ゲストハウスのチェックアウトは、
宿泊代は予め清算済なのでいつ、何時に挨拶もなく出て行っても大丈夫。
この日は、吉野山観光では一番奥の「奥千本」目指して、
ひたすら歩きます。
吉野の山を谷から尾根、山頂へと埋め尽くしていく桜は、
下千本、中千本、上千本、奥千本へと時を移しながら上って行きます。
奥千本で最初に出会うのは、世界遺産に登録されている『金峯神社』
金峯神社(きんぷじんじゃ)
地主神の金山毘古命(かなやまひこのみこと)を祀る神社。
きょう一日の無事を祈って静かに参拝。
平安時代中期の最高権力者の藤原道長も訪れていることが、
「栄華物語」に記されているそうです。
無人の金峯神社の参拝を済ませたら、
世界遺産にも登録されている「大峰奥駈道」の石畳の道を行きます。
真っ直ぐに伸びた美しい杉林を左右に見ながら、
次の目的地の「西行庵」へと向かいます。
美しい杉林の中を歩く
西行庵と大峰山への道との分岐点。
道標を確認して、細くて急な下り坂を辿って西行庵へ…。
大峰山と西行庵への分岐点
崩れた道には手すりの付いた新しい板張りの階段や通路があり、
足を滑らせれば転げ落ちそうなところもありました。
急傾斜の道が終われば、平坦な広場にポツンと佇む『西行庵』。
西行庵
建物は”新築”で復元などではないようですが、
このような場所に3年間、西行は生活をしていたのかと思うと、
目にするものすべてが愛おしく思えてきます。
芭蕉も2度、西行庵を訪れています。
青紅葉の重なり、葉擦れの音、風の音、土の匂い、鳥の声…。
西行庵周辺は西行が庵を結んだ時代と、さほど変わっていないのでは。
僅かな時でしたが、ひとりで過ごした贅沢な時間でした。
吉野山 梢の花を見し日より 心は身にも添わずなりき(西行)
初めて吉野の山の桜を見た時の印象が、どれほど感動的だったことか。
西行庵近くの四方正面堂跡から見た吉野の山々。
しばらく眺めていると、す~っと吸い込まれていくような錯覚に…。
降りて来た道を左に見ながら、苔清水へ。
西行庵近く、西行も飲んでいたという「苔清水」
苔清水からは上り下りを繰り返して、
金峯神社裏手にある「義経の隠れ塔」へと戻ってきました。
義経の隠れ塔
頼朝の命令で送られた、
金峯山寺の僧兵に追われた義経が潜んでいたと伝わる場所に立つお堂は、
元々は三重塔だったようです。
しかし、明治の廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で消失。
現在は大正期に再建された、小さなお堂が建っています。
道すがら、耳にしたのはウグイスの鳴き声と葉擦れの音だけ。
誰一人にも会うことなかった奥千本の山道でした。