伊丹十三さんの幅広い教養と知識、洒脱な文章で綴られたエッセイ、
「ヨーロッパ退屈日記」(1965年)から、
『ペタンク※と焙り肉』
※「ペタンク」(Petanque)は、フランス発祥の球技(球戯・ゲーム)
南仏のゴルドという地方で別荘暮らしをしていたことがある。
どこまでもつらなる、なだらかな丘が、一面のオリーヴにおおわれて、
荒涼たる眺めである。
そういう丘の中の陽だまりに、この別荘があった。
(中略)
南仏の村人達のリクリエイションは、ペタンクという球戯であるが、
これは、見る人に少々哀れを催させるほどに単純なゲームである。
即ち、まず一人が二個ないし四個ずつの鉄の球を持つ。
球の大きさは、野球のボールくらいだろう。
最初のプレイヤーが「コショネ」と称する小さな木製の球を投げる。
これを標的にして順順に鉄の球を投げ、コショネに一番近いものが勝ち、
ということになる。
仮にきみの球が一番近く、ぼくが二番であったとすると、
きみは一点を得点する。
仮にきみの球Aが一番近く、きみの球が二番目、Cが三番目、
ぼくの球が四番目であれば、きみの得点は三点である。
このようにして得点を加え、最初に十五点に達したものが勝利者になって、
ゲームが終わるという、実に素朴なものであるが、
単純なだけに、却って複雑な掛引き、高度な技術を要し、
その「球趣は尽きるところがない」
わたくしは、今、四人用の球のセットをフランスから持ち帰って、
「全日本ぺタンク愛好家連盟会長」を自称してのである。
ゴルドにおける昼の愉しみはペタンク、
夜の愉しみはハチハチ(※花札)であった。
(後略)
「ヨーロッパ退屈日記」(1965年)の表紙のカヴァーには、
伊丹十三さんの描かれたイラストが使われています。
右下に描かれているがペタンクの鉄の球。
(本の装丁も、ご自分で作成されたそうです。)
※「焙り肉」の部分は省略しました。