年老いた男が訥々と語る、「男親と娘」のお話。
ある葬儀の席に現れた老人。
ざわつく場を後目に、じろりと一瞥して……。
喪主を押しのけて、鬼気迫る表情を見せながら話し始めた。
疑念を呼び起こす、愛の炎。
今宵あなたを、地獄へご招待します。
---------
(四)の十四
ある夜のことでございました。
娘がいつものように私の体を気遣っている時、妻が私の部屋に入るや否やキッとした険しい目で娘を睨み付け、悪態をついて娘を追い出しましたのでございます。
何と言いましたか、うーん。
はっきりとは覚えておりませんのですが、
「いい加減にしなさい!」とか何とか、きつい言葉で申します。
えっ? そ、それは…。ひょっとしたら、
「その辺にしときなさいね。明日、早いんでしょ?」だったかもしれません。
しかし、しかしです。
私が見た妻の顔は、それはもう、恐ろしい形相でございました。
その昔、まだ赤線というものがありました頃のことでございます。
亭主を寝取られたと、娼婦のもとに出刃包丁を手に乗り込んできた半狂乱の女が居たと聞き及んだことがございます。
その女の形相が、妻を見た時、はっきりと思い浮かべられましたのでございます。
もっとも、無理もございません。
まだ三十路も半ばの女盛りでございます。
夫婦の契りを断って、一年近くの月日がたっております。
妻とて女に違いはないのでございますからな。
わたくしが悶々とした夜をすごすのでございます、妻とて然りでございましょうて。
でまあ、娘の為によりを戻そうとしてはみるのですが、やはり口論となってしまいます。