青山 七恵
ひとり日和

第131回芥川賞を受賞作。
親戚のおばあさんの吟子さんのところに居候することになった20歳のフリーター知寿の1年を描いた話です。
会話や雰囲気など悪くはないですが、こういう話だったら、マンガのほうがうまく表現できるような気がしました。
芥川賞作品は自分には苦手な作品が多いのですが、そのなかではましなほうでした。

東野 圭吾
使命と魂のリミット

主人公は、心臓外科医を目指す研修医の夕紀。彼女は元警察官の父親を動脈瘤手術で亡くし、医師を志したが、他にも秘めた目的があった…。
医師の使命、警察官の使命など「使命」がこの小説のキーワードです。
犯行の方法として、普通ほかの方法を考えるのでは?と思わないでもないですが、犯人も含めてあまり冷酷な人物が登場にしないのはいい感じです。
どんでん返しというほどのものはありませんが、読後感のいいラストでした。

第4回開高健ノンフィクション賞受賞作。
サリン事件実行犯の一人、オウム真理教徒・豊田亨の同級生であった東大助教授の著者が、裁判所への上申書と併せて執筆した書です。
マインドコントロールへの注意を喚起し、誰でもがその罠に陥る可能性があること、豊田被告を死刑にするのではなく、彼に語らせることによって、その危険性とそれに対する対策を検討し、二度とこうしたことが起こらないようにすべきであると説いています。
「サイレント・ネイビー」とは、海軍の言葉で、黙って任務を遂行し、失敗しても言い訳せずに黙って責任を取ることを言います。
著者は「サイレント・ネイビー」のように黙していては、同じようなことが起こるので、それを語ることによって責任を果たすべきだと主張しています。
この部分の主張には共感できるものがありますが、やはりエリート主義的な視点があることは否めません。
著者は、村上春樹が「アンダーグラウンド」において、豊田被告が専攻していたものが、本来「理論物理」であったのに、「応用物理」であると間違えおり、それは根本的な理解不足のように書いています。
言いたいことはわかりますが、こういうところは鼻につきました。
平山 夢明
独白するユニバーサル横メルカトル

「C10H14N2(ニコチン)と少年」「Ωの聖餐」「無垢の祈り」「オペラントの肖像」「卵男」「すまじき熱帯」「独白するユニバーサル横メルカトル」「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」の8編が収められた短編集です。
2006年度日本推理作家協会賞受賞作。「このミステリーがすごい!」第1位。
これはミステリーと言えるのか?と思いますが広義のミステリーには入るのでしょう。
ただ1位になったり賞をもらったりする作品とは思えないのですが…。
グロテスクや残虐が好きな方にはいいでしょうが、ぼくは好みではありません。


太田 光
トリックスターから、空へ

非常に真面目な本で、生硬といってもいいぐらいの文章です。
イラク問題や靖国問題など政治についての話を中心に、村上ファンドやホリエモンなどの時事問題についても取り上げています。
基本的には、民主主義、平和や歴史に関する著者の考え方は支持するのですが、文章に余裕がなく、主張を展開しているだけのような感じです。
テレビで見る姿や、「日本原論」などのイメージとは全く違う本です。

手嶋 龍一, 佐藤 優
インテリジェンス 武器なき戦争

NHKワシントン支局長などを経て独立した外交ジャーナリストの手嶋氏と外務省のラスプーチンと呼ばれた情報分析のプロの佐藤氏が「インテリジェンス」について対談したものをまとめた本です。
国家の情報戦略について、基本的なことを知るにはいい本だと思います。
今の時代、いわゆるスパイのようなものはあまり必要性がないのではないかと思っていたのですが、整理した情報を確認するためにはヒューミント(工作員)がやはり必要なものだとわかりました。

著者たちは、外務省批判はしているものの、日本もインテリジェンス大国になれると書いているのですが、政治家のレベルを見ているとそのへんはどうかなぁと思いました。
あと、お互いに褒め合い過ぎているのがちょっと鼻につきました。

高杉 良
腐蝕生保(上巻)
高杉 良
腐蝕生保(下巻)

ナンバーワン生保「大日生命」を舞台に、無能なトップとゴマすりに汲々とする役員や営業現場の荒廃を描いた企業小説です。
取材はいろいろとしたのだろうということは感じられますが、小説としてはちょっとひどい出来です。
主人公の吉原は、第一選抜のエリート、本部でも営業の最前線でも仕事はでき、女性にももて、上司には直言するというスーパーマンで、まるで誇張されたマンガのようです。
しかも、会社を辞めて外資に転職するとすぐにちらつかせる、私から見ればイヤなやつ。
終わり方も尻切れトンボで、上下2巻読んだのにこんな中途半端な終わり方は…とあっけにとられてしまいました。

大沢 在昌
狼花 新宿鮫IX

新宿鮫シリーズ9作目です。
このシリーズはこれまで全部読んできましたが、正直なところ今回の作品はいまひとつでした。
鮫島とキャリアで同期の香田とのやり取りでも、香田の考えも決して間違っているとは思えず、邪魔をすることはないのでは、と思ってしまいました。
そもそも泥棒市場というアイデアも日本最大の暴力団が目をつけるほどのものなのか、また警察が把握するのが困難なシステムを維持できるものなのか、その設定に疑問を感じてしまいます。
初期の作品のような迫力も感じられず、結末もあまりすっきりしませんでした。

佐々木 俊尚
ネットvs.リアルの衝突―誰がウェブ2.0を制するか

前半は、Winny問題を中心に、P2Pの動きとその意義を説明し、後半では、「標準化」をキーワードにインターネットの覇権を巡る動きを描いています。
P2Pについては、1960年代のヒッピー運動からの流れを受け継ぐものとして、コンピュータ進化の思想的な意味を説いています。一方で、各国政府の囲い込みの動きや、コンピュータ技術の理想と現実の歴史として、PC-9800の寡占だった日本、TORONの挫折、ウィンテルの独断場、IPアドレスの管理、iPODによる革命などを取り上げています。
タイトルと中身は乖離していますが、Winny問題、コンピュータ進化の思想的な意味について簡潔にまとめられています。
目次は以下の通りです。
「Winny~『私の革命は成功した』」「P2P~エンド・ツー・エンドの理想型」「著作権破壊~ヒロイックなテロリズム」「サイバースペース~コンピュータが人々にパワーを」「逮捕~『ガリレオの地動説だ』」「アンティニーウイルス~パンドラの箱が開いた」「標準化戦争~三度の敗戦」「オープンソース~衝突する国家」「ガバナンス~インターネットは誰のものか」「デジタル家電~iPodの衝撃」「ウェブ2.0~インターネットの『王政復古』」

劇団ひとり
陰日向に咲く

「道草」「拝啓、僕のアイドル様」「ピンボケな私」「Over run」「鳴き砂を歩く犬」の5編が連作のようになっている短編集。
ホームレスにあこがれプチホームレスになるサラリーマンの話、売れないアイドルを応援するオタクファンの話、ちょっとかっこいい男に遊ばれ、身近にいる男のやさしさに気付いた少女の話、ギャンブルで借金を抱え、オレオレ詐欺をしようとする男の話、全く面白くないお笑い芸人とコンビを組んだ少女の話で、それぞれの話の脇役が別の話の主役になっているような構成です。
ストーリー展開やセリフなど、仕掛けはよく出来ていて、芸能人の書いた小説という範疇は超えていると思いますが、やや表面的で、評判ほどではなかったかな、という感じでした。