形式化された "フック・ソング" のアンチテーゼとしての『フック・ソング』 | 音楽三昧 ・・・ Perfumeとcapsuleの世界

形式化された "フック・ソング" のアンチテーゼとしての『フック・ソング』

5月18日(水)にリリースされた、Perfume 両A面シングル『レーザービーム/微かなカオリ』




「微かなカオリ」はオレはかなり好印象と捉えていたが、"界隈では賛否両論が巻き起こるだろうな"とも考えていた。結果としては「微かなカオリ」PVのフルver.が放映されたことも相まってか、意外と好評のようで・・・(苦笑)。



しかし界隈の中ではやはり "楽曲全体の雰囲気があっさりしている" 、" 引っかかるところが無い" と感じてい人も多いみたいだ。




しかし、オレにとってみればこの楽曲は非常に興味深く、その引っかかりと強い印象、そして面白みを感じている。そして、この楽曲のファースト・インプレッションで短絡的にオレが感じた、その引っかかりと面白みは三点ほど挙げられる。




①ボーカルは一見、単純なユニゾンに聴こえるが、実は微妙にメンバーの"パート分け"がされている


②「だけ」、「だけど」、「けど」のような、か行の"閉鎖破裂音" が耳に残るイコライジング


③リスナーがピアノ演奏技術の稚拙さや違和感と捉えかねない 独特の"もたつき感"





である。






<①ボーカルは一見、単純なユニゾンに聴こえるが、実は微妙にメンバーの"パート分け"がされている>



もしこの楽曲が単純な"ユニゾン" と短絡的に捉え、この楽曲を"ツマラナイ"と切り捨てている方々は、実は本当はあまり音楽に興味が無く、音楽を楽しめていないのではないかとオレは思ってしまった。




この楽曲は、音楽的に各フレーズに最適であると思われるメンバーにフォーカスをあてるために、それぞれのボーカル素材を、微妙に音圧と"Harmony Engine"を用いたコーラス・エフェクトの深さなどを変化させている。


それで、そのフォーカスは"急激に切り替える"という感じではない(楽曲後半では一部、フォーカスを急激に切り替えるところもあるが)ので、「先ほどまであ~ちゃんのボーカルにフォーカスが当たっていると思っていたら、知らない間にかしゆかにフォーカスが当たっていた」という不思議な感覚に襲われる、非常に面白い処理だと思った。




それでこの楽曲を聴いていたら、このCMのようにメンバーの顔がフォーカスごとにコロコロ変わるような映像が、頭に浮かんだ。


これだ。






典型的な"単純なパート分け" より、このようなボーカル処理のほうが、よっぽど音楽的に面白いと思うのだが・・・・ (苦笑)。


ちなみに定位は、久しぶりにしっかりと構築されており、一人にフォーカスを当てている場合は、インディーズ時代のようにボーカルが "ど真ん中" に定位する。







<②「だけ」、「だけど」、「けど」のような、か行の"閉鎖破裂音" が耳に残るイコライジング>



この件に関しては、BLOG仲間であるぱふゅろ~たさんのエントリーでも既に触れられていて、オレも同じ感想を持っている。このか行は、発声学的にいうと"閉鎖破裂音" に該当する。



もう少し具体的に書くならば「だけ」、「だけど」、「けど」の "け" の発声が非常に印象深く、それが気持ちよく聴こえるようなイコライジングとコーラス・エフェクトの傾向となっている。



さらにオレは、音響的にここが気持ちよく感じた。




『知りたいんだけど こわいから』




か行の"閉鎖破裂音" が印象深く、気持ちよく聴こえるようなイコライジングとコーラス・エフェクトを施し、それを連続させることでたたみ込む・・・・・ 。ある意味 "フック・ソング(Hook Song)" と考えてもいいかもしれない。









<③リスナーがピアノ演奏技術の稚拙さや違和感と捉えかねない 独特の"もたつき感">



この件についてはBLOG仲間である、ksykfanさんのエントリーでも指摘されており、このような"違和感" や "引っかかり感" は楽器の演奏経験がある方が多く抱くのではないかと思う。オレもこの点が真っ先に"違和感" や "引っかかり感" として感じた。



この、ピアノ演奏技術の稚拙さや違和感と捉えかねない独特の"もたつき感"は、既に「願い」のシングルC/W ver.のアウトロで確認できる。そして「微かなカオリ」のピアノパート演奏も、ksykfanさんのご指摘の通り、"ペダルを使わずに微妙なデュレーションで弾いたり、タイミングずらしたり" して、独特の"もたつき感"を演出している。



では、この独特の"もたつき感"は、張本人である中田ヤスタカ氏は気がついていないのだろうか?? それは無い話だ。そして、中田氏がこの独特の"もたつき感"が気に入らなければ当然、修正処理をするだろう。



