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今日のタイトルは
ショートショート「夜市」
です。
AIさんと仲良くしながら
ショートショート
(短い小説)
を書いてみました。
登場人物、
シチュエーションは
すべて架空です。
夜市
夕方の空港には、
疲れた人の匂いがする。
スーツケースの車輪の音。
誰かを迎えに来た人の笑い声。
コーヒーの焦げた香り。
美香は、自動ドアに映る
自分を見て、少し驚いた。
――こんな顔だったっけ。
五十五歳。
娘が社会人になって一年。
二十三歳になった娘は、
毎日を勢いよく生きていた。
同期と飲みに行き、
休日はフェスへ行き
終電を逃して友達の家へ泊まり、
「人生楽しすぎる」
と笑っている。
そのLINEを見るたび、
美香は安心した。
そして少しだけ、
置いていかれた気持ちにも・・・。
小さい頃は、
世界の中心に自分がいた。
「ママ見て!」
「ママ聞いて!」
「ママ、ママ!」
あの声はもう遠い。
もちろん、
娘が幸せなのは嬉しい。
それは本当だ。
でも、役目を終えたあとの静けさを、
誰も教えてくれなかったな。
夫は悪い人ではない。
けれど二人の会話は、
長年連れ添った
ルームメイトのようだった。
「明日、雨だって」
「そうか」
それで終わる。
子育てが終わったら、
自分の人生を生きよう。
そう思っていたのに、
いざ時間ができると、
自分が何を好きだったのか
さえ思い出せなかった。
だから台湾へ行こうと思った。
理由は、自分でもよくわからない。
ただ、夜市の動画を見た瞬間、
胸の奥がざわついたのだ。
湯気。
雑踏。
赤い灯り。
大きな笑い声。
“ちゃんとしていない世界”
そこへ行けば、
息ができる気がした。
*
その夜、
美香はホテルを抜け出し、
夜市を歩いていた。
赤い提灯が風に揺れる。
鉄板の音。
胡椒の匂い。
人の熱。
子どもが走り回り、
店のおばちゃんが
怒鳴るように笑っている。
人と人との距離が近い。
なのに、
不思議と苦しくなかった。
美香は胡椒餅の店の前で
立ち止まった。
窯の熱で、頬が温かい。
「ひとつ?」
突然、日本語が聞こえた。
え?と振り向くと、
丸顔の女性が笑っていた。
五十代後半くらいだろうか。
小麦粉のついたエプロンをしている。
「あ、日本語……?」
「昔、大阪いたね」
女性はそう言うと、
焼きたての胡椒餅を
紙袋に入れて、美香に渡した。
「熱いうち食べる」
半ば押し切られるように、
店先の丸椅子に座る。
女性も隣にどかっと座った。
「旅行?」
「はい。ひとりで」
「いいねえ」
その言い方に、
美香は少し驚いた。
日本では、
五十代後半の女が
ひとりで海外へ行くと言うと、
どこか事情を探られる
気がしてしまう。
おひとりなの?
自由でいいですね。
旦那さんは?
ご家族は大丈夫なの?
けれど彼女は、
ただ「いいねえ」と言った。
美香は胡椒餅をかじる。
五香粉のかおりがふわっと
熱い肉汁がじゅわっと広がる。
「あつっ」
思わず声が出ると、
女性は大笑いした。
その笑い声につられて、
美香も笑った。
こんなふうに、
知らない人と笑ったのは
いつぶりだろう。
女性は美香の顔を見て言った。
「あなた、力入りすぎ」
「え?」
「肩、ずっと上がってる」
言われて初めて気づく。
身体が、ずっと緊張していた。
女性は紙コップに
お茶を注ぎながら聞いた。
「子どもいる?」
「娘が一人。二十三です。
今年から社会人で・・・。
すごく楽しそうで」
最後の言葉だけ、
少し小さくなる。
女性は頷いた。
「いいことね」
「はい。でも・・・。
なんだか、自分だけ空っぽに
なってしまって」
夜市のざわめきの中で、
その言葉だけが
自分の胸に落ちた。
女性は少し考えてから、
あっさり言った。
「母親、卒業ね」
卒業。
その言葉に、
美香は静かに目を伏せた。
寂しいはずなのに、
どこか温かい。
「これから、自分やる時間」
「自分を……やる?」
「そう。今まで、
母親ばっかりしてたでしょ」
湯気が夜の空気に溶けていく。
女性は火を強くした。
ぼっと炎が上がる。
「日本の女の人、ちゃんとしすぎ」
「人生、ちゃんとやろうとすると疲れる。
差不多好。(だいたいでOKの意)」
女性の言葉が
エコーを伴って聞こえた。
夜市の向こうでは、
誰かが笑っている。
美香は胸いっぱいに息を吸った。
熱い空気が肺に入ってくる。
その瞬間――
「お客さま、大丈夫でしょうか」
遠くで声がした。
気づくと、
美香は飛行機の座席に座っていた。
客室乗務員が、
少しかがむようにして
顔をのぞき込んでいる。
「うなされているようでしたので、
お声がけしました」
頬に触れると、
涙が流れていた。
美香は小さく息を呑む。
窓の外には、
日本の街の灯りが
広がっていた。
そっか、
家族の用事で
北海道行ってたんだ。
なのに。
喉の奥に、
胡椒の香りが
残っている気がした。
夢だったのだろうか。
膝を見ると、
握ったままだった機内誌が
くしゃりと歪んでいる。
その片隅に、小さく
台湾夜市の特集が載っていた。
――人生、ちゃんとやろうとすると疲れる。
あの女性の声が、
耳の奥によみがえる。
「差不多好(チャーブードゥオハオ)」
そっとつぶやいてみる。
差不多好って
「だいたいでOK」
って意味だっけ。
美香はそっと
肩の力を抜いた。
すると、
不思議なくらい
深く息が吸えた。
最後までお読み下さり
ありがとうございました![]()
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