ADHD族の愛情表現とセックス
発達障害でも「恋」も「愛」もあきらめない
自分を安く売らない
私は注意欠如タイプのADHD(50代)で、日本人女性だけの自助サークルに、もう20年近く参加している。みんな20~30代で仲間入りし、今まで一緒に悩んできた「戦友」みたいな仲。だが、完全アノニマスなので、本名も、年齢も、仕事も、どこに住んでいるかも、ほとんど知らない。そんな集まりでも、日本人の場合は「セックス」「夫婦の愛情関係」の話は、なんとなくアンタッチャブルで、今まで真剣に話をしたことがない。
これが米国の自助団体CHADDやADDAなどのセミナーでは、けっこう人気テーマで、男女参加で定員いっぱいになることが多い。こちらは名札をつけているだが、本人が語らない限り、名前以外の情報は何もない。わかっているのは、みんなパートナーシップとセックスで失敗が多く、悩んでいるということ。で、自分の問題を「積極的にシェア」して、他の人の意見やアドバイスを聞きたがっている。
●自分が「充分」と思う3倍「愛している」と伝えよう
よく出る話が「今やっていることと、私と、どっちが大事なの!?」と、言われてしまうという話だ。私は特にその傾向が強いのだが、ADHDは自分が面白いと感じたり、ノッてやっていることに対して「過集中」になりやすい。その状態のまま、途中で話しかけられると「上の空」になる。そういうとき、パートナーは「私のことを見ていない」「気にかけていない」「愛されていない」と傷つくことが多いようだ。
これに関する解決策は2つ。
- 自分が何かやっているときは「過集中」の状態で、他のことに対しては「上の空」になるが、それは愛情の深さとは無関係だと「わかってもらえるまで、何度でも」説明する。
- 自分が「言いたいとき」だけ、「必要だと感じる回数」だけの、およそ3倍は言葉で「愛してるよ」「大好きだよ」「一緒にいてうれしいよ」という気持ちを伝える。
●相手のムードを察知する
ここで、あえて「肉食系」「草食系」という言葉を使ってみよう。肉食系ADHDは、いつも自分が「何をしたいか」よくわかっていて、相手が「どうしたいか」を無視して振り回しがちだ。一方、草食系ADHDは、自分が「何もしたくない」もしくは「何をしたいのかわからない」ので、相手のプランに安易にのって「全然楽しそうじゃない」と不興を買う。私はこのタイプだ。
この解決策は2つ。
- 相手のムードをモニターする。「遊びたそう?」「疲れていそう?」「楽しそう?」「飽きていそう?」「2人っきりになりたそう?」 もちろん、そのままストレートに言葉で聞いてもかまわない。
- 相手のムードに必ず合わせることはない。「今日は家にいたい」「どうしても行くなら1人で行ってほしい」「今はハグだけしていてほしい」 特に「ハグだけ」は、はっきりと言葉にする必要がある。相手のセクシーな気持ちが強く、ヒートアップしているときは「その気がないこと」をはっきり伝えて避けることも愛情だ。
性的関係から「うまく逃げる」技術は重要。押し切られてしまえば、相手も自分も性暴力の加害者・被害者のような気持ちになりかねない。また、なんどもなんども相手の要求を却下していると、相手が「愛されていない」「自分の魅力が足りない」と誤解しがちだ。
いわゆる“恋愛のかけ引き”はKYなADHD族の最も苦手とするところかもしれないが、怖がることはない。人間関係で必要なことは、幼稚園の砂場で全て教わっているはずだ。
- 自分がしたいことをはっきり言って許可を求める
- 相手がイヤがることはしない
- 相手を傷つけたら「ごめんなさい」と言う
原理は同じなのだ。
●セックスに集中できない
さっきから、しつこく書いてきたように、ADHDは、そのとき夢中になれないことに対しては集中力が続かない。特に女性が「困る」というのが、「セックスの途中で飽きる」という問題だ。ズバリ、これは彼とのセックスが夢中になるほど楽しくないからで、女性側にも問題があることは意識しておこう。
この問題の解決法は4つだ。
- 彼が「ゆっくり楽しむ」または「時間がかかるタイプ」な場合、彼の気分を盛り上げるために自分に何ができるか考える。男性の場合は、彼女のゆっくりしたペースに合わせるよう工夫をする。
- BGMや照明、キャンドルのアロマなど、セックス以外で五感に刺激があるものを遠ざける(実際、音楽がかかっていると「気になってダメ」な人は多い)。
- 手や肌、唇など、自分の感覚に集中してみる。
- 決して、受け身にならない。自分が相手を気持ち良くしていく「新しいゲーム」だと思って楽しむ。
●セックス中に気をつけるべき「過集中」
「集中できない」のと同じぐらいに「過集中」も問題だ。過集中の人は自分の快楽だけを追求しがちで、独りよがりのセックスに陥りやすい。パートナーは最悪、自分のことを「大人のオモチャ」のように感じてしまう。正直なところ、この「過集中」につける薬はない。せいぜいできるのは2つ。
- 相手の反応をよく見る(嫌がっていないか、痛がっていないか)
- 相手に合わせてペースダウンする(ただただ抱きしめて待つ、自分が落ち着くために一度離れる)
●セックス依存症
残念なお知らせだが、お察しの通り、ADHDは中毒性のある快楽に弱く、「治療が必要なレベル」のセックス依存症に陥るリスクが普通の人より高い。自分が「あやしい」と思ったら、一度は主治医に相談してみるべきだが、「最悪の結果」を招かないためにできることは2つ。
- 相手に無理強いしない
- 複数を相手にしない
日本ではまだ注目されていないが、セックス中毒および性暴力は女性が加害者に、男性が被害者になることもある。自分がセックスで他人を傷つけないために、最低限のルールは守ろう。