家族10 | 縫いものno部屋

縫いものno部屋

*ばぁばと孫のリメイク教室。楽しんでいま~す

数十年ぶりに腰を痛めてしまった。

もうすぐ、孫の学園の文化祭。

那須まで電車で行く予定だから、それまでに直したい。

 

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結婚してから分かった事だが、牧場には借金があった。

経営ということには、まったくの素人なので、結婚前にそこまで考えが及ばなかった。

え‼一瞬この結婚は間違えだったのか、騙されたのか、と迷いが出た。いや~、まてまて、間違いではない。自分でこの人と感じ取ったのだ。決断したのだから、この先何がしかの答えが出てくるだろうと、夫に聞いてみることにした。

 

牧場は4件の共同経営で、国、県、市の支援でなりたっているということ、この機械を入れたら何十パーセントかの支援が出るということ、一番の年長者がなんでも勝手に決めて事が進んでから事後承諾で印鑑を押すことになってしまうこと。等々。

 

そして、決定的だったのが、酪農という仕事は日本の国土の狭さ、山などの起伏、気候から言って経営としては無理ということ。日本の国で唯一酪農が出来るのが北海道だけだそうだ。

 

思わず聞いてしまった。「なんで酪農なんか始めたの、一生涯借金は付いて回るじゃない」「親たちが、俺を呼び戻すために、この話が有った時に進めたらしい。俺もこのことはカナダから帰って来てから知った」「悪かった」と一言。

ため息が出た。そういうことか。

夫は牧場に上がって行った。

 

毎日はとても穏やかに過ぎた。

天気予報を知りたいと思い、テレビをつける。

天気予報のアナウンスが流れながら、バックの映像は電車の駅のラッシュを映し出していた。

階段をひしめき合いながら足早に降りて行く人々。

フッと、私もあの中に居た。

ぶつかりそうになると、イラっとした。

あの頃の私は狂っていた。と気づいた。

 

そして、今の私は?

毎日、風の音と小鳥のさえずりだけが聞こえる、人間のざわめきは一切無い。

自然の中で、穏やかな毎日を過ごしている内に、人間嫌いだと思っていた自分は本当は人間が好きだったのだ、と

その好きな人間が、自己中で自分の欲望だけを優先していた大人ばかりを見て来た。

本当に人間嫌いなら、そのような部分も見なかっただろう。

無視して過ごし、相手の事など何も考えなかったはずだ。

 

そう、私は人が好きなんだ。だから、嫌な部分ばかり見る事に辛かったんだ。苦しかったんだ。

涙が出た。

 

ある日目覚めると、非常に気分が悪かった。今までに感じたことの無い気持ちの悪さ。

直ぐに分かった。出来たのだ。私も健康体だったか。

 

500メートルぐらい上がった所に牛舎と共に事務所がある。

そこに歩いて行くと夫が居た。

夫にだけ聞こえるように、小声で報告する。

「そっか、俺どうしたら良い?」と少しばかりパニック。

「お医者さんにあまり早くに行くと、検査の段階で下りてしまうことがあるらしいから、来月に入ったら検査に行こうと思う」

「分かった。おふくろ達には俺から話しておく」と・・・

 

月が替わり、田舎の総合病院に行き、検査をすると。当たりー。

病院の帰りに、夫の実家に行き報告。

大喜びだった。「男を産めよ。男を産めよ。」

アッハ!!聞き流した。

 

それよりも、私が気になったのは、私自身だ。

人間嫌いだった私が子供を産んで大丈夫だろうか・・?

お腹の子に問いかけた。「あなたは私が母親で大丈夫なの?私で良いのか?」

独身の頃、外出先で小さなヨチヨチ歩く子供でさえ、傍に来られるとイラッ!とするような私だった。

 

一人で自宅に居る時間、出来るだけ静かなクラッシク音楽を聴き、外の自然の音に耳を傾けるようにした。

心が穏やかに過ごせるように、余計な事を考えないようにした。

 

窓の外は豊かに茂った深緑の木の葉がゆらゆらよそよ風にゆれている。

聞こえるのは、風の音、鳥の囀り。微かに水の流れる音。

穏やかな時間が流れている。

 

 

              つづく

 

 

 

 

 

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