もう何年前のことか忘れました。夏の終わり、某球場跡地の巨大ショッピングモールを歩いていた時のことです。

 場所柄に似合うオシャレなグリーンインテリアのお店で「半額セール」をやっていたのです。

 え? 植物でそんな売り尽くしセールみたいなことするんだ……と、軽い好奇心にかられた私は、ふらりとそのセール棚を覗きに行きました。透明な蓋つきプラカップの中、カラフルなウォータービーズに植えられた、見るからに可愛らしい観葉植物がずらりと並んでいます。定価1000円が500円になっていました。そんなところだけ変によく覚えていたりします。

 

 が、見た目は可愛らしいものの、ラインナップはミリオンバンブーだったりサンスベリアだったりと、まぁ100円ショップの常連さんばかり。いや〜これは500円でもナシでしょ、と立ち去りかけたその時、まったく見覚えのない苗が目に飛び込んできました。

 

「マングローブ」

 

 はぁ? と思わず声が出ました。

 観葉植物に手を出してすでに数年、あちこちの店を見てきましたが、そんなものには一度たりともお目にかかったことがなかったのです。それがどうしてまたこんなお店の半額セールの棚に? なぜ?

 特に植物を買う予定はなかったのでいったん店を離れたものの、そのインパクトは私の胸から去りませんでした。これまで一度も見たことがなかった。ということは、ここで見送ったらきっと2度とお目にかかることはないだろう。やっぱり気になるから連れて帰ろう!

 

 この時の読みは正しく、私はそれからもやはり2度とマングローブが販売されているのを見たことがありません。

 

 だがしかし、衝動買いのおそろしさ。私はマングローブというのがどういう植物なのかまったく知りませんでした。

 帰ってネットで調べてビックリ。かなり(日本で育てるには)めんどくさい植物ではありませんか。

 「環境の変化が苦手なので植え替えを嫌います(植え替えると一年ぐらい生長が止まります)」「熱帯の植物なので寒さに弱いです」「湿ったジャングルの植物なので、水を切らしてはいけません。いつも水が少し溜まっているぐらいの環境がベストです」

 うわ〜、これは無理かも、と思いました。ガーデナーならお分かりでしょう。「寒さに弱」くてかつ「いつも水を切らすな」という植物の冬越しはかなり難しいということを。

 

 寒さに弱い植物を日本で冬越しさせるには、水やりを止めて冬眠させるというのが一般的な方法です。

 ところがこのマングローブ(オヒルギでした)の場合、水やりを止めるどころか、常に湿っている状態をキープしなければなりません。それでなおかつ、普通の観葉植物よりも寒さに弱い。調べてみれば、愛好家は大きな水槽を電熱で加温して冬越しさせているではありませんか。

 そういう毎日コストがかかる設備には手を出したくないのがケチな、いえ、リッチではない植物愛好家というもの。しかし、連れて帰ってしまった苗を見殺しにすることもできません。さぁどうするか。

 

 まず、「環境の変化が苦手」という話を無視し、えいやっとウォータービーズをセラミスに切り替えました。寒さに弱い植物をウォータービーズで冬越しさせるというのはいくらなんでも無謀、という判断からです。

 そして長袖の季節に入ると、グラスで栽培しているマングローブに鉢カバーをつけ、カバーの底にプチプチを入れました。さらに、人間にコートが必要な季節になると、コートの代わりにグラスをプチプチで包んでしまいました。とてつもなく安上がりで頼りない防寒対策です。どんなに冷え込んでも水は切らしません。

 

 その結果はというと、説明通り一年近く生長は止まったものの、マングローブは無加温で冬を越しました。以降も、グラス内側にびっしり生えるコケに耐えられなくなって植え替えた時を除き、今でもゆっくり新葉を出し続けています。

 

 

 この経験から、私はあまり本に書いていない、ある重大なことを教えられました。

 この半額マングローブは、おそらく間違いなく、日本国内でタネから育てられたものです。そしておそらくそこは、加温設備のない(マングローブ的には)厳しい環境だったはずです。

 そう、おそらくそういう環境で生まれ育ったからこそ、加温なし断水なしという厳しい冬越しを無事に乗り切ったのです。別に私の腕とは関係ありません。本やネット上の解説とは違い、日本生まれのマングローブ師匠は日本の冬に慣れていたのです。

 

 この経験と教訓は、その数年後のパキアデ実生にあたりフルに活かされました。とにかく甘くしないこと。今後育てる環境に早くから慣れさせること。我が家の環境に適応できなければ、どのみち大きくなることはできません。

 というわけで、うちのパキアデ達もやっぱり一年目の冬から加温なし断水なしでした。セラミス栽培と土植えの差こそあれ、セーター(鉢カバー)やコート(プチプチ)を着せるという、見た目の良くない気休め保温法も踏襲しました。

 そして、こんなスパルタ冬越しを繰り返した結果、今では真冬でも完全に葉を落とし切らない、二月後半のまだ寒い時期から新葉を出し始める等々、冬の寒さをナメてるような株が普通に見られるようになりました。そう、生まれた時から慣れ親しんだ、我が家の環境にすっかり適応してしまったのです。師匠の教えは正しかったのでした。

 

 

 この経験から言わせてもらいます。やっぱりパキアデは種から育てるのが断然オススメですよと。

 楽しいからとか良い株を選べるからとかそういう理由は置いておいて、とにかく、最初から自分の家の環境に慣らした方が、のちのち育てやすいのです本当に。

 ネットや店頭で苗を買うのはラクですが、それがどういう環境で育てられてきたかは分かりません。温室や加温設備の充実したところで育てられた可能性もあります。そういう苗が、我が家のようなスパルタ環境に置かれると、なかなか適応してくれません。下手をするとダメになります。これが実生なら、まず数株はありますから、不幸にして一株二株がダメになったところで、残った株が(まるで「お前の分まで俺が頑張って生きてやるぞ」と言わんばかりに)立派に生き残ってくれます。余裕です。

 

 そんな自分は、さすがにパキアデ増やしすぎたので、今年はトックリランを蒔きました。我ながら懲りないなぁ……