髭が30cmはありそうな自称『アーテスト』爺が借り上げている長屋に入ってきた。薄い白ポロシャツに派手なネクタイを締めて真っ赤なズボンは大きな腹をしまいきれず、腰でかろうじて引っ掛けている。両足は蜂窩織炎で黒ずんでいて杖を頼りにしか歩けない。しかし、大変な大食漢で朝食用のパン3日分を夜食に平らげ、抜け出して缶チューハイを500cc2本買ってきた。
連れて来たケースワーカーが直ぐ介護申請しますと言っていたが、本人は要介護1だと言う。「どこで判定されたの?」と聞くと、口をもごもご。
荷物はない。着の身着のままだ。それにしては薄着過ぎる。高架橋下に住んでいたというのだけれど、この時期にこんな薄着で一泊でもしたら、凍死する。もっとも新橋には昔、元サラリーマンだったか、むかーしは背広だったかと想像できる布端とネクタイのような紐を首から下げて、下半身は丸出しの有名なホームレスがいたが、完全に気がふれていた。
アーチスト爺は今度パリに行くんだと言っていたが、アーテイストって絵を描くの?と聞いても勝手つんぼになる。年金は月7万円は出ているらしくて年金手帳が身分証明になった。そして、役所の窓口で生活保護申請と同時に5千円を借りたらしい。来たのが金曜日の夜で、月曜日の朝に役所に行って、金を借りようとしたらしくて、担当が居なくてそのまま、とんずらをした。
私は長年の経験で、この人はホームレスじゃないなと直感した。年金をもらっているのはおそらく昔の名前で、結婚をして名字を変えて生活保護を他区で受け、介護認定を受けているのかもしれない。生活保護を申請すると役所では名前と生年月日で名寄せをして、他の自治体で受給していないか、本当に住所不定かどうか、調べるものだ。しかし、名字を変えていれば、わからない。
そうやって、生活保護を申請しては当面の小遣いとして3千円くらいもらえるので、東京23区回っていれば、一か月は食べていける。窓口に申請してその日のうちにアパートに入れてやれと、支援団体は言うけれど、こういう手合いが絶えないのだからそれは無理というもの。
昔、私は1週間ほど世田谷区に通った時期があって、その時公園にいたホームレスが気になって声を掛けてみたことがある。警察に薦められて世田谷区の生活福祉課に相談にいったことがあるという。しかし、窓口で500円を渡されて「これで墨田区に行って生活保護を申請しろ。」と言われたそうだ。世田谷区と言えば高級住宅しかないようなイメージだが、23区で一番ケチなところらしい。件のホームレスは意地でもここを動かねえと怒っていた。
不正受給は勿論いけないことだけれど、本当に困った時には生活保護を受けるべきだよ。国民の血税だという人間はいるけれど、所得税や住民税に限らない、みんな何かしらの税金は払っているんだから。払っていないのは皇室くらいなものだから。