落石駅には宿のご主人が車で迎えに来てくれた。私がこれから落石岬灯台に行くのだと言うと、それなら荷物を宿に置いて、岬の車止めゲート(写真)まで乗せて行ってくれるという。帰りは、歩いて来てほしいと言われるが、宿からゲートまで2㎞以上あり、アップダウンもあったことから大変助かった。 

 

落石岬

さらにゲートから1.2㎞ほど先に落石岬灯台はある。ここからは歩いて行くしかない。現在、午後4時。辺りは濃い霧が巻いていてなんとなく薄暗い。宿の主人は、「久しぶりに霧が出た」と言っていたが、前回の積丹半島神威岬での雨模様といい、岬の絶景には天候に恵まれない。しかし、今日は雨が降る様子はなく、それだけでも有難い。 

 

落石岬

霧の向こうに何かが動く気配がする。よくみるとエゾシカの群れだ。みんな一斉に私をみている。これから先は我々の領域。人間は入って来るな。そう主張しているようにもみえる。しかし、この旅の最大の目的は落石岬灯台。こちらも譲れない。 

 

400㍍ほど歩くと、大正12年(1923)に建造された旧落石無線電信局の建物がある。昭和6年(1931)アメリカのリンドバーグがシリウス号で北太平洋横断飛行を行った際、無線の誘導により濃霧の中、根室港に導いたという逸話を残している。昭和41年(1966)札幌中央電報局に統合され廃止されている。建物はその後、大学教授でもある芸術家がスタジオとして使用しているというが、今でも使っているのかは不明だ。 

 

やがて、アカエゾマツの林がみえてくる。その中に615㍍あるという木道が設置されている。ここからは落石湿原の真っ只中を進むことになる。海岸の方はヒグマの生息地ではないらしいが、念のために熊除けの鈴を持ってきている。 

 

落石岬

アカエゾマツ林を抜けるが、視界は開けない。本来だったら、この先に紅白の灯台とその奥に青い太平洋が望めるはずなのに、今日はただ真っ白な景色が広がるだけだ。辺りには人の気配はなく静まり返っている。波の音も、エゾシカの足音さえ聴こえてこない。 

 

落石岬灯台
やがて笹の原っぱの向こうに、ぼんやりと落石岬灯台がみえてくる。ずっと待ち焦がれていた瞬間が訪れる。憧憬の明治灯台が、今、目の前に迫る。 
 


大人の青春18きっぷ?で道東へ Vol.7に続く