2022年11月27日(sun)

 

なにかの拍子でみつけたダム建設の記録映画。そこには奥只見ダム、梓川3ダム、高瀬渓谷の高瀬ダム、七倉ダムという興味津々の場所が収録されている。しかし、それは個人で買うには値が張り過ぎた。そこで司書に相談すると、長野県関係のダムが二ヶ所記録されているという理由でAVコーナーに配架してくれることになった。

 

リクエストしたのは秋口だったが、おそらく取り寄せに時間が掛かったのだろう。ようやく先週になって貸出し可能と連絡がきた。ちょうど曽野綾子氏が高瀬電源開発の現場を舞台にした小説「湖水誕生」を読み終わるところで、タイミングも良かった。(写真/ビデオキャプチャより) 

 

高瀬ダムはロックフィルダムとしては日本一の堤高を誇る。ダム全体としても黒部ダムに次ぐ第二位の高さ。下流の七倉ダムはやはりロックフィルで揚水の貯水機能をも担っている。その二ダムの間の地下には新高瀬川発電所があるが、これらが同時に建造され、最大出力128万kWの電力を生み、首都圏へと送電している。(写真/記録映画より位置関係を整理) 

 

ロックフィルダムは岩石や土砂を積み上げて建造するため重ダンプで何度も運搬し(写真)、それを踏み固めていく。重力式コンクリートダムのようにクレーンでコンクリートを打設する工法ではないので、工事が佳境の際は、それこそ高瀬渓谷には一日中ダンプのエンジン音が鳴り響いていたのだろう。 

 

曽野氏の小説でも巨大な地下空間を掘削していく様子が描かれているが、それはどうしても文字だけだと想像が及ばない。それが映画だと掘削マシーンで掘り進める様子が描かれ、理解度が進む。(写真/新高瀬川発電所用に掘削された巨大な空間) 
 
 

小説にも映画にも高瀬ダム湛水式の様子が描かれている。それはダムが完成し、これから水を溜める関係者にとっては重要な式典だからだ。その映像の中、大きな看板の前に立つ若い女性が映し出される。現場事務所にも事務員の女性がいただろうから、その関係者かもしれないが、もしかすると、まさに曽野氏本人だったのかもしれない。そう考えただけで想像力がかき立てられる。 

 

「湖水誕生」のあとがきには、田子倉ダムや名神高速道路の建設現場を舞台に書き下ろした「無名碑」に続き、今度はすでに終わった工事ではなく、実際に建造される過程にふれてみたいと願った。ちょうど着工したばかりの高瀬ダムがその候補地になり、その後7年にもわたり高瀬渓谷を訪れることになったとある。女性には無縁の土木の現場に踏み入ることができた感謝の言葉が綴られている。

※ 当時、トンネルは貫通するまで女性を現場へ入れないという約束事が頑なに守られていたはずだ。

 


国道147号と大糸線が渡る高瀬川から上流の高瀬渓谷を望む(写真=11月26日撮影)。高瀬ダムや新高瀬川発電所があるのは、左の尾根の奥。これらが建造されたのは昭和45年(1970)から昭和54年(1979)。私は小学生から中学生に上がった頃だが、あの時代にこんな巨大な構造物が大町に築かれていると知っていたら、曽野氏のようにその現場の息吹を肌で感じてみたかった。無論、当時はそんなことに興味を持つはずがないのだが、その気になれば手が届いていたはずの、ほんの少し前の歴史に思いを巡らす。