09
次の日の朝、昨日の晴れた日は続いて空には雲一つなく太陽だけが地上を照らしていて、そのせいか窓で外を見ると普段より晴れたように見えている。
そんな日曜の午前九時ごろ、普段より遅く起きた露はシャワーを浴び、黒いTシャツにブルージーンズを履いてその上にベージュ色のカーディガンかける。
二階の部屋にあるテーブルには来た時から置いてある十六ピースのスライディングブロックパズルが一つ。
今まで置いていたのも知らなかったのになぜか今日目に入って来た。
中々の退屈さでパズルを合わせながら独り言を喋る。
“なんかすることないかな。昨日もそうだけど昼には特にすることがないな。まあ、昨日は結構楽しめたが。”
うーん、どうやら花の形だと思うが。
結構難しい。
“マスターよ、酷いと思わぬか?”
急にライダーが文句を言いだした。
パズルの画を合わせるのに集中しながらライダーに聞く。
“あ?なんだ?”
“昨日のことだぞ。わし抜きで楽しめるとはな。”
“いや、お前も居ただろ?なに言ってんだ。”
パズルを左上から右上の方に順番に合わせていく。
“それは霊体化のままだったではないか。わしも実体化して町を歩きたいのだ。”
“あ、そう?じゃあ出ればいいじゃん。”
上の二行を合わせて残りは半分。
“おお、誠か?では一緒に出ようとしよ、マスター。今の言葉ではデートって言うそれだな!”
“ああ、デートだな。”
お、Rockだぜ。
これで終わりだ。
最後に残った右下の一コマを上に上げてパズルを完成する。
Rock!さすがは俺だな。
初めてのものもこんな短時間に終わらせるとはな。
パズルを完成して喜んでいるとライダーもなにか嬉しいことでもあったかのように言う。
“そうか!では行こう!デートだ!”
“あ?デート?誰と?”
“うん?おぬしに決まってるではないか。”
変なことを言うライダー。
“俺と?誰が?”
“うん?わし。”
はあ?なんで?
“はあ?なんで?”
あまりにも変な言葉に考えが口に出ちゃう。
“今行くって言ったじゃないか。”
うん?そうだったような、してないような。
どうやらパズルに集中しすぎていたようだ。
“うん?いや、そんな覚えないぞ?”
正直に覚えてないというと、約十秒くらいの静寂が流れた。
ライダーが自分の耳をほじて改めて口を開ける。
“……わしが聴き間違ったんだよな?マスターよ。”
―――殺気。
こいつ、俺を殺す気か?!
Fuck!こんなことで死んでたまるか!
“いやいやいや、ちょっと待って。言い間違いだ。行こ!行こうぜ!おお!Rockだぜ!”
“ああ!そうしよ!”
すぐ殺気を消すライダー。
いつそうだったかのようにニコニコ笑いやがる。
こっちは心臓を刺されるんじゃないかと心配したと言うのに。
どうせすることもないだろうし悪くないだろ。
急いで出ようと出ようとするライダーに話をかける。
“おい、出るのはいいけど、その角と服は無理あるんじゃないか?それともなんだ、人じゃないって噂でも振まいて回るつもりか?”
きっと目に立たないわけがない角と江戸時代よりも前の時代の着物。
このまま出ると変に見られることは決まっている。
“ふむ、わしは構わないぞ?さあ、行こう!”
“いや、構わないわけあるか!あほか?!”
奇妙な目で見られるのはごめんだ。
俺が拒むとライダーが困ったように聞いてくる。
“ではどうすればいいのだ。”
“さあ、一応服と帽子は必修だな。仕方ねぇ。一応霊体化で出よ。服を買いに行くぞ。”
こうやって感嘆詞を口にしながら喜んでるライダーを連れて屋敷を出る。
森を約三十分くらい歩いて新都の繁華街に着き初めに目に入った、開いたばかりの大きなショッピングモールに入る。
中にあった衣類店で適当に服を選んだが、ライダーはなんでもかんでも拒否してやがった。
Fuck!女の服なんて買ったことねぇぞ。
結局ライダー自身が選んだやつを俺が取ってレジに持って行くと店員の女が話しかけてくる。
“プレゼントですか?”
どうせ近くのトイレで着替えればいいだろうし複雑な包装は要らないだろ。
“いや、袋でいいです。”
わかりました、と答えた女が会計をしながら話をかける。
“彼女のですか?”
