つ飲むと不老不死になり、二つ飲むと仙人になれたため、妻の嫦娥は薬を独り占めにして飲んでしまう。
その後、羿は狩りなどをして過ごしていたが、家僕の逢蒙【ほうもう】という者に自らの弓の技を教えた。
逢蒙は羿の弓の技を全て吸収した後、羿を殺してしまえば私が天下一の名人だ、と思うようになり、ついに羿を撲殺してしまった。
逢蒙は羿を勝つ実力ではなかったため、モモの木で作った棍棒で後ろから殴られ死んだという。
神から外され、人間になっては人間に裏切られる人生。
アーチャーはそれを苦しみ、再び神になるために聖杯戦争に参加したのだ。
“神になるためなら、人間などに使われ、人間など裏切り、人間など殺すのもできる。”
人に裏切られ、もう人であることを拒む英霊。
聖杯を手に入れるなら何でもできると言うアーチャーだった。
それを聴きリノが歯を食いしばり、織衣がアーチャーに話しかける。
“いいですよ、アーチャー。そこまで願う聖杯、私が手に入れさせてあげましょう。行きましょ、アーチャー。”
織衣はそう言って公園を歩き出した。
もうこれ以上リノに興味はないと言うように、血なまぐさい公園を離れる。
それを付いて行ったのかアーチャーも消え、公園に残ったのは腕を失い血の溜まりに倒れたリノだけだった。
織衣がホテルに帰るとキャスターが待っていた。
彼女がキャスターを見て思い出したかのようにイラつき出した。
“アーチャーを逃がすって正気ですか?普通なら死にましたよ?”
彼女の言葉にキャスターが笑う。
“……なにが面白いの?”
眉間に皺を寄せる彼女を見てキャスターが笑いを止める。
“いや、ぶっちゃけキャスターである私がアーチャーを止めるわけないじゃないですか。”
“だから、逃したって?”
“まあまあ、結果としてよかったんじゃないですか。で?その腕はいつまで持っていますか?ミス空小路。”
キャスターが結果論的な話を並べると、彼女はもう話しても無駄かと思ったのかリノの腕と賢者の石を彼に渡す。
“アーチャーの令呪はこっちに移して。私一人で二人のサーヴァントの魔力を充用するには私が弱くなるかも知れないし。令呪を使うのはできないだろうけど賢者の石の魔力量なら十分でしょう。”
“おー、確かにいい考えですね。”
キャスターがそれを受けてすぐ令呪を移す。
キャスターで聖杯をどう手に入れるか悩んでいた織衣がアーチャーと言ういい駒を手に入れる夜であった。
――――――
クラス Archer【アーチャー】
マスター ―
真名 羿【ゲイ】
性別 男性
身長・体重 187cm・72kg
属性 秩序・中庸
ステータス 筋力B 耐久C 敏捷C 魔力A++ 幸運D 宝具EX
クラススキル
単独行動 A+
―マスターのバックアップが全然要らない状態。
対魔力 A
―A+ランク以下の魔術は全て無力化する。事実上現代の魔術師は被害を与えるのが不可能。
保有スキル 神性A / 心眼(偽)B / 千里眼B
宝具
弓と矢 A+
天帝である帝夋からもらった紅色の弓と白羽の矢で名は持っていないが神の武器であるため高いランクを持つ。
――――――
霜がそこを通ったのは午後九時に近い時間だった。
去年十月に工事が終わった公園の側にある道を歩く途中霊体化しているセイバーが話しかけてくる。
‘霜、血の匂いがするぞ。’
それを聴き霜が脚を止めて公園の奥に向いた。
“どうやら監督役がないから戦闘の痕跡が残ったようだ。”
公園の中に入るとそこには血の溜まりができるほどの血塗れになっていた。
‘このくらいの血ならもう死んでるんじゃないか?’
セイバーの言葉を聴きながら霜は血が繋がるところに歩く。
‘これで残ったサーヴァントは四つか、半分くらいってことか。’
セイバーが嬉しそうに言ってる途中に霜が血の痕跡が繋がった果てに着いた。
公園の入り口でその血の跡が切れている。
“このくらいの血を流しても自力で去ったのか?誰かわからないが大したものだな。”
‘殺したやつが死体を持ち去ったかも知れんぞ。’
“そうかもな。とにかく誰なのか確認できてないのは残念だ。”
霜はそう言い後ろを向いて来た道を歩いた。
‘うん?入り口を前にしてなんで戻る?’
“監督役がなくなったから戦闘の痕跡を消さないと大変なことになる。”
‘なんでそれをお前がする。’
セイバーが可笑しいとでも言いたいように言うと霜は魔術で血の痕跡を消しながら返答する。
“監督役がいない今、土地の持ち主である遠坂がするべきだが……。円にこんなことができるはずがないから仕方ない。”
‘そこまでして魔術をバレないようにするべきか?戦士だった私にはよくわからないな。’
“まあ、この程度のことは放置しても魔術とバレるはずはないだろう。ただ大きくなると時計塔から動くだろうから処理しておいた方がいい。”
霜の言葉にセイバーが大きく笑う。
それに霜が、なにが面白い、と聞くとセイバーが答える。
‘いや、なにも怖いと思わなさそうだったお前が時計塔が動くと恐れているのを見るとな。’
それがちょっと面白かっただけだ、と笑い出す。
それに霜はなんてことないように口を開ける。
“お前はよくわからないだろうけど執行者って奴らは結構悪質だからな。封印指定でもないことに執行者を送ることはないだろうけど。”
‘執行者?以前大きなガキが渡したものにキャスターのマスターが執行者って書いてなかったか?’
セイバーを召喚して次の日、魔術と関わった情報屋である鈴木恭一が持ってきた情報によるとキャスターのマスターはロンドンの時計塔から今回の聖杯戦争に派遣された魔術師で執行者とのことだった。
セイバーはそれを見ていたようだ。
“ああ、よく覚えているな。そんなのに興味はないと思っていたが。”
‘まあ、敵を知っていて悪いことはないからな。’
“そうか。……これでいいか。”
いつの間にか血の痕跡を全部消した霜は公園を出て自分の屋敷に向かった。
時間は続き、夜の十一時ごろ遠坂屋敷のベルが鳴った。
家主である円が、この時間に誰だ、と思い扉を開ける。
“どちら様―”
“Hi。遠坂円。”
扉の前には血塗れになったリノが苦痛を抑えながら笑うような表情をして玄関の隣により立っていた。
“うわ、なに?!どうしたの?!”
“……お茶はいいけど。私、入っていい?”
ちょっと頭を下を向いてすぐ笑う顔で話すリノの台詞に円はいつか彼女が一人でこの家に来た時のことを思い出す。
“冗談言ってる場合?!早く入って!”
円がリノを自分の部屋に案内すると彼女は倒れるようにベッドで横になった。
“治療魔術くらいは、使えるよね?円。”
“え?あ、使えるけど―”
円が自身が無いように言う途中にリノが円に頼み目を閉じる。
それに、
“げっ、リノさんが使ったほうが早いよ。”
と円が断るように言ったがリノの返事はなかった。
“え、待って!ここで死なないで!リノさん!”
円がリノの体を揺らせたがリノが起きないとそっと鼻に手を近づく。
“うわ、びっくりした。”
どうやら息はしているようだ。
円は驚いた心を落ち着かせてあれこれ持ってきてリノを看病し始めた。