中田氏はmasteringの段階までようやくこぎ着けても、その段階で音色や音圧が気に入らなければ、mixingや演奏・収録のところまで "立ち戻る人" だからだ。




ということは、これは何を狙っての演出意図なのか・・・・。




ポスト・プロダクション的観点から考えると、やはり以前のエントリーでも書いたとおり "オーバー・プロダクションの雰囲気" をなるべく消したいのではないかとオレは考えている。


CDなどの製作過程においては、mixing音源の完成度を追求するあまり "オーバー・プロダクション" いわゆる "作りこみすぎ" に陥ることがある。要するに作りこみすぎると、そのミュージシャン自身が "良い" と思う響きが分からない感覚に陥ったり、音の補正を行ないすぎて、あまりにも音を正確に揃え過ぎると楽曲に勢いや "グルーブ感" が失われていくことがある。元来、中田氏はそれを極度に嫌っている。





演出面で考えると、オレはその稚拙で"たどたどしい" ピアノ演奏から「アップライト・ピアノを弾く、小学生の女の子」がオレの頭の中のイメージとして浮かんできた。




「今にも演奏が破綻し、止まってしまうそうなピアノ演奏・・・・・」




そして、その演奏の稚拙さを醸し出すことで





「旬の女性達の"煌き"とは裏腹な、それらは"永遠ではない" という儚さ・・・・・」






を表現しているのではないかとオレは解釈している。



したがって、そのおかげからか(??!!・笑)「願い」や「微かなカオリ」のピアノ演奏の "たどたどしさ" にオレは胸を締め付けられるような切なさに襲われる(苦笑)。



また、界隈をみると「微かなカオリ」に対しては同様の意見を持っている方々も多いのではないかと思う。









さて、今や日本の音楽シーンを席捲しようとしている、K-POP。その楽曲達は "フック・ソング" とも呼ばれる楽曲構造を採用しているものが多く、最近ではそのトレンドを汲み取って、J-POPでもその形式が採用されている。


そのフック・ソング(Hook Song)の定義としては「特徴的なメロディーラインにのせて、同じ単語を反復する」というものであり、その効果としては、リスナーにそのメロディーとフレーズ、単語に対して強く印象付けを行う、引っ掛かり、いわゆる"フック・ポイント(Hook Point)"を生み出すということを狙っている。

しかし、オレはそのフック・ソングでありながら "引っかからない" 、"印象に残らない" と感じてしまう楽曲も少なくない。そのように感じてしまう楽曲の多くは "フック・ソングの形式だけにとらわれてしまっている" というように思える。要するに





音楽は形式にとらわれすぎてしまうと面白みが欠けていく・・・・・





以前、中田氏は音楽誌のインタビューで、このような趣旨の発言をしていた。





「音楽は形式化すると、途端に面白くなくなる・・・・・」






定義に当てはめると「微かなカオリ」はフック・ソングには該当しないだろう。



しかしそれにも関わらず、オレは「微かなカオリ」を聴いたときに、強烈な引っかかりと印象を抱いてしまった。そしてそのように感じた方々も多いのではないかと思う。




そして、オレはこのようにも思った。





「中田氏は、形式化された "フック・ソング" のアンチテーゼとしての『フック・ソング』を我々に提示してきた」





と。要するに中田氏は



「実は"フック・ソング" とは、一般的に言われているような形式なんか関係ないんじゃないだろうか。 印象的なメロディーやフレーズ、単語を繰り返さなくても、他の音楽的・音響的な要素によって、引っかかりと印象付けができるはずだ。本当の"フック・ソング" とは、そういうものではないだろうか」



と、この楽曲を提示することで言いたかったし、証明したかったのではないかと。そしてオレは、この楽曲を聴くたびに、それがひしひしと伝わってくるような気がするのだ。




そして、



この「微かなカオリ」を "あの" Perfumeが取り組む・・・・・・




このこと自体が、今回の最大の"フック" ではないのだろうか。





その意味と価値を理解できず、短絡的に切り捨てるだけなら・・・・・・




もちろん音楽の捉え方に絶対的なものはなく、リスナーの方々はそれぞれ、聴いたまま、感じたままを抱いていればそれでいいと思う。



しかし、もしファンだったのであれば・・・・・・・




「立つ鳥跡を濁さず・・・・・・・」





最後にそのような愛情を示してもいいのではないだろうか。そういう人をオレは尊敬する。









<○追記1>


まぁ、オレみたいな "偏屈" な奴なんかに尊敬されたくもないだろうが(苦笑)。





<○追記2>



あ~ん、キメ台詞を間違えてしまった(苦笑)。一日晒して、修正させていただきました(笑)。セラミックおじさんさん、ご指摘ありがとうございました。






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