【加筆再掲】
ADHDは短所より長所に重点
苦手なことは
「金で解決できる経済力を持つ」
のが、米国の主流
このブログでも何回か書いてきた、アメリカのADHD自助団体CHADDとADDA。毎年高級ホテルを借り切って年次総会を開き、それに全米各地から参加者が集まってくる。
会場になる「ヒルトン」や「シェラトン」に連泊し、宴会場や会議室で行われるセミナーやワークショップに出席する……という団体だ。はっきり言って「お金持ち集団」。米国の一般的なADHD当事者と経済力は格差があると思う。
まあ、そこはアメリカなので、組織への寄付も多く、参加費が出せない人への援助システムや奨学金制度なども整備されてはいる。
●うまく稼いでいる人もADHDで悩んでいる
「外国人」というエクスキューズで、私は他の参加者にシレッと「どんなお仕事ですか?」と聞いてしまうのだが、一番多いのが起業家社長、自営業、投資家。次いで、不動産業、看護師、公認会計士、税理士、コーチ(コーチングの)などが多い。社長か専門職で、お金に困っていない層の人たちだ。ADHDは知的障害を伴うことも少なくないが、CHADDやADDAの参加者で知的障害のある人と一緒になったことはない。むしろ「IQ高い系」が多い感じがする。
つまり、頭が良くて、仕事とお金がある人でも、自分のADHD的な生きにくさにクヨクヨ悩み、なにか「突破口はないか」と、休暇と金を使って勉強しに来ているわけだ。
●できないことを減らすよりできることを伸ばす
アメリカの自助団体に顔を出して、つくづく「日本と違うな」と思うのは、「足りない部分を補う」ことではなく、「足りないなら悩んでいないで手放せ」というアプローチだ。つまり、片づけがダメなら「片づけられるようになれ」ではなく、家政婦を雇え、金銭管理が苦手なら財政プランナーを雇え。「自分の得意分野で成功して、金で解決できるだけの経済力を持て」ということだ。「自分の強いところを伸ばす」ように“洗脳”される。
私はずっと「家の片づけもできないような人間は、他の何がどれだけ優れていても“ダメな人間”なのだ」と思い込んでいた。だから「なんとか片づけが人並にできるようにならなければ」と思いつめていた。アメリカ人は「お金があるなら、そこは得意な人にアウトソーシングすればいいんじゃない? その分の時間と労力は自分の才能と能力で稼ぐことに使えばいい」という風に考えるらしい。
自分の“高い時給”を苦手で手際の悪い片づけで消費するべからず。実に合理的だ。
ということから、「自分のニーズにあったヘルパーを探すにはどういう方法があるか」とか「アウトソーシングするときに話し合っておくべきこと」などをテーマにしたセミナーもある。たとえば、「私が外で稼いでくるので、家事は全て夫に任せたい」というとき、「それはフェアな等価交換であるのか?」「やってもらうことがあたりまえになっていないか?」「夫に感謝の気持ちを伝えているか?」とか。夫婦関係ではなくても、いつも家事を手伝ってくれる友達への「恩返し」はどうしたらいいのかなど、実にリアルで具体的な問題に取り組んでいる。
●やはり起業家、専門職がうまくいく
今、CHADDが最も力を入れているのが、起業家の育成だ。
週1回のオンラインセミナー(双方向)で、起業を目指す人がプランを提出し、財政やマーケティングの専門家や経営コンサルタントから具体的なアドバイスを受け、内容をグループでシェアしている。このセミナーが他業種とのマッチングの場にもなっている。
特にこのジャンルに“力を入れている”ということは、CHADDの活動の歴史の中で、やはりADHD族が最も成功しやすく、経済的にうまくいっているのは起業家だということだろう。
他の働き方としては業界のジャンルを問わず専門性が高い。たとえば、看護師はセミナーへの参加率が高い職業の1つだが、救命救急の専門ナース、在宅看護の専門ナース、小児科専門、ターミナルケア専門といった人が多い。不動産関係者でも、くわしく話を聞いてきいてみると、エリア再開発とか、アンティークに近い中古物件のリモデリングとかニッチなジャンルの人が多い。
そして彼らは自分の生活が「片づけられないレベルに達しないように、週2回“掃除”をアウトソーシング」していたり、「財政破綻しないようにライフプランナーを雇っていたり」するのだ。
日本人は自分が「そうじが苦手だから」と清掃業者に入ってもらうことに罪悪感がある人が多そうだ。なんとなく、清掃業者を使っている人は、自分でも完璧にできるけど「ひとつ上をいくサービスを求めている」イメージがある。逆に「できない人」が外注することには抵抗がある。うちでも母が「まず、ちょっとは片づけてからでないと業者さんは呼べない」と大騒ぎする。だからテレビの「ゴミ屋敷バスター」番組が、勧善懲悪的な演出でヒットするのもわかる気がする。
アメリカ人には「日本はきちんとしてるからADHDとして生きるのは大変でしょう?」とよく聞かれる。ヘタなことはは言えないので「ADHD以外として生きたことがないので比較ができない」とだけ答えている。
●なかなか定着しないADHDコーチング
日本ではコーチングも自己啓発や一部のビジネスジャンルに特化している感があるが、アメリカでは「ADHDコーチ」が多く、子どもでも気軽にコーチングを受けている。週に1回WEB電話で15分ぐらいしゃべるだけなので、それほど負担にはならないのだろう。ずばり、「片づけコーチング」や「家事コーチング」に特化した人もいる。
私も10年くらい前にコーチングを経験したことがあるのだが、担当の日本人コーチが五輪のナショナルチームの指導経験者だったりしてADHD特有の「わかっちゃいるけどできない脳」が全然理解してもらえなかった。精神的にかなり追い詰められもした。米国ではADHDを含む医療系コーチングが盛んで資格制度もしっかりしているのがうらやましい。日本でも早くADHDコーチングが普及してくれるとうれしいのだが。