熱帯夜の怪談② | ぽたらか

ぽたらか

ぽたらかは20年の歴史を閉じます

お犬様が助けてくださった!

 東北大震災後、福島県の山間の村に家を借りて親子交代で住んでいたことがある。そこに出るというのだ。私は震災で行方不明になった人の数だけの泥仏を20,30体室内で乾かしては庭で野焼きをして供養をする、という作業を繰り返していた。その泥仏が半乾きで夜中動きまくって朝、家中泥だらけにしてくれるのは体験済みだ。しかし、息子の場合はそんな可愛いものではない。

 今すぐ、こちらに来てお祓いしてくれ!と、切羽詰まった声でSOSがかかったから、飛んで行った。私が伝授されたお祓いは我々では浄霊バルサンと呼んでいる。準備がいる。だから、翌朝にしようという事になって寝た。その夜、電源を入れてもないプリンターがまるで、人間の声のように「あ‘‘あ‘‘あ‘‘あ‘‘……」とうなりだした。私は慌ててコンセントから引き抜いたが、今度は息子が「ギャー!!」とただならぬ叫び声をして、部屋から飛び出して来た。

「部屋の窓に三人の婆が張り付いてのぞき込んでいる!」でも、叫び声はその恐怖のせいではないそうだ。「朝まで待てない。口がこんなことになっている。」見ると、唇が赤く腫れ、黄色い膿まで出てしまっている。一晩で何でこんなことに。何でも糞もない。慌てて、浄霊バルサンの用意をして、全室いぶりだして回った。

 その間、ほんの20分ほどだったが、みるみるうちに息子の唇は渇いてきて、回復してきた。そして朝、白みかけるとすぐに近くの明神山に登って行った。

 霊にも重さがある。たぶん300gぐらいだろうか。それが三人の婆だから、結構重い。それが私の背中に張り付いているから、普段だと走って登るくらいの登山道が息が切れて辛いことこの上ない。それでも、頂上の御社が見えて来たかと思えば、突然、フワッと爽やかな冷風が頭の上を吹き抜けていって、体が軽くなった。

 この明神様の御遣いはオオカミ様ではないかと思う。ご神体の裏の壁にオオカミが正面を向いているシルエットが浮かび上がっているからだ。「ご苦労だったね!じゃこいつらは貰っていくよ。」っとばかりに三婆を咥えていってくださったか。おかげですっかり軽くなって、息子の口唇炎も完治した。

 しかし、恐怖は終わらない。その三婆は時代は変わってもこの家で自殺か不運な死に方をした人たちなのだろう。その元になったかは知らないが、深夜家の中を覗きにくる人がいて、気持ちが悪いので今はそこは倉庫として使っているだけである。

 つくづく、怖いのは死んだ人ではなくて、生きている人間のほうだということ。クワバラ、クワバラ…。(あ、クワバラという言葉は真言密教で使う、クワンバランといって魔を払うご真言だからね。)