ゲーリー・ワイス, 青木 純子
証券詐欺師―ウォール街を震撼させた男

証券詐欺といっても、難しい仕組みを使ったような話ではなく、ワラントやIPO株を使っての価格操作で、口先三寸で個人投資家を騙したブローカーの話で、どちらかというと(古いですが)豊田商事事件のようなイメージです。
これが1990年代の米国で実際に起こっていたというのは驚きで、米国の証券市場のイメージとはずいぶん違います。
原題の「Born to Steal」というのは主人公となっている青年についてのことなのでしょうが、「詐欺」というよりは「盗み」といったほうがぴったりきます。
個人投資家を騙すブローカーにマフィアが結びついているという話で、日本でいうと暴力団とフロント企業のような関係です。
この本を読むと日本の証券市場のほうがまだそういった勢力が入りにくく、クリーンな感じがします。

城 繁幸
若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来

企業社会における「昭和的価値観」「年功序列」を批判したベストセラーです。
既得権を持った「レールに乗っている人たち」による若者搾取の構図がよくわかります。
「成長神話」の時代には、「人に優しい」システムであり、技術の継承を可能にしたシステムであった年功序列システムですが、その神話が崩壊した後は、レールに残れたものがそれ以外のものから搾取するシステムとなっています。
日本企業で取り入れられた成果主義も年功序列の枠の中での話であり、より年功序列の上に行くのが難しくなっているだけであると説いています。
特にバブル採用世代は、会社に入ったら成果主義が取り入れられ、下には就職氷河期を突破した優秀な世代がいるという悲惨な状況にあります。
本書は会社の人事制度を中心に若者を犠牲にした搾取の構造を描いていますが、年金制度を始めとした社会制度全般についても同様なことが言えるものと思います。
若者を犠牲にする社会では、少子化も止むを得ない現象です。
企業の競争力や人事制度だけではなく、広く日本社会全体についても考えさせる本です。

香山 リカ
スピリチュアルにハマる人、ハマらない人

タイトル通り、スピリチュアルにハマる人の心理について書いた本で、以下の目次のように「スピリチュアルのカリスマたち」や「江原啓之」を取り上げ、そうした人たちが人気を呼ぶ背景について考察しています。
「序章 私の前世を診てください」

「第1章 人は死んでも生き返る?」

「第2章 スピリチュアルのカリスマたち」

「第3章 江原啓之という現象」

「第4章 スピリチュアルで癒されたい」

「第5章 スピリチュアルちょい批判」

「第6章 あくなき内向き志向の果てに」
基本的には現世利益の追求、時流には逆らわないのが現在受け入れられているスピリチュアルの特徴で、宗教の利他主義とは相容れないものです。
また、「脳トレ」ブームと同様に、「間違いと科学的に証明されない限り正しいと考えてもよい」と考える人が増えていると述べています。
本書で初めて知ったのですが、江原啓之にお墨付きを与えたのが、林真理子や吉本ばなななどの女性作家だと聞いて、ぼくは好きではない作家たちだったので、さもありなんと思いました。

奥野 修司
ナツコ―沖縄密貿易の女王

第二次大戦後、沖縄が対外貿易を禁じられていた頃のことを掘り起こしたノンフィクションです。
副題のとおり、「沖縄密貿易の女王」ナツコを中心にその時代のことが描かれています。
沖縄や八重山諸島は本土よりも台湾のほうが近く、沖縄からは薬莢などの戦争の跡に残されたものが輸出され、台湾や香港からは砂糖や薬品、日常品などが輸入されていました。
暴風や海賊などの危険を冒して密貿易に乗り出したのは、以前からの海洋民としての伝統もあったのでしょう。
50年以上前のことで、関係者の多くも亡くなった後であり、なぜナツコが「密貿易の女王」となったかについて、わからない部分もたくさんありますが、記録も残っていない中、よく調べたものだと思います。

リチャード クー, Richard C. Koo
「陰」と「陽」の経済学―我々はどのような不況と戦ってきたのか

バブル崩壊後の15年間の不況の原因を「バランスシート不況」という概念から説明した本です。
これまで筆者が述べてきたことを理論的にまとめたもので、経済のサイクルには、企業が利益最大化を行う「陽」の時期と企業が債務最小化を行う「陰」の時期があり、それぞれの時期では金融政策と財政政策の効果が全く異なると説いています。
バブル崩壊後の15年は「陰」の時期であり、金融政策は効かず、財政政策こそが必要であり、140兆円の財政出動があったからこそバブル崩壊後もGDPが維持されてきたと説明しています。
確かに部門別資金過不足を見ると、この時期は資金余剰が家計と法人部門なので、資金不足となるのは海外部門と一般政府とならざるを得ません。
政府部門の赤字が小さい場合には、海外に資金が流出することになるので、国内景気は改善しないことになります。
筆者は構造問題、銀行問題といった俗論を廃し、クルーグマン、バーナンキなどの金融政策に偏ったデフレ脱却策を論破しています。
本書は非常に説得力があり、またこの15年間に起こったことをうまく説明しているように感じられます。

