昨年、高倉健が新しい映画を撮ると聞いたときは本当に嬉しかった。この前の作品が平成18年(2006)、中国のチャン・イーモウ監督による「単騎、千里を走る」。それ以来、健さんのことがニュースで伝えられることはなかった。健さんも早80歳、正直いつ訃報が流れても不思議ではない。そんな心配をよそに元気な姿がスクリーンで見れる。そう思って喜んだ。

 

その6年ぶりの映画「あなたへ」の撮影をNHKが追っていた。「プロフェッショナル仕事の流儀」でそのロケの様子が紹介され、さらにロングインタビューにも応じていた。


 

本当のことを語っておきたい―。そんな思いがあったようだ。健さんのプライバシーは今までほとんど語られていないが、在京のときはほとんど毎日馴染みの散髪屋に行くこと(写真)。そこに専用の部屋があり、仕事の連絡場所にもなっていること。朝食は毎日シリアル食品にヨーグルトをかけて食べていることなど知ることがなかった私生活が紹介されていた。


 

その6年ぶりの映画「あなたへ」は、妻の遺言によって散骨のために長崎県平戸島まで旅するもの。妻役の田中裕子とは昭和60年(1985)の作品「夜叉」、平成13年(2001)の作品「ホタル」 で共演しているが、今回の映画ではさらにその演技に心惹かれた。(写真/映画館にあった健さんの主演作品のポスター)
 

 

私が健さんを知ったのは昭和52年(1977)の作品「八甲田山」(森谷司郎監督)だが、脚本家・倉本聡が高倉のために書き下ろしたという昭和56年(1981)の作品「駅 STATION」は私の心を奪った。昭和60年(1985)の「夜叉」にも釘付けになった。ロケ地巡りという言葉がない前に、三方五湖に出掛けたこともある。このいずれもが松本市出身の降旗康男監督によるもの。それ以降、このコンビの映画は今回も含めて必ず観てきた。(写真/降旗監督の母校・松本深志高校で「鉄道員(ぽっぽや)」の試写会に二人が訪れた様子を紹介している)

■「駅 STATION」 のロケ地訪問記はこちら>>> 
 


今回の映画が最後になるかもしれない。そんな健さんの覚悟が伝わった。高倉健は江利チナミと離婚して以来、ずっと独身を通している。以前は家庭を犠牲にしながら信義を通す役が多かった健さんが、ここ数年は逆に家族や妻への愛情を描いたものに出演しているのも、それはまるで周囲の影響で別れざるを得なかった健さんが、亡き江利チエミに向け感謝を伝えたかったと思えて仕方がない。