宮部 みゆき
名もなき毒

「誰か」に続く、杉村三郎シリーズ第2弾なのですが、前作のことは知らずに読みました。
タイトルにある「毒」は、殺人事件を引き起こす青酸カリ、人間の怒りや憎悪といった負の感情、土壌汚染を引き起こす化学物質といったものをすべて表しています。
主人公の杉村三郎は、コンツェルン総帥の娘と逆玉結婚してそのコンツェルンの社内報編集者となっている男性で、人はいいのですが、余計なことに首を突っ込みすぎて、トラブルに近寄ってしまいます。
ストーリー自体はよくできていると思いますが、主人公の設定がいまひとつ魅力的ではない(作品のなかでも意識はされているのですが、やはり苦労がなさすぎ)のと、殺人事件とは別のトラブルを起こす原田ひとみという人間の描き方も不愉快なだけで中途半端という感じなので、宮部作品としてはいまいちというのが読後感です。

金沢 創
妄想力 ヒトの心とサルの心はどう違うのか

著者は、「ヒトの心の進化論」を展開する気鋭の心理学者です。
本書では、「ヒト」が他の動物と最も違う点は、「妄想力」=マルチフレームだと述べています。
マルチフレームとは、ひとつの「もの」を多面的に捉えてしまうことで、これが他人の心を推し量ろうとすることに繋がるということです。
「ヒト」の特色として「言語」が挙げられますが、著者は、あくまで「言語」は二次的なもので、マルチフレームを伝える道具として「言語」を捉えています。
また、「見つめる」ことや「共感する」こともヒトの特色と指摘しています。
「妄想」というとネガティブな語感がありますが、そうした「多面的に捉えること」や「共感すること」により、生き残ったのが今の人類であるということです。
確かに「言語」も重要ですが、著者の言うように、「ひとつのものを見ても、複数の可能性を考え、未来をあれこれと想像する」能力こそがヒトの最大の特徴かもしれません。

伊東 光晴
日本経済を問う―誤った理論は誤った政策を導く

ケインズ研究で知られる著者が、日本のこれまでの経済政策について批判的に分析した本です。
郵政民営化については、米国ですら議論の末民営化しなかったことなどを挙げ、また、2002年からの景気回復は、規制緩和や景気対策のせいではなく、外需と更新投資によるもので、ケインズ理論に則った典型的な景気回復である、など、実証分析とともに示しています。
所得格差の拡大については、高齢化だけでは説明できないこと、所得税は再び累進化すべきことなど、問題点とその対策について述べています。
「会社」については、株主だけのものではなく、ステイクホルダー全員のためのものであることをフォードの例などから説明しています。
目次は以下の通り、論点は多岐に亘っていますが、読みやすく、説得力のある議論が展開されています。

第1章 時流に抗して(1.「回転ドア」とアメリカ社会の新しい階級2.カリフォルニア電力危機に学べ3.郵政民営化論議―アメリカ、ドイツ、イギリス、そして日本4.ステイクホルダー・カンパニーとストックホルダー・カンパニー5.成長なき安定・繁栄は可能か)
第2章 九〇年代不況の前奏曲―金融政策の転換・投機とその崩壊(1.安定の二〇年から不安定の二〇年へ2.銀行の経営基礎の動揺3.巨額のキャピタル・ロスをもたらした投機)
第3章 「失われた二〇年」を検証する(1.日本経済の現在2.九〇年代不況に関する諸説の検討3.有効な政策はなかったのか)
第4章 「失われた二〇年」の帰結(1.財政破綻と再分配機能の喪失2.所得格差の拡大3.戦後労働政策の崩壊4.高齢化にいかに対処するか)
終章 企業経営はこれでよいか

浅田 次郎
月下の恋人

小説宝石に連載された短編をまとめたもので、以下の11編が収められています。
「情夜」「告白」「適当なアルバイト」「風蕭蕭」「忘れじの宿」「黒い森」「回転扉」「同じ棲」「あなたに会いたい」「月下の恋人」「冬の旅」
もうひとりの自分(現在だったり未来だったりしますが)と出合う話が多いのですが、そういうシチュエーションを設定するにしてはいまひとつ話しに面白みがありません。
また、不思議なことが説明されないまま終わってる話もいくつかあり、正直言って、読後感はいまひとつすっきりしませんでした。


西村 賢太
暗渠の宿

「けがれなき酒のへど」と「暗渠の宿」の2編を併録。
女性にもてない、30過ぎで性格もよくない男性が主人公の2編です。
「けがれなき酒のへど」では風俗嬢に騙され、「暗渠の宿」ではやっと手に入れた同棲生活ですが、嫉妬に狂い、暴力を振るいます。
ホントに情けない話で、読んでいてもあまり楽しくはないのですが、主人公の男性は、大正期の作家藤澤清造に傾倒し、その全集を出そうとしている古書マニアというのが風変わりです。
googleで調べてみたら、藤澤清造という作家は実在していました。

