最も恥じるべきは
この話に登場する若者では無く。
こいつらを育てた父親や、周りの大人が奴らを野放しにしたことにある。
見て見ぬ振り
災いを全て回避して近寄らない
にもかかわらず、自分の利益になることは、脇目もふらない節操のなさが、こんなガキどもを量産した一方で、今の子供達は、これよりも少しちゃんとしている。
不思議だ。今の子供達もやがては、こんな大人になるのか?


見れば2人とも30近い。タウンユースのリュックを背負った男と連れの女。地下鉄のドアの所にカップルで立っている。
より掛かれば、ドア横の席に座る人の顔をを直撃する。
そこには50代のサラリーマン。
若い男は、それに気づいているのにわざと直撃を繰り返しながら、連れの女とのお喋りに夢中になる。
そこに、座るオッサンは多分何も言わないとたかをくくって。
黙って耐えると
少なくとも、食ってかかられることは無い。
そう思ってか、むしろ楽しんでいる節さえあった。
一度だけ、座っている人間がリュックを手で防いだ。
すると、この男は更に勢い良くリュックを押し返した。

格好をつけた女性との会話は盛り上がり、女性も男を止めようともしない。


ガサツかつ稚拙な男女だ。

やがて、若い男のリュックが再び強烈に押し付けられた。

面白がっている若い男。

座っていたサラリーマンが、いきなり立ち上がると、カップルの間に体を入れた。
若い男の、顔の前15cmに自分の顔を近づけて、若い男の目を見据えた。
その目は、鋭く暗く、そして強烈な強さを持っていた。
声も出ない若者に、サラリーマンは低く小さな声で囁いた。
「ざけた真似しやがって、てめえのやってることが分かってるんだろうな?
人に迷惑をかけたら普通はどうするんだ」

座っていたサラリーマンの姿とかけ離れた、目つきと言葉、その雰囲気はすでに若い男の反論の余地を奪っていた。
「何よこのおじさん」
連れの若い女が言う。
「よせよ」
若い男が連れの女を止める。
蒼白になる若い男。
サラリーマンは静かに席に戻った。

カップルは次の駅で、逃げる様に降りていった。