「……っ! ……――!」
 声を出さないのが気に食わなかったわけではないと言えば嘘になる。愛がないかと言ってもそれは嘘だ。カイトはタダシを色々な意味でも愛していたし、色々な愛情を与えていた。
 それでもセックスの時に声を出さないのは如何なものかと毎回思う。

「タダシ」
呼び出せば来る。カイトが短く名前を呼んで、自分が座っているベッドの隣を軽く叩けば、おとなしくそこへ座った。誘う素振りで腰を抱き寄せ、顎を掴んでキスをする。
「相変わらず喋らないねぇ」
 珍しく困惑した表情を浮かべるタダシに、カイトは飄々とした調子で声を掛ける。
「困らせるつもりはないから安心しなよ。いい、ね?」
 この質問も何度投げかけたかわからない。それでも否定や拒絶と言った感情は見受けられないから、まぁ、嫌ではないのだろうな、くらいに思っていた。
「いつも僕だけ喋っているのもつまらないけど、それが君の長所なのかもね。ミッションはしっかりこなす。尤もこの間はロスト寸前まで追い込まれていたようだけど」
「……」
「悔しいけど、僕もあの時はハルキとゲンドウに助けられたけどね」
「……」
「うつむかないで、君の顔が見ていたいんだ」
 今日は抱かない。それだけでいいから。そう付け足したカイトに、やはりタダシは狼狽えたような表情を向ける。
「どうしたの? 抱かれたい?」
 タダシは、カイトが自分にだけこの優しい顔を向けてくれることを知っていた。だから、“抱かない”と言ったのも、もしかしたら距離を置かれたのかもしれないと思ったのだろう。タダシは小さく頷いて、シャツのファスナーを下ろした。
 珍しく積極的なタダシに、こちらもまた困惑したカイトだったが、すぐに気を良くしてベッドにお押し倒した。
「君が悪いんだよ、誘うから」
何処までも落ちてゆく夢を見た。
ただ只管落ちてゆくだけの夢。恐怖はなくて、不思議な事に終わりも見えない。
服がバタバタとはためき、不可思議な感覚とともに目が覚める。


「竜司?」
名前を呼ばれて目が覚める。
あぁ、俺はなんて。
そこまで思ってからようやく意識が覚醒した。
「やべ、寝てた」
「知ってるよ! 昨日も友達の家行くって帰ってきたの12時回ってからじゃん」
瑞穂と同棲を始めてからも、俺は友人たちと遊ぶのを優先してしまった。
面倒なのも正直あって、楽な方楽な方へ流れてきた結果がこれだ。
「こんなこと言いたくないけど……ホントに私のこと好き?」
小学生の時に好きになって、修学旅行でバラされて、中学で告白されて付き合い始めて。
今はこうだ。
お互いに惚れた弱みもあって文句は言わなかったが、俺も瑞穂もストレスは溜まっていただろう。
「ねぇ、別れよ?」
「……あぁ」
本当は好きだった。でも、今は彼女と付き合うよりも友達の方を大事にしたい。
女は面倒だと思う気持ちのほうが強くて、何も考えずに別れを受け入れた。
なのに。

(瑞穂……)
ふと会いたくなる瞬間がある。
何故かは解らないが、未練たらしい自分を認めたくなくて、見ないふりをしてきた。
(会いたい、な……)
時々来るメールが余計に俺の寂しさに拍車をかける。
年賀状も毎年届く。
(何考えてんだよ)
手紙だけは読んでいた。そこに踊る『また会いたいね』の文字。
俺は――

何処までも落ちてゆく夢を見た。
毎晩毎晩果てなく落ちてゆく。
その晩は誰かに手を掴まれて止まった。
暗くてよく見えなかったが。
「瑞穂……」
(クソッ)
時計を見ればまだ深夜3時を回ったばかり。
(さすがにもう寝てるか)
俺は携帯電話を取ろうとした手を引っ込めた。

