年老いた男が訥々と語る、「男親と娘」のお話。
ある葬儀の席に現れた老人。
ざわつく場を後目に、じろりと一瞥して……。
喪主を押しのけて、鬼気迫る表情を見せながら話し始めた。
疑念を呼び起こす、愛の炎。
今宵あなたを、地獄へご招待します。
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(伍)の一
わたくしがこれ程に妻を疑いますのは、このような事があってからのことでございます。
お中元の品を百貨店に買い求めに行った折のことでございます。
「お昼には、遅くとも二時には戻りますから。」
と、朝早くに出かけていきました。
何時頃でございましたでしょうか……。
八時には、おりませなんだでしょう。
「十時の開店には、早すぎはしませんか?」と、わたくし申したのですが。
「早く帰りたいので、並んでいますよ。」
と申します。
まあそう言われれば、それ以上は申せません。
わたくしとしましても、早く帰って店番をして欲しいものですから。
ところがです、待てど暮らせど戻りませんです。
一時が二時となり、柱時計が三時を打ちましても戻りませんのです。
何かの事故にあったのでは? と思いましたが、それならば病院より連絡が入りますでしょうし。
百貨店で何かあったのか、と心配になりました。