安田 佳生
千円札は拾うな。

「千円札を拾うな」というタイトルの趣旨は「拾うと目線が下がり、千円札よりはるかに価値がある物が見えにくくなるからである」ということです。
ぼくは斎藤一人さんの一円玉が落ちていたら拾おう、そうしたらお金が集まってくるという発想のほうが好きです。
やっぱりお金を粗末にしちゃいけないと思いますから。
奇を衒ったタイトルではありますが、本書で言いたいことは、「捨てよう」「変化しよう」ということでしょう。
それ自体は悪くはないと思いますが、それだけのことしか書いてません。

カール・タロウ・グリーンフェルド, 山田 耕介
史上最悪のウイルス 上―そいつは、中国奥地から世界に広がる
カール・タロウ・グリーンフェルド, 山田 耕介
史上最悪のウイルス 下―そいつは、中国奥地から世界に広がる

「第1部 それはなにか? 2002年11月1日~2003年1月1日」
「第2部 それはなにをするのか? 2003年1月3日~2003年2月17日」
「第3部 それはどこからくるのか? 2003年2月21日~2003年4月3日」
「第4部 それをどう殺すのか? 2003年4月8日~2004年1月1日」
SARS(重症急性呼吸器症候群)の発生から終息までを時系列で追ったノンフィクションです。
中国の広東省で発生したSARS(当初は当然名前もなく、原因も不明なわけですが)が香港、北京と広がり、また、ベトナム、カナダ、シンガポールと広がっていきます。
筆者は雑誌「タイムズ」アジア版の編集長で、香港に在住していました。
本書では、広東や香港の医療関係者、ウイルス学者を中心とした活動、中国政府の隠蔽、WHOの動きやウイルス特定への学者たちの競争など、様々な面からSARS騒ぎを追っています。
結果としては、パンデミック(感染爆発)とならなかったわけですが、それはおそらくSARSウイルスが空気感染ではなかったという幸運に助けられたもので、いつパンデミックが起こってもおかしくはないと著者は警告しています。
SARSの原因となるウイルスはハクビシンのウイルスの突然変異種と見られています。
現在は鳥インフルエンザが一番関心を持たれている疫病だと思いますが、いつどのような疫病がパンデミックとなって現れるかわからないという気がしました。

橋元 淳一郎
時間はどこで生まれるのか

なぜ時間は過去から未来に流れるのか。なぜ過去は定まっているのに、未来は未知なのか。
相対性理論や量子論などの物理学を踏まえたうえで、「時間」についてわかりやすく説明しています。
相対性理論では、時間は実数で、空間が虚数であること、量子の世界では時間は存在しないことなど、物理学の基礎がない自分にもなんとなく理解できました。
結論としては、エントロピーの増大に抵抗する形で生命が意思を持つということで、「現在」が存在するようになるということで、これが正しいものなのかどうか、よくはわかりませんが、知的刺激に富んだ本ではありました。

半藤 一利, 戸髙 一成
愛国者の条件―日本海軍の理想と昭和史の失敗に学ぶ

「ノモンハンの夏」「日本のいちばん長い日」などの著者の半藤一利氏と、呉市海事歴史科学館(大和ミュージアム)館長の戸髙一成の共著です。
巻頭に「愛国心を教えることは可能なのか」と題して対談があり、その後、各章を交互に執筆しています。
第3章から第6章までは、戦前の海軍の良かった点、悪かった点などを論じ、「第1章 愛国を論じる前に」「第2章 「美しい国」づくりに必要なこと」「第7章 再軍備を語る前に知っておくべきこと」「第8章 日本は歴史から何を学ぶか」で著者たちの主張が述べられています。
半藤氏は、日本が持つ致命的な弱点として、井上成美の挙げた米国と戦ってはならない理由を引用し、これをひっくり返せばそのまま日本の当てはまると書いています。
すなわち「イ.米国本土の広大さ。政治的にも占領不可能、ロ.首都攻略も不可能、ハ.米軍事力の殲滅不可能、ニ.米国の対外依存度の低さ、ホ.海岸線の長大さ。海上封鎖も不可能、ヘ.カナダ・メキシコと陸続きであり、海上封鎖不可能」です。
また、日本人は軍隊をきちんと扱うことができないし、現実的な仮想敵国はないのだから、平和憲法を高く掲げるべきと説きます。
戸髙氏は、外交能力こそが国を守るのであり、外交交渉の失敗により踏み切った戦争は負けると説き、またA級戦犯は東京裁判の是非を置いておいても、戦争責任者として国策を誤った責任があるのだから、戦士した兵士と一緒に合祀すべきかどうか考えるべきだと主張します。
極めて常識的と思える議論の展開であり、「愛国心」を語る人たちはこうしたことを認識してほしいものだと思います。

金子 達仁, 戸塚 啓, 木崎 伸也
敗因と

「ドイツW杯で日本代表はなぜ惨敗してしまったのか」をテーマに、3人のスポーツライターがインタビューなどをもとに執筆した本です。
日本代表選手のみならず、ヒディンク、ジーコ、カカ、アドリアーノなど多数の海外の選手・関係者にも単独取材して日本の敗因を探り、また日本代表選手のチーム内での確執、W杯期間中の「決起集会」の様子などを描いています。
結論としては、海外組と国内組の確執、攻撃陣と守備陣の考え方の違いなどが浮き出てきます。
また、ジーコの采配や戦術にも問題はあったように見えます。
W杯の結果には当時はやはりがっかりしましたが、この本ではそのあたりのもやもやしたものがずいぶん整理された気がします。