真夏のような、否、真夏の蒸し暑さが残る夜…。

久しぶりに、薄暗い壁に張り付いた『ヤモリ(守宮)』を目撃しました。

 

「雨の動物園」 ―私の博物誌― 舟崎 克彦

「トカゲとヤモリ」から抜粋

 

「私のモットーは地味に、そしてたしかな道を行くことです」

ヤモリ。

人は守宮(やもり)といってこの生物を尊敬するが、

ドアなどをしめたとたんにペタンと床に落ちてくれば、

十人が十人とも「キャッ」とさけんで逃げだしてしまう。

 

 

夜は彼らに、なんか格別な魔力をあたえるのだろうか。

だが、こんな時こそ「地味でたしかな道を行く」者のうでの見せどころだ。

全身が目だ。

0.01秒の、その瞬間のためにヤモリは待って、待って、待ちつづける。

イラガだ。

だが、とびかかるにはすこし遠すぎる。

すすむのがわからないほどすこしずつ、蛾にしのびよってゆく。

つぎの瞬間、なにごともなかったようにはりついて、獲物をのみこんでいる。

 

こいつはまぎれもない、恐竜だ。

私は思う。いや、恐竜なんかよりずっとたくましい。

太古の、あの地ひびきをたてて大地をかけずりまわっていた連中は、

たしかに堂々としてはいたかもしれないが、

敵にしっぽをくれて逃げ出す知恵も、

やみにまぎれて生きのびる方法も知らなかった。

 

 

彼はつよく、

こわいもの知らずだったからそんなことをする必要がなかったんだ。

でも、それはほんとうは強いことじゃなかった。

イグアノドンもティラノサウルスも、

この小指ほどの親類にくらべたら、ずっとよわく、もろい生き物だったんだ。

だってやつらはもう、生き残ってはいないんだから。

 

【ヤモリ】

体長120~150ミリ。背は灰色で不規則な褐色の斑紋。

昆虫などを捕食。尾はトカゲと同じく「自割」し「再生」する