‘ほお、この人よく知ってるの、ふふ。’
Fuck、かなり口のうるさい店員さんだな。
しかもライダーのやつは気持ち悪く笑い始めてる。
“いや。”
超が付くほどの短答。
開きなおして答える。
これくらいならもう話しかけて来ないだろ。
‘うわ、酷いではないか、マスターよ。即答とはな。せめて悩むくらい―’
うるさい、なにを悩むってんだ。
とにかく店員が会計を終わらせ袋を渡す。
それを受け止め店を抜け出した。
ショッピングモールのトイレ。
誰も居ないことを確認して実体化したライダーが服を持って入り着替えてきた。
“どうか?マスター。かなりの可愛さでしょ?だが惚れたら困るぞ?”
長い白のワンピースにベージュ色のニットのカーディガンをかけて頭には白いニット帽子をかぶっている。
まあ、お金を使った価値はあると思うが―
“あ、そして見ろ、露。ペアルックだぞ。同じ色!”
道でマスターと呼ばれたらどうみてもおかしい眼に見られるに決まっているので名前に呼ぶようにしておいた。
ちなみにライダーのことは鈴鹿【すずか】に呼ぶことになった。
それにしてもペアルックとは。
ああ、だからさっきの店員が彼女のか聞いたのか?
“うるせぇ、でどこに行きたいんだ?”
“うーん、さあ?ただ歩きたかっただけだからな。いろいろ回ろうぞ、露。”
決まった目的は無さそうだ。
Fuck、これはどうも長い一日になりそうだな。
朝とは違いちょっと雲がかけた空、どうやら夜には雪が降りそうだな、と思い人が混んでる日曜の繁華街をのんびり歩いて行く。
昨日もそうだったけどこの辺は人が多い。
多分駅がすぐ近くにあるからだろ。
それにしても気温は低いけど太陽のせいか暖かく感じるせいか尚更人が多い。
隣には元々口だけ閉じていたら美人だと思っていたけど、現代の服を着させているとすれ違う奴らの視線が寄り集まる女が一人。
それを知るかどうかライダーは呑気に見回しながら面白いものを見つけたら俺の腕を引っ張り出している。
途中の店に飾られていた時計を見たら時針が二時を指していた。
“おい、鈴鹿。そろそろ昼ごはん行くぞ。もう二時だ。”
“ふむ、早いのう。もうそんな時間なのか。いいぞ、食べに行こう。”
昼にしてはちょっと遅い時間、なにを食べようか、と見回っていると彼女が手を伸ばして店を指した。
“あれ見ろ、露。あの店がよい。”
彼女が指したところには何故か見た覚えがある店があった。
Ahnen erbe【アーネンエルベ】。
きっと昨日入っていた店なはずだ。
“あほか、昨日行っただろ?脳だけ霊体化した状態か?それともなんだ、鳥頭コスプレか?”
“違うぞ、露。昨日はわしが食べなかったではないか!わしも食べてみたいものがあったのだ。”
“あ、そう?まあ、いいぞ。昨日の冷やしチャンポンも悪くなかったしな。”
何がそんなに楽しいのか一日中ニコニコと笑ってる彼女とアーネンエルベへ入った。
入ると室内の暖かい空気が歓迎してくれる。
昨日来た時に結構いいところだと思っていたが意外と人気がないのかランチタイムにも関わらず客はすくなかった。
多い席の中でライダーが窓側の席がいいと言い出したので一番奥の窓側に座る。
今日はなにを食べようかと思いメニューを見ていると彼女が話をかけてきた。
“露、これを一緒に食べぬか?”
“あ?なんだ?”
彼女がこっちにメニューを見せながら指で指している。
そこにはパフェの写真が飾られ、その下にジャンボパフェと書いていて漫画に出そうなカップル限定アイテムがあった。
パフェ?
昨日霜が食べるのを見て食べてみたいとは思ったけどあえて二人で同じものを食べる必要があるか、それに昼と言うかデザートではないか。
そんなことを思い口を開ける。
“お前はそれを頼んで、俺は別のでいいだろ?あえて一つを一緒に食べる必要が―”
“あるぞ!”
