冬の朝 都会の繁華街は夜の喧騒が存在しなかったかの如く冷たく静かだ。
北に伸びる裏通りには清掃作業の車両とそれに携わる数人の人の姿、それ以外は人の気配さえ無い。
飲食店から出された、ポリ製のごみ容器の色あせたブルーだけがこの街に色を添えている。
裏通りは100mほどでそれと直角に南に走る通りにぶつかる。
道を挟んで静かな裏通りは続くが、私はここを右折する。
角を曲がると景色は一変した。
強烈な光が正面の低い位置から刺す。
冬の朝の光は残忍ななでに冷たくそして眩しい。
目の前のもの総てが一瞬でシルエットだけになる。
直ぐ前を歩く人の姿さえも色を無くした影となり通りを進んでいく。
影はその人間の性別も表情も着ている服のディテイルも総てのものを消し去る
そこにあるのは人間の無感情な影だけ
彼が彼女、がどんな人間で何を思い何をその人生の中で体験し生きてきて、そしてこれから生きていくのか
その総てをそぎ落とし、人間の影と言う究極に抽象化された姿となり今、私の前を歩んでいく。
光の中を20mも進んだだろうか、大きな交差点の手前で一つの影が止まりこちらを向いたように見えた
さらに、近づいて私は手でひさしを作り影を見た
光の中の影に色が戻り始めた
それが、僕の知る一人の女性だとわかるのには少しの間があった
彼女は順光の中の私をずいぶん前に見つけていたのに