若年者ホームレス | ぽたらか

ぽたらか

ぽたらかは20年の歴史を閉じます

10年前の10周年設立記念日

あのクリスマスの日、「7人の小人ならぬ7人のおっさんたちがここに集まってきたんだっけ。

 

「あの、そちらって年齢制限ありますか?」

幼さの残る少女の声である日、電話がかかってきた。

「年齢制限って、若い方の?うちは下から上まで年齢制限はないよ。いくつ?」

「十六です。」

「随分若いね。学校は?家がないの?」

「中学を卒業して、自分で稼いで生きて行けって、追い出されたの。家は借金のせいでみんな夜逃げしていない。小さい弟はお母さんが連れて行った。私は今一人。親戚もいない。」

「大変だね。役所に行って相談してみたら?」

「だめ、役所にいったら、おじいちゃんやおばあちゃんに連絡がいくから、迷惑かけられないから、言っちゃダメだって、お母さんが。私働きたいの。」

「よし、わかった。私がこれから迎えにいくから、今どこ?」

「え?来てくれるの?名古屋だよ。」

「う……。遠い。いや、いいよ。どこだっていくよ。待ち合わせはどこにしようか?」

「……、いえ、やっぱりいいです。ありがとうございます。私のいう事信じてくれて。うれしかった。もう少し頑張ってみます。友達の家に泊めてもらって、でも、もしだめだったら、また連絡していいですか?」

「あら、無理しないでいいんだよ。頑張らなくていいんだよ。いつでもどこからでも電話しておいで。すぐに飛んでいくから。」

「その言葉で元気が出ました。有難うございます。」

それから、十数年、彼女は立派な大人になっているだろう。あれから電話はないが、名古屋だろうが、沖縄だろうが、よし行くと返事した瞬間、私は財布を握って立ち上がっていたから、決して嘘ではない。

さすがに十六歳はびっくりしたが、二十歳のホームレスもいた。

「ネットカフェ難民です。今から歩いて行っていいですか。」と、メールが届いて4時間後、本当に土手を歩いてきた。といっても、河口まででも7キロだから時間がかかりすぎだとは思うが。

彼はいつも朗らかで年寄りの世話も喜んでする、ホームヘルパーの資格をとりたいというので、養成講座に通わしたら、そこの生徒の人妻と不倫して、失踪してしまった。

両親は都内にいて裕福な家庭だそうだから、私たちが援助する必要もないらしいのだが。失踪して数年後、ホームレス支援団体に拾われて、生活保護を受けてアパートに入居するという。住民票がぽたらかにあったため、不動産会社から問い合わせがあって、始めて知った。

直ぐに、不動産会社からぽたらかへ連絡がきたと知って、彼も事情を説明に来た。

「親もしっかりしていて、その若さで生活保護なんて受けられるんだ。」と、若干の皮肉を込めて。

「そうなんですよ。ボクはただ、ぽたらかみたいなところに泊めてもらおうと相談に行っただけなんですけれどね。いきなり、福祉に連れて行かれて保護を申請させられるし、アパートに契約させられるし、おかげで親に知れて、こっぴどく叱られてさんざんですよ。あの支援団体おかしいですよ、ボクなんかが、生活保護もらっちゃいけませんよ。もらう気もないし。」

「彼女は?駆け落ちした。」

「あの後、速攻で振られました。彼女駆け落ちする気なんかさらさらないですよ。」

やっぱりね。ハハ、他人の不幸は蜜の味。

ぽたらかでは、やみくもに生活保護は勧めない。衣食住を保証して、携帯を持たせて、車の免許が失効していたら、取れるまで援助して、それでも、無断で失踪する者は後を絶たない。

失踪して、それでも自力で頑張っていればいいが、生活保護を申請して、健康なはずなのに、病気を作ってその上、パチンコ三昧は空しくて悲しすぎる。

東君は当時四十二歳、軽微な犯罪で刑務所に入り、厚生施設を経て公園暮らしから、ぽたらかに来た。母一人子一人の家庭に育ち、母親の位牌をボストンバックに突っ込んで、いつも抱いて寝ていた。

彼は心底飢えた経験があるらしく、人の余りものでもきれいに平らげる。彼に安定した生活をさせようと思い、活用できる助成金はないものかと調べてみたのだが。

先ずは、ホームレストライアル雇用。一カ月五万円が三カ月いただける。後に社会保険完備して正社員に雇用すれば、就職困難者助成金というものがあるが、そこまでいくかどうかは別の話。

トライアルとはお試し期間という意味で厳しい審査もない。しかし、ホームレスであることを証明しろという。

ハローワークでホームレストライアル雇用を申請したのは、はじめての事業所だったようで、窓口では厚生労働白書なるマニュアル本を開いて、

「ホームレスの定義とは、公園や河川沿い等に起居したる者とあります。それを証明するものがありますか?」と聞くものだから、

「ええ、だから現に公園で路上生活していて、空き缶を拾って少しでもお金ができたらネット喫茶に泊まって、だからネット喫茶の利用者カードならありますが、公園の宿泊利用者カードはありません。」

「ネット喫茶に寝泊まりする人をホームレスとすることまでは、ここには書いてありませんが。」

「いやいや、じゃ、なんですか?そこに書いていないからと言って、駅の構内にいる人たちはだめなんですか?商店街のシャッターの前で寝る人たちは該当しないんですか?廃屋に寝ている人たちはホームレスと呼ばなくて、何て呼ぶんですか?」きりがない。