言葉が終わる前に即答するライダー・
“いや、お前最後まで聴けよ。パフェはデザートだから別の―”
“食べるぞ、露。”
いや、なんで提案が強要で変わってるんだ。
まあ、ここまで食べたいなら別にいいか。
“Fuck、好きにしろ。”
“ふふ、じゃあこれにするぞ、露。”
たった食べ物一つで喜びすぎるライダー。
笑ながら店員に注文してる姿を見て自分も知らないうちににやってしちゃう。
意外とRockな気分。
今まで一人で旅をしていたが、意外と連れと言うのもいいかも知れない。
ライダーが注文を済ませて俺を見ながら、なんで笑ってるんだ、と首をかじげる。
“あ?笑ってないぞ。”
“そうか?見間違いかのう。”
知り合ってたったの五日目、ただそれだけで俺の性格を把握したのか大概な嘘は見過ごす。
まあ、口が悪い俺の言葉を適当に受け取るのもこいつくらいだろ。
“そういえば、露。わしのねがいは知っているか?言ったかと思うがな。”
召喚した日、アーチャーとのちょっとした戦いが終わり屋敷に帰って聖杯戦争に関して説明する時、ライダーは自分の願いを言っていた。
「マスターよ、わしはな。人として生きたいんだ。鬼ではなく人としてだ。」
なんてことない願いを忘れたかと思っていたけど意外と残っていたようだ。
“ああ、知っているがどうした。”
“覚えているのか、よかった。それでだが、人として生きるには必要なものがあるのではないか?”
“必要なもの?”
“あの、その、なんだ、例えば身分証?とかあるのではないか?”
あ、確かに。
国籍もないし人として生きるにはいろいろ必要か。
“まあ、それくらいは浅上で解決してくれるだろ。聖杯を渡すのに一人作り出すのはなんてことないだろ。”
“おお、そうなのか。ならそれはいいとして、次だのう。”
次?
またどんなことを話すのか何故か不穏な予感がする。
“人になったら何をすればいいんだ?”
“はあ?そりゃあお前がしたいことをすればいいだろ?そこまで俺に聞くのかよ。”
話の途中に大きなパフェがテーブルの中央に置かれる。
大きい。
めっちゃ大きいじゃん、これ。
直径20㎝に高さは30㎝くらいの皿。
その上に苺とチョコ、それどころかあらゆる味のアイスを積み上げポッキーとかお菓子とか果物とかいろんなものを全部引っ込んでる様子。
“おい、これを二人で食べろってことか?”
“いいではないか、美味しそうだぞ?あ、それでだがおぬしは普段なにをして過ごしていた?”
パフェを口に持って行きながらライダーが聞いてくる。
一口を食べてから美味しいのか、おお、と感嘆詞を出して食べ続けている。
“普段、か。まあ、俺の場合は旅行かな。ヨーロッパや中東のほうが聖杯戦争がよく起きるからな。そしてアメリカは一度だけ。”
言いながらスプーンで持ったパフェを口に入れる。
冷たい。
Rock!昨日の冷やしチャンポンもそうだったが中々やるな、この店。
冷たいところか味もいい。
日本に戻って来る度に来てもいいんじゃないかと思うくらい。
パフェの感想をしているとライダーの言葉が聴こえてきた。
“ふむ、旅行か。いいのう。ではわしもおぬしと一緒に旅をすればいいだろうな。”
“What―?”
瞬間的な頭痛で眉間に皺が寄る。
一緒に、旅行?
はあ?なんで?
どうして俺が人になったてめぇの面倒を見ないとダメなのだ。
“なんだ、頭が痛いのか?だから冷たいものはゆっくり食べないとな。意外と子供のようだな、露。”
ライダーは頭痛の原因が自分とは思わないようで笑ながらパフェを食べ続ける。
“おい、Fuckな鈴鹿さん。どうして俺がてめぇと一緒に旅をしないと行けないんですか?”
連れが居ても悪くない、と思ったのは思っただけで実際に居ると面倒に決まってる。
しかもこいつの性格でここで落とせないと本気で連れて来るだろ。
“うん?わしを召喚したのはおぬしではないか?ならこの体が消えるまでその責任を取るのは当然ではないか?”
“はあ?責任?なんだ、てめぇの言葉通りだと子供を産んだら死ぬまで責任とれってことか?あ?大人になったら一人で住むのが当然だろうが。”
俺の言葉を聴いたライダーがパフェを食べながら頷く。
ライダーくらいのあほでも理解したようだ。
“ふむ、確かにそうだのう。でもそんなのはどうでもよい。わしはただ好きな人と一緒に居たいだけだからな。”
パフェを食べながら平然と言う。
好きな人?
なんだ、こいつ。
今俺を好きって言ったのか?
“What!?俺の頭がおかしいのか?まるでお前が俺のことを好きって言ったように聞こえたが?”
いや、どんだけあほでも英霊という奴が人間を?
“うん、そう言ったぞ?”
いやいや、考えてみよ。
そもそもこいつ、男のために自分が連れて来た軍隊とも戦ったやつではないか!
