ロビーのある階に戻り、自動販売機で缶ビールを求めベランダで風呂上がりの一杯を愉しむ。姫川温泉の泉質はいいので気持ちがいい。でも、まだ列車出発まで時間があるので、どうしようか思案に暮れる。 

 

何気なく露天風呂に目を向けると、どうやら修繕され入浴できるような雰囲気だ。おそらくもう直さないのではないかと諦めていたが、再び階下に向かう。
※白馬荘は内風呂と露天風呂が別々の場所にある

 

白馬荘の露天風呂が復活していた。遠い昔、この岩場から大糸線の車両を撮影したことがあったが、今は風呂を囲む植生が成長して景色は開けない。それでもこの露天に入れるのは嬉しい。これなら値上がりした入浴料も納得できる。

 

「閉店したの―」。今度は入口のカーテンが開いていたので中に入ると、ご婦人が出て来てそう告げた。一昨年までは新姫川第六発電所の現場事務所が目の間にあって、まだ需要があったと思われるが、それも終わり役目を終えたとお考えになられたのかもしれない。店内にあった大きな冷蔵庫も撤去されていた。嬉しかったのはお元気だったこと。私のことを覚えていてくれたこと。でも次に寄る理由は見当たらない。 

 

平岩駅前からすべての店が姿を消した。北海道のローカル線を旅していると、かつては同じように商店や郵便局が存在した地があったが、もう建物も残っておらず、その面影すら探すことが困難になっている。今、そんな時代の境目に存在していることを実感する。(写真/平岩駅に入線してくるキハ)

 

ボックス席を独占できても藤屋商店の閉店は私の心に重く圧し掛かる。勝手に自分の馴染みの店のような気になっていて、営業を続けていることに毎回安堵ししていた。もう平岩駅に下車する意味をなくしたくらい切ないが、同様の問題は、とりわけ地方において身近な話題になっていくに違いない。 

 

嬉しいことがあった。南小谷駅で信濃大町駅行きに乗り換え列車に揺られていると、白馬大池駅にみたことがある女性が写真を撮っている。コメントをやり取りする富山県在住のブロガーさんだ。ご自身のお顔をオープンにしていることから気がついた。思わず手を振るが彼女は私を知らない。後に、怪しい人が手を振っていると思ったとメッセージに返信してくれた。(写真/夕暮れ迫る木崎湖を稲尾駅から写す) 
 


大糸線臨時増便バスで糸魚川へ END