ひとしきり泣いた有美に僕はかける言葉が無かった。

肩を震わせる彼女が、見せ掛けの元気を取り戻すまで車の中に居た。

やがて、今日この場所だけで吹っ切れた芝居をする有美に僕は合わせた。

何処か少年の目をする彼女の笑顔はとても僕の気持ちを悲しくさせたけれど

彼女の深い悲しみと後悔に比べれば、それは何ら痛みを伴わない傍観者の同情に似たものだった。

僕が彼女に対して傍観者の同情を抱く事は、結局また僕自身を許せない自分への苦痛となった。

彼女を手を取り駅へと歩いた。

僕は彼女と同じ電車に乗り、彼女の住む街へと行った。

彼女を家の前まで送った。

2年と少し前まで何度も繰り返したこのシーンが妙に切なかった。

彼女が家に入るまで僕は少し離れた場所で見送る。

ドアに入り際に振り向いて手を振る彼女の仕草を見た時

2年の月日がまるで無かったかの様に僕には思えた。

あの時のままの仕草が今日リプレイされ 僕は思わず涙がこみ上げるのを感じた。


帰り道、一人で電車のドアに持たれ

今日 有美から聞いた話は 今この車内では思い出してはいけないと思った。

窓からは、見慣れた風景が見えて緩やかに流れる

電車はやがてまた僕の暮らす街に戻って来た


自分の部屋にもどり 今日有美が話した出来事を思い返すための封印を僕は自分自身で解いた。

たった2年 そう彼女がオーストラリアで過ごしたのはたった2年だった

1年だけの留学ならば彼女は今までの彼女として戻っただろうか そんな事を考えた


彼女に起きた事は、多分誰を責めても解決する事はないだろう

彼女自身を責めても それは同じだと思う


彼女が休学をして、ゴールドコースに行き語学学校に通いながら旅行業界で働いたこと。

ダイビングの仕事をして、観光ガイドの仕事をして

リックという あの国では石を投げれば当たりそうな男に恋をして。

やがて、彼女は日本人のコミュニティーから自らを遠のけ、リックとその仲間達の間で過ごした。

見るものがときめいて見えたと言う彼女

それは、長くは続かず 彼女は様々な経験をする事になる

リックは彼女を、やがては帰国するアジアというコミュニティーから来た女の子として扱ったのだろうか。

アジアと言うコミュニティーはリックにどう写っていたのか

過去にも同じ様な事が彼にはあったに違いない そして 恐らくは 彼の友人達にも

同じ様な事を 繰り返すのが彼らの彼らなりの若い時のヤンチャな出来事として思い出となっていくのだろう。

悲しいけれど現実なのかもしれない。

有美はリックに恋をしたのだろう そして 有美は恋心を利用されたのかもしれない

有美は学校にも行かず、仕事も徐々にしなくなり リック達と過ごした

借りていた部屋はリックとの生活の場となった

家にはリックとその友人達が居座り

彼らが楽しいと感じる生活が続いた

酒を飲み、煙を吸い 時には 合成された薬までも

意識はリックへの思いに紛れて、有美はそれが自分だと言い聞かせたと言う

有美はやがて、子供を宿す 誰の子か解らない子供を

リックは有美を 友人にも分け与えた

有美はそれを受け入れたのか

その時、有美は、誰の子供なのか解らない子供がリックのものであればと願ったという。

けれど、リックは 少なくても自分ではないと言い

次ぎに、友人達でも無いのではと言った。

最後には、それはお前達アジア人同士で出来た子供に違いないと。

ビール瓶を煽りながら 有美に怒鳴ったという。


部屋の天井は何の変哲もないいつもの風景だった

ベッドの上で、酒が体の中をもう一度回る気がした、酔わない酔い身体を包んだ。

頭は意外な程覚めていて、有美の話を感情を沿えずに思い返していた。

自分に起きた事ではない、僕の前から2年前にさった有美、リックに恋をした有美。


有美は 変わらない仕草で家に入っていつた

あの、光景は2年前のままだった

横たわるベッドの上で

僕は独り言を行った


「アジア人の俺にしとけばこんなことになならないさ」と


自分があまりに情けなくなった


ベッドを出て、部屋を出て 家を出て 海へと歩いた


10分もしないで波音が聞こえた



写真は無関係です

でも、女性には人生があります

 男より それは少し 悲しい



molt posso 追従できない放物線の裏側へ