「2杯目は同じにしよう」

「コニャック かしら?」

「悪くない でも」

「でも何かしら」


「ズブがいい」

「かまわないわ でも」

「でもなんだい」

「男 な感じ」

「それがいい」


霜だらけのボトルから やや緑を感じさせる液体はどこか粘りを感じさせる。

これを凍らせたグラスに注ぐ。

「乾杯」

今度は声を出してグラスをぶつけた。

最初の1杯 爽やかな笑顔の時間

2杯 意味深な微笑

3杯 

「別に酔った訳ではないのよ」

彼女はそういうと、椅子を少しだけ後方にずらせて、組んでいた足を解いた。

一度は前の方に足を真っ直ぐに揃えてのばし

その足を今度は引きつけて背筋を伸ばした

やがて 少し前かがみに男を覗き込んだ彼女

男の目を見ながら 足を開いた

男の目を一直線に見つめるか彼女の視線から 男の目線が外れた

「目を離さないで 私を見つめて」

「それじゃ 見たい場所が見えないじゃないか」

視線を戻して男は言った

「いいのよ 私を見ていて」

「僕が見たい部分も 君には違いはない それに確認をしなければ」

そう言葉に出した男の視線は彼女の視線から離れる事はなかった。

彼女は、開いた足をそれ以上に広げた。

「今なら総てをみれるわ ひらいているのよ」

男はそれでも視線を彼女からそらさない

「見ても良いのか」

囁くように男は尋ねた

「だめよ」

彼女も囁くように言った

男は彼女の視線から自分の目を離さず

「でも、君の目が濡れている この方が 興奮する」

「貴方の目も興奮しているわ 素敵よ」

囁きの会話は バーの中では誰にも知られる事のない会話だった。


「素敵ね この感じ とてもいいわ」

彼女は足を開いたまま囁いた

男は黙って頷いた。


やがて、女は足を閉じると 姿勢を戻した


男は彼女の全体を見た


「貴方はとても素敵だったわ」

「君もいい女だ」


「確認はしたのかしら」

「いや それ以上のものを見た気がする そして楽しみは残すものさ」


グラスのズブを飲み干した。

少しだけ温まったそのズブは 独特のハーブの香りが強く発った。


女は酒の酔いとは違う 極めて小さな死を感じた事を男には告げず。


「もう一杯のみましょう」とだけ言った。


男は酒の追加を促して、グラスを変えてくれと仕草で伝えた。


室温のグラスはどこか艶かしい様に見えた。



molt posso 追従できない放物線の裏側へ