「ちょっと、待ってください。厚生労働省に電話して聞いてみますから。」

と、慌てて担当者は霞が関に電話をした。すると、霞が関の方が現場に詳しかったようで、『公園で炊き出しに並ぶ行列に整理券を配るでしょう、支援団体が。その整理券でいいんですよ。』と、言われたそうだ。

東君は幸運にも、池袋のNPO法人の炊き出し券を持っていた。それでやっと、ホームレストライアル雇用助成金を受けることができた。

住民票は賃貸アパートを退去すると五年で抹消される。住民票がないと仕事にもありつけない。最終的にどこに住民票があったのか、本人も知らないことが多くて苦労する。

人材派遣会社で勝手に移動させられるのだ。高齢者は連れ去られて、郊外のアパートに監禁され、住民票を移動して生活保護を取らせて、搾取しているNPO法人に実際に遭遇したこともある。

東君はその後、半年で失踪したが、住民票はそのままにしておくつもりだった。携帯も私名義や法人名義にして、若い人には持たせてあるが、彼も私個人名義の携帯を持って出て行っていた。

その携帯の使用料の請求が二週間でなんと、十二万円。アダルトサイトを利用していたらしい。まだ若いからなあ。今後も色々とこの調子で請求が来そうだから、携帯は紛失届を出して、住民票は抹消した。

「福祉課や他の団体の紹介ならいざ知らず、先生はもう勝手に道で人を拾ってこないように!」と、ぽたらかのみんなに言われるのだが、特に寒い中で段ボールで寝ているような人にはどうしても声をかけてしまう。

そうやって性懲りもなく、また拾ってきたのが、四ツ木橋の下で寝ていたMだ。彼も三十六歳。寒の入りの寒いときだったので、また声をかけてしまった。

東君と違って、彼は結婚経験もあり、子供もいた。そんな彼が寒の入りに橋の下にいることになったのは、相応の訳がある。生活態度もきちんとしていて人望があれば、どんなに貧しくても、人並みの生活はできる。それができないという事は、何らかの同情できない欠点があるということだ。

 彼はとにかくだらしない。施設長だったNも、ゴミを分別せず、缶ビールの中身を捨てないまま、生ごみも一緒にゴミ袋に入れて、それを押し入れに隠すという、信じられないゴミ男だったが、まだ、ゴミ袋に入れるだけましだったかもしれない。

着ているものも洗濯しない。食器も食べ残しはそのままで放置する。そんな彼でも年寄りには優しいので、ホームヘルパーの資格を取ることを勧めたが、その受講料と生活費の工面に東京チャレンジネットという、ネット喫茶などでホームレス生活をしている若年者に就職と自立への支援をしようという画期的な東京都の取り組みがある。

職業訓練の間の生活資金として月十五万円をくれるというもの。新宿に相談窓口があるということで、予約をしてM一人で行かせた。でも、予約をする必要もない、そこに相談にいく人は殆どいないそうだから。

そりゃそうだ。申請するにはマイナンバーの通知カードがいるのだそうだ。

「通知カードを受け取るときにはもう、立派なホームレスだったんだから、無理っすよ。」

 Mは派遣の仕事を直接派遣会社に行ってもらってきていた。朝、集合場所に行って働いて、日当もらって三食弁当買って、パチンコにいけば、その日の稼ぎは終わる。そんな毎日だったそうだ。

 最後に住民票があったアパートにまだ住民票が消滅せずに残っていたので、ぽたらかに住民票を設定することができた。健康保険は前年度無所得と申告し、加入することもできた。

 彼の場合は借金がないからすんなりと事が運んだが、以前、ハローワークを通して求人したら、「ホームレスもしくはホームレス状態にある人。」がいくら求人条件でも、雇用保険は絶対加入しなければいけない。すると、労働者は住民票を設定しなければいけないわけで、ホームレスではなくする必要がある。

 そうやって雇用した人の中には、身内が起こした多額の借金の連帯保証人になっていた人もいて、すぐさま、債権回収業者から通知が来てた。

彼は顔色を変えて「これ以上、私がいるとこちらにご迷惑がかかります。」と言って、辞めて出て行った。

 こういう自分の落ち度ではない事情で貧困に陥っている人は、支援の方法がないのが、本当に歯がゆい。「特別調停をかけるとか。支援するよ。」とだいぶ引き留めたのだが。

マイナンバーがあるということは、住所不定じゃないわけで、健康保険もあって、携帯もあって、銀行口座ももちろんあるわけだから、充分に自立できるでしょうよ。

事情があって、住所不定の失踪者として生きていくしか方法のない人もいるわけである。そういう人のことをホームレスと呼ぶのだ。

最近はネット喫茶も身分証明書がいるのだから、益々、若年者ホームレスは孤立化し、生きづらくなっていくかなあ。

 ふてぶてしく生き残って、年をとったら偽名で生活保護を受けて、親や兄弟は消息不明とすればいい。それまでは、焦って犯罪に走らず、わが身を大事に、とにかく生きて生き抜いてほしい。

 今後、若年者ホームレスは増加していくだろうし、国や行政も支援に動こうとはしないと思うから。

Mには車の免許を取得させて、彼はぽたらかを出て派遣労働者として生きている。

なお、東君の時には、ホームレストライアル雇用助成金も就職困難者支援助成金も対象者がホームレスの場合は炊き出しの整理券ではなくて、現在では都内二十三区に五年の期限で建てては壊される路上生活者自立支援センターにいったん入ったものであって、センター長がその証明書を発行するものでなければ、ホームレスとは認められなくなったらしい。

ホームレス状態から逃れたい人はたくさんいるだろう。しかしそういう人がホームレスとレッテルを張られるようなものをわざわざ、自立支援センターを通してまで就職を希望するだろうか。

なんだかなあ……。