それまで、私は人間嫌いだった。
私の人間嫌いは、幼少期の育ち方も影響していると思う。
ある日の夜、知らない男性の背中で目が覚めて暗闇の中で小さな裸電球を見たところから記憶が始まっている。
(たぶん3歳ぐらい)
夜が明けて目にした部屋は、板間にゴザが敷かれていた。
私は煎餅布団に寝かされていた。
薄く黄ばんだ障子の向こうはに雨戸があり隙間から光が差し込んでいた。
母の声が聞こえている。
外に出ると、目の前は畑。
日陰になるようなものは何もなく、道端には草が生え、畑には燦燦と陽の光が降りそそぎ、土は乾いていた。
その畑と畑の間にに細い道があった。
田舎には車に乗るような人もいないのか、自転車であっても転びそうなぐらいの砂利道だった。
道の向こうにはお隣りさんと思しき一件の家がある。
木々に囲まれ鬱蒼として苔むしているであろう陽当たりの悪い家。ど田舎の茅葺き屋根。
振り向くと、そこにも茅葺き屋根の今にも崩れそうな家。
見知らぬ男と、おばぁさん、そして母が居る。
その人が、私の母親だということは理解していた。
隣といっても畑を挟み目には見えるが、思いっきり大声で呼んでも聞こえそうにないほど遠い。
庭先には鶏がコッコ、コッコと鳴きながら口ばしで地面をつつきながら歩き回っていた。
一見、昔ばなしにでも出てきそうな穏やかな風景。
私は、なぜ、ここにいるのだろう?
ここに来る前はどこに居たの?
何をしていた?
私だけ?
それ以前の記憶はまったく思い出せなかった。
未だに・・・
その日から、茅葺屋根の家での生活が始まった。
つづく
※無断転載禁止