間抜けだ。
間抜けとしか思えない。
“あのー、一応理由でも聞いていいですか、Fuckな鈴鹿さん?”
パフェは減って行くのになぜか食べる気にならない。
一方ライダーはそんな多くのものがどこに入るのかどんどん食べていく。
“そうだな、まずは外見かな。”
“ああ、それは知ってる。そりゃあ惚れるね。”
何故か真剣に考えながら口に出すライダーの言葉に冗談をかけてみたがそれを肯定して話を続けるライダー。
“そうだのう、そして二番目は頭?”
“Fuck、今のは誰が聴いても突っ込むところだろが。って頭ってなんだ、頭って。”
“うん?露は頭がいいだろう?次は―”
“あ、待って。”
事実を喋るライダーを止めて、ちなみに何番目まであるんだ、と聞くとライダーは考えながら指折り数え始める。
その数はいつの間にか十二。
なにがそんなに多いのか未だに残ったようだが。
呆れる。
“あ、もういい。食べろ。それ全部数えてたら夜になるぞ。そんなの人になってから考えろ。”
“うん?あ、そうか?聞いたから数えたのにな。とにかくこんな理由で人になったら二人で旅行だな、露。”
“Fuck、好きにしろ。”
ライダーは俺の返事が気に入ったのか頷いて再びパフェ食いを続ける。
こいつが俺のことを好きだろうが嫌いだろうが俺と関係ない話だが、人になった直後にはわからないところもあるだろうから連れてってもいいだろ。
まあ、全部聖杯を手に入れてからの話だ。
まずは目の前に置いてあるこの大きなパフェを食べることに集中しようか―。
あっという間に、とは言えないが、結構早い時間にその大きかったやつを全部食べ終わらせた。
意外と言うか、当然の食べ応えを感じながら窓の外を見ると雪が降り始めている。
今出ると結構寒いかな、やはり今夜も雪が積もるだろうか、と思っていると何故か店員が近づいてくる。
その手にはコーヒーコップとグラスが乗ってあるお盆を持っていた。
サービスなのか、と思いぼっと見ていると店員が聞く。
“アイスコーヒーはどちら様でしょうか?”
それにライダーが当然なように俺を指し、店員が俺の前にグラスを、ライダーの前にコーヒーコップを置いて離れる。
“なんだ、これは?サービスか?”
“あほか、露。冬にサービスでアイスコーヒーを出す店があるわけなかろう?頭がいいと言ったのは間違いだったかのう。”
ダメだこりゃ、って感じに首を横に振るライダー。
Fuck、俺がライダーにあほって言われる日が来るとは。
“あ、そうかよ。じゃあこれはなんだ。”
“そりゃあもちろんアイスコーヒーだぞ。露は冷たいのが好きなようだからわしが頼んでおいたぞ。”
よくやったろう?と聞いてくるライダー。
いくら俺が冷たいものが好きとは言え、いや、違う。
別に好きではない。
普通だろ、これくらいは。
それにしてもパフェを食べてからアイスコーヒーだなんて、本当に――
“間抜け、冷たいパフェの後に冷たいコーヒーって冷たいのにもほどがあるだろ。”
“えー、間違ったのか?じゃあこれと変えるか?”
そう言い自分のコーヒーを指す。
“いや、いいぞ。もう頼んだし。しかもお前もパフェを食べたのは同じだろ?”
ここまで俺の好みに合わせてくれるやつもないだろ。
いや、まあ、好みというか普通だけど。
そうやって雪が降るくらいの寒い冬の中、冷たいアイスコーヒーを飲むことであった。
アイスコーヒーを飲み終わってから暖かい店を出た。
いつの間にか空から降った雪が地上を真っ白に変えていた。
暗い空に何時かと思ってスマホを出して確認すると四時を超えていた。
カフェで二時間近く油を売ったみたいだ。
意外と時間が過ぎるのが早いな、と思いながらライダーの側を歩く。
“おお、露!あれを見に行こう、あれ。”
なにを見つけたのか急に走り出すライダー。
気を付けろって言葉を出す前にライダーの足が滑り前に倒れそうになる。
それを見て自分も知らないうちに手を出して彼女の腕を掴み引っ張る。
多分テレビに出るドラマでは男子の主人公がヒロインの腕を引っ張って胸に抱いていたけど、どうしてか、どうも踏んでいた場所が悪かったのか自分の足も滑るのを感じて――
その瞬間落下した。
“Fuck!なんで俺まで倒れるんだ。”
恥ずかしい。
周りのやつらが見ながら通るけど、平気な顔で起きてライダーを見ると、なにがそんなに楽しいのかあははは、と大声で笑い始めた。
“うるせぇ、なにがそんなに面白いんだ。さあ、いや、また倒れるか、一人で立てるだろ。”
座っているライダーに向かってうっかり出した手を戻して尻に着いた雪を払う。
それに不満だったのか笑っていたライダーが口を開ける。
“なんだ、なんで戻すのだ。早く手を出せ、露。”
“ガキかよ。一人で立て。”
“やだぞ、おぬしが手を出してくれないと起きないぞ。”
はあ?
