泰阜ダムの摩耗が激しいと指摘された中部電力は建設省(現国土交通省)、電力中央研究所と「泰阜ダム補修対策調査団」を結成、現地調査を行う。その結果、1億5,000万円余を投じて摩耗したダム表面に新たなコンクリートを打設する補修工事に昭和44年(1969)着工し翌年には完工している。(写真/泰阜ダムの取水設備を通り過ぎると未舗装の山道になる。貯水池の総貯水容量は1,076万立方メートル) 

 

昭和59年(1984)には貯水池末端の阿知川合流地点で砂利の採取が始まる。同時に上流の飯田市川路・龍江・竜丘地区で堤防を約6㍍嵩上げする事業が、中部電力が200億円余の費用を負担して行われる。国や県も巨額を投じ天竜川の治水工事に乗り出し、地元住民との軋轢は徐々に解消していった。(写真/上流側からみた除塵としゅん渫の設備) 

■ 泰阜ダムに流れ着いた流木を細かく砕いたチップ、ごみ焼却灰から作るエコセメント、碧南火力発電所から出る石炭灰を混ぜて球状に成型した「木玉」という鉢が販売されている。 

 

泰阜発電所に目を向けてみよう。JR飯田線のすぐ上にある4基のサージタンク(写真)。泰阜ダムの取水口から導水路を経由して水が流れ込んでくる。そもそもサージタンクの役割りは、水力発電所が緊急停止する際、勢いよく流れていた水流が一気に止まり、行き場をなくした水の慣性で管内の圧力が急激に高まる水撃作用(ウォーターハンマー)を抑制し、圧力を逃がすための設備だ。水位の上下によって吸収されるため、どうしても巨大な構造物になるという。 

 


泰阜発電所は昭和11年(1936)天竜川電力によって運転開始され、現在は中部電力が管理している。4本の水圧鉄管(写真)から有効落差36.86㍍を流れ落ち4台のフランシス水車を回転させ認可最大出力52,500kW、常時出力12,900kWの電力を生む。 

 

平成23年(2011)東日本大震災により電力供給量が不足した東京電力に対して中部電力は急きょ泰阜水力発電所の設備を改造し、同年3月22日より東京電力向けに2万kWを送電している。つまり中部電力は管轄する60Hzを50Hzに切替えて送電したということになる。(写真/鉄路の堤上から泰阜発電所の変電設備を望む) 
 

 

泰阜発電所で生まれた電力は、泰阜南信線で駒ケ根市にある南信変電所へ。平岡発電所に送電される平岡泰阜線(写真)のいずれも154㎸で送電される。その送電網は、停電に備えて張り巡らされているのだろう。東京電力と中部電力は火力発電において共同出資し株式会社JERAを設立しているが、いずれ配送電も合併する道筋もあるのかもしれない。 
 

 


泰阜ダムサイトの右岸には公園のような緑地があり、何本かも桜の木がある。手前の大きな石には「井上会長記念植樹」とあり昭和43年(1968)11月に植樹されている。その年は、泰阜ダムが危険と報じられたことから急きょ補修工事をすることになった年であり、中部電力の初代社長であった井上五郎会長が現地を訪れ、工事の安全を祈願したと考えられる。 



全国約910地点におけるダム貯水池の堆砂量は平均で総貯水量の10%を切る数値のようだが、泰阜ダムの堆砂率は85%(2015年現在)に達している。地方別の堆砂量では中部地方が最も多く続いて北陸地方で、急流に設置されているダムにはこうした問題が存在する。発電には直接影響がないというものの、しゅん渫には多額の費用が掛かることから電力会社からすれば悩ましい問題だ。(写真/対岸から泰阜発電所をみる。ちなみに泰阜ダムの上流300㍍と下流670㍍の間は禁漁区になっている) 
 


泰阜ダム END