鈴木一夫には、義明という兄がいる。現在は実家から地元の会社に通勤している。
最近いい年になってきたので結婚相手を見つけようとしているのであるが、中々うまくいかない。どうも実家暮らしで親と同居というのが嫌がれらているようだ。
今日もまた婚活パーティに参加してみた。それなりに意気投合する相手も見つけられた。しかし、親と同居が条件というと難色を示された。そして、大した成果もあげられないまま、パーティは終了した。
義明「今日もまた駄目だったよ。やっぱり今の時代、親と同居だと中々見つけるのが大変だ。」
太郎「最近の若者は我儘になったもんだ。俺が若いころは嫁入りしたら旦那の親と同居をするなんて当たり前だった。そして、みんな我慢してそれに耐えたもんだ。嘆かわしい時代になった。欧米の文化が入ってきたせいで、日本の三世帯同居という良き伝統が廃れてしまった。」
義明「親父、もう一度念のために聞くけど、やっぱり親父やお袋と同居じゃなきゃダメなの?」
太郎「当たり前だろ。お前は長男なんだ。長男というのは一家の跡継ぎで親と同居するのが当たり前。それに年老いたら俺と母さんだけじゃ暮らしていけなくなる。どうしても同居じゃなきゃ駄目なんだ。介護施設なんて俺は行きたくないぞ。」
太郎「それに、最近は国が三世帯同居を推進していて、三世帯同居の世帯は減税してくれるらしいじゃないか。三世帯同居の方がお前にとっても得なんだよ。」
二人の会話を聞いていた一夫はこんなことを考えた。
一夫(そういえば、山田先生の授業でも三世帯同居についてやってたな。気になることがあるから明日質問してみよう。)
翌日
一夫「山田先生、質問があります。」
山田「なんだい?」
一夫は昨日の兄と父の会話の内容を伝えた。
一夫「先生は三世帯同居についてどのように思われますか?」
山田「僕はできる限りやめた方がいいと思うけどね。三世帯同居が幸せであるなんていうのはただの幻想だ。」
一夫「それは何でですか?老後は家族と一緒に暮らすことが幸せだと思うのですが...」
山田「考えてもみろよ。昭和の時代、三世帯同居が当たり前だった時代は嫁姑問題でもめるのが当たり前だったじゃないか。そして、三世帯同居じゃうまくいかないから核家族になったわけだ。やっぱりね、今まで別の家庭で過ごした人が同居を始めても価値観の違いがあって、中々うまくいかないもんだよ。多分、三世帯同居を増やしても昔と同じことが繰り返されると思う。」
一夫「確かに言われてみるとその通りかもしれませんね。私の父は気難しいところがあって、食事の時間は午後7時ぴったりに始めないと気が済まないし、自分以外の人間が自分より先に箸をとるのも許しません。僕や兄はもう慣れましたけど、他の家庭で過ごした人が耐えられるかは分からないです。」
山田「君がいったように、祖父母と同居する親が耐えられないという問題もある。しかし、三世帯同居には祖父母を不幸にする要素もあるんだよ。」
一夫「それは何ですか?」
山田「君は、高齢者の自殺はどういう世帯に一番多いと思う?」
一夫「やはり一人暮らしでしょうか?高齢者の自殺というと孤独に耐えかねて....というイメージがありますし・・・・・」
山田「君と同じイメージを持つ人は多い。しかし、実際は逆なんだ。同居老人の方が独居老人よりも自殺率が高い。しかも、三世帯同居が一番多いんだ。」
一夫「データはあるんですか?」
山田「高齢者の自殺者のうち、独居の人の割合は5%以下だ。そして、60%以上は三世帯同居の人なんだ。」
一夫「一人暮らしのお年寄りは寂しい老後をおくっている。一方、三世帯同居のお年寄りは子どもや孫に囲まれて幸せに暮らしているというイメージがあったんですけど、そうでもないんですね。」
山田「やっぱりね、お年寄りと若い人では生活のリズムや思想やら何から何まで違ってて、同居してもうまくいかないことが多いんだよ。そして、最終的にはお年寄りがのけ者にされていまう例が多い。(自殺死体の叫び)という本によると、高齢者が自殺した家庭の遺族はほっとしてる人が多いそうだよ。家族から除け者にされて寂しさを味わう。これこそが本当の意味での孤独なんじゃないかな。」
一夫「でもそうはいっても、介護が必要になった時のことを考えると、同居していた方がいいのではないでしょうか?介護施設にいれられるのは可哀想だし。」
山田「その説は二つの意味で間違ってるよ。まず、お年寄りは全員が要介護状態になるわけじゃない。死ぬまでピンピンしてる人も多い。もう一つだけど、要介護になった時に家族に世話してもらうのが幸せなんて単なる幻想だよ。皆根拠もなく思い込んでるだけさ。」
一夫「でも介護施設に入った場合、環境はあまりよくないし虐待されるはで大変じゃないですか。」
山田「要介護の人への虐待の加害者で一番多いのは実の息子だよ。二位が夫で三位が実の娘だ。家族だから丁寧に世話してくれると思ったら大間違いだ。虐待の件にしたって、施設の場合は監視カメラで発覚することもあるけど、自宅の介護はそんな可能性は無い。」」
一夫「必ずしも、家族に世話をしてもらうのが幸せというわけではないんですね。」
山田「実の家族だと、被介護者に対する思い入れとかがあったりして、感情的になったり、身内であるが故に無遠慮な態度をとったりで上手くいかないことが多いみたいだ。赤の他人が仕事として割り切ってやるのが一番うまくいきやすいんだよ。」
一夫「成程、家族であることが逆方向に作用してしまっていると。」
山田「僕は思うんだけど、本当に高齢者を追いつめているのは、親と同居を拒否する子どもじゃない。(老後は子どもや孫に囲まれて暮らすのが幸せ)(老後の一人暮らしは可哀想)とか、勝手なイメージを持って、世の親子に同居への圧力をかけていく。そんな世間一般の人々じゃないかな。」
一夫「今日は貴重なお話を聞かせて下さり、ありがとうございました。」
山田「また質問したいことがあったら、いつでも来てね。」
参考文献
自殺死体の叫び (角川文庫)/角川書店

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自殺の9割は他殺である 2万体の死体を検死した監察医の最後の提言/カンゼン

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http://news.livedoor.com/article/detail/10135747/
昔話はなぜ、お爺さんとお婆さんが主役なのか/草思社

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