まだなにを考えてるんだ、こいつは。
“ああ、そうかよ。じゃあ座ってろ。俺は行くからな。”
俺の言葉にふくれっ面をしているが気にせずに歩き出した。
一人で行くときっとついてくるだろ、と思いながらも……。
ちっ、なんで止めるんだ、俺の脚は。
三歩歩いて後ろを振り向いた。
全然立てようとしていない。
どうも俺がライダーを甘く見たようだ。
Fuck、面倒な女だな。
“おい、起きろ。”
仕方なく戻って手を出すとライダーが待って居たかのようにその手を握って立つ。
“ふん、すぐ出したらよかっただろうに。”
そしていつそうだったかのように微笑みながら歩き出すけど―
“おい、鈴鹿。これ、放さないのか?”
何故か手を放さない。
“放さないぞ?こうすると倒れないだろ?”
いや、それはそうだろうけど。
はあ、仕方ないか、こんなの一日二日でもないし。
俺の手を握って歩き出すライダーにいつものような台詞を投げてくれる。
“Fuck、好きにしろ。”
その言葉になにがそんなに楽しいのかニコニコして歩き出す。
その顔にこっちも笑いそうになるのを耐える。
ライダーは気付いてないだろ、多分。
そうやって手を握って歩いてすることとは店を見るだけ。
もう一時間くらい歩いたみたいなのに見るだけってのも退屈じゃないかなと思い話をかける。
“鈴鹿、どうせここまで来たのにやりたいことはないのか?”
“お、どうした、露?さっきにしたいものを聞くなんて。”
……ライダーの頭の中で俺はどんな人相なんだろ。
まあ、否定はしないけど。
実際、俺が退屈になって聞いただけだし。
“で?したのはあるか?”
俺の言葉にライダーにしては結構長い時間を考えて口を開けた。
“そうだのう、ウエディングドレスってやつを着ておぬしの結婚とかはどうだ?”
……。
“……What?!”
あまりにも驚きなんの考えもできなかったじゃねぇか。
結婚だ?
さっきは旅行についてくると言って今回は結婚か?
もう面と向かって一緒に住もうってことか?!
“いや、あほかよ。そんなんじゃなくて―”
“あははは、まあ、知っているぞ。ただ言ってみただけだぞ。”
そう言って笑うライダーの姿がなぜか気になる。
いや、まって、気になるってなにがだ?!
Fuck!移ったのか?間抜けウィルスでも移ったのか?俺は!
“Fuck!おい、行くぞ、鈴鹿!”
俺は繋いでいたライダーの手を引っ張り歩き出した。
“え?どこに行くのだ、露。”
“うるせぇ!そんなもんやってやるぞ!その結婚てやつさ!”
狂ってる。
やはり召喚の途中に頭の一部分が燃えてしまったのではないか、と思うくらい。
ライダーを会う前には他人の行動なんて気にもしていなかっただろうに。
俺はどうしてもこう狂ってしまったのか。
ライダーの手を引っ張って歩く。
しかしその瞬間、きっと今まで暗かった地上がなぜか明るくなった。
太陽を隠していた雲が消えたのか?
反射的に時間を確認すると六時に近づいていた。
きっと昨日だったら太陽は既に落ちた時刻。
しかも降っていた雪も水道栓を閉めたように止まっていた。
それに俺は光の根源を見つけ始め、とあるホテルの屋上に目を止める。
“Fuck……。なんだ、あれは。”
俺が指す前にライダーは既にそれを見ていた。
“どうやら誰かの宝具のようだぞ。”
ありえない。
あんなのが平然と現れるわけではない。
宝具なのは当然のことだ。
問題はそこではなく――
“Fuck!宝具にもほどがあるだろ、あれはまるで――”
――あれを魔法と言っても驚かないだろ。
魔術の領域とは思わない。
俺とライダー二人が、いや、その場に居た全ての人が見ている空に上がっていたそれは――
“ああ、まるで太陽のようだのう。”
地上の全てを燃えつくそうとする巨大な太陽であった。