倉都 康行
世界がわかる現代マネー6つの視点

第1章から第6章まで、それぞれ「投資時代への期待と幻想―資産運用の環境変化」「ポスト不良債権時代―銀行主導時代の終焉」「経済社会を動かすファンド―「ファンド主義」は定着するか」「米国型金融システムの揺らぎ―強さと脆弱さの危うい均衡」「多極化へ動き出すマネー社会―多様化する国際経済」「金融と社会との対話―金融は役立っているか」と題して、タイトルのとおり、6つの視点から、金融について述べています。
「資産運用」「銀行」「ファンド」「米国」「多極化」「市場主義」がキーワードです。
それぞれの視点で、歴史的経緯から現状、問題点までよく整理して解説されています。
金融という視点から現在の動きを理解するにはいい本だと思います。

浅田 次郎
中原の虹 第二巻

清朝末期の満州、北京を舞台とした中国歴史小説の第2巻です。
張作霖と馬賊たち、西大后と光緒帝と宦官の春雲などを中心に、西大后が亡くなるまでを描いています。
第2巻はどちらかというと西大后が主人公の物語です。
また、清王朝の祖となるヌルハチの子らの活躍の部分は、物語の拡がりをもたらすための記述なのでしょうが、余分な挿話という感じもします(今後生きてくるのかもしれませんが)。
第1巻の感じからすると龍玉を巡る展開になるのかと思ったのですが、第2巻では龍玉はほとんど出てきません。
張作霖の息子張学良が活躍するあたりから出てくるのでしょうか?
第3巻以降での展開を期待します。

山田 詠美
熱血ポンちゃん膝栗毛

小説新潮に連載されたエッセイ「熱血ポンちゃん」シリーズの単行本、今回は2004年から2006年の2年分、24編です。
自分で突っ込みつつ、料理のこと、旅行のこと、酒(と酔って記憶をなくしたこと)、いとこや家族のことなどなどを綴っています。
「貧乏」はいいけど「貧乏くさい」のはダメなど、スタンスが絶妙で、笑いながら読んでしまいます。

文章の面白さは読んでもらわないと説明は難しいのですが、読み続けたいエッセイシリーズのひとつです。

夏目 漱石
それから

「三四郎」「門」とともに漱石の前期三部作の真ん中の作品。
定職に就かず、実業家の親からの仕送りで裕福な生活を送る代助が、親から勧められる縁談を断り、友人の妻である三千代とともに生きる決意をするまでが描かれています。
代助は、典型的な高等遊民で、現代で言えば、親掛かりで長く学生生活を続けているか、定職に就いていない青年といった感じでしょうか。
甘いといえば甘いのですが、西洋的な恋愛と家族、友情といったことを代助の思索を通じて考えさせてくれます。
現代では、姦通罪はありませんから、そのぶん、「不倫」が軽くなってしまいますが、ここで描かれている恋愛は、肉体的な部分は排除されており、純粋な恋愛感情が描かれています。
われわれの世代であれば、主人公の親掛かりの部分は、むしろ家族との葛藤と捉え、既婚者が、不幸な結婚をしている友人の妻に心を寄せる話として読むと、身近な問題として、共感できます。
ほぼ100年前の作品ですが、テーマの古さは全く感じさせません。

渡邊 奈々
チェンジメーカー~社会起業家が世の中を変える

ソーシャル・ベンチャーと呼ばれる新しいタイプの社会事業やNPO、NGOを立ち上げた「社会起業家」18人のインタビューをまとめたものです。


18人は以下の組織とひとたちです。
アショカ財団(ビル・ドレイトン)、エンデヴァー(リンダ・ロッテンバーグ)、アキュメン・ファンド(ジャクリーン・ノヴォグラッツ)、インテグレックス(秋山をね)、コモン・グラウンド・コミュニティ(ロザンヌ・ハガティ)、アーキテクチャ・フォー・ヒューマニティ(キャメロン・シンクレア)、プロジェクト・インパクト(デビッド・グリーン)、国境なき医師団(アン・フシャール)、インターニューズ(アネット・マキノ)、国境なき記者団(ロベール・メナール)、ハウジング・ワークス(原田真樹子)、マックスハベラー(ブレヒア・ヴェルマン)、暫定司法国際センター(アレックス・ボレイン)、シーズ・オブ・ピース(エヴァ・ゴードン)、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(サマン・ジアザルフィ)、青少年のための法律センター(ニナ・チャーノフ)、ソッコルソ・クラウン(ユリ・オルシャンスキー、ジョバンナ・ペッズーロ)、スマイルファクトリー(白井智子)


みな立派な志と行動力を持ったひとたちだと思いますが、紹介した人数が多いため、一人ひとりのバックグラウンドなどが十分伝わって来ないところがありました。

おそらく苦労話もたくさんあると思うのですが、ちょっと格好のいい面に焦点が当たりすぎている感じがします。
実際に組織を立ち上げたひととその組織に後から加わったひとがいて、もちろん優劣はないのでしょうが、やはり立ち上げたひとの話のほうが興味深く、こちらに紙数を割いてほしいと思いました。