何処までも落ちてゆくその闇から救ってくれるのは君なのかもな。
日が沈む。
夜が来る。
星が顔を出す。

たったそれだけのことなのに、私はまるで真昼の月のよう。

ぼんやりとまどろみに包まれていたディスターブをたたき起こしたのは自分を呼ぶ喧しい声だった。
「ディース!」
「……なんだ、リヴかァ」
何だはないだろ、と憤慨するリヴィウスの鼻の頭に、からかうように口付けを一つ。
コイツは私が男だった時間を知らない。私が病に蝕まれていた時間を知らない。
「お前は幸せものだね」
「なんだ、それ」
大きく伸びをして、リヴィウスに向き直る。
「ねぇ、リヴ」
「あ?」
どうやら少々ヘソを曲げてしまったらしい彼に、ディスターブは問いかけた。
「私を殺せる?」
「何言ってンだよ。出来るわけ無いだろ」
「私は殺せるよ」
再びからかうように、今度はエメラルドグリーンの流し目を贈る。
濃い青の目が少しだけ不安に揺れた。
リヴィウスは感情が豊かだ。皮肉でもなんでもなく、純粋にディスターブは思う。
「殺す気かよ」
「もし……袂を分かったその時は、ね」
「俺は……お前を殺せるのかなァ」
「ふぁ……ふ……あー眠い……」
大きく欠伸をして、目尻に溜まった涙を拭う。
「あ、ワリィ」
「なんで謝るの?」
「いや、起こしちまったからさ」
「もう起きようと思ってたから平気」

彼が明るすぎるから、まるで太陽みたいだから。
私はその横でひっそりとその光を反射する真昼の月でいい。

霞んで見えない、真昼の月。

終わりが来る。

「終わりにしようか、リヴィウス」
「誰だよ、お前」
「俺はディスターブだよ」
「今が袂を分かった時か。いいぜ終わらせよう」

日が沈む。
夜が来る。
星が顔を出す。

終焉は近い。

私は真昼の月でいい。
抱き締めた腕は確かに義隆の体温が消えて行くのを感じていた。

あぁ、貴方はこんなにも暖かかったのに。どうして私はこの熱に気付けなかったのか。
抱かれている時に、この熱を感じられなかったのだろう。
ただ、悔しかった。悲しかった。苦しかった。
お願い、私を許さないでください。
『隆房』
優しい声で私を呼ばないでください。
『おいで、隆房』
冷たく、手酷くあしらってください。
『お前は本当にいい子だね、隆房』
その名前で呼ばないで。
私は名を改めました。貴方を裏切って。
貴方の名を逆さにして、自分を名乗りました。
晴賢、と。
いずれ、毛利の軍勢が私を殺しに来るでしょう。
私は死を選ぶでしょう。貴方のように。貴方のように。

謳うように”晴賢”が語る。

許されるならもう一度貴方の名が呼びたい。
でも私にそれは許されない。
貴方をこの手で殺してしまったから。
貴方をこの手にかけてしまったから。
最期の無礼をお許し下さい。
一度、たった一度でいいのです。
貴方の名を呼ぶ許可を。
『許そう、隆房』
大粒の涙が零れて、血だまりに溶けた。

「よしたかさま」
小高い丘。
さやさやとそよぐ草花。少し丈のある草の隣には、誰かが置いたのか大きめの石が置かれていた。石はすっかり原っぱに同化し、なかなか上手に苔生してそこに佇んでいた。
自分は此処で唯一一人になれる場所だと思っている。だから好きだった。
告白をしてフラれた時も、この丘で一人涙を流したものだ。
そう、ここでは自分は一人きり。の、筈だった。
「リョウくん……?」
「……美那?」
寝転がっていた体勢から、肘を突き上体を起こすと、白いワンピースを来た女の子が立っていた。
山野美那。川崎涼の元幼馴染みで、中学2年の時の美那の転校を切っ掛けに、縁が切れた。
「やっぱりここにいたんだ」
「何で知ってんだよ」
「オバサンに教えてもらっちゃった」
涼は再び横になりながら雲一つない真っ青な空を見上げる。
「邪魔すんなよ、ばばぁ」
小声で毒吐くと美那が「ばばぁじゃないでしょ」と涼の頭を軽く小突いた。
「いつまでもガキじゃねーんだ、タメのクセに母親面してんじゃねーよ」
涼は美那の手を振り払い、一人になりたかったのを邪魔した美那からさっさと逃げようと、小高い丘の頂上を目指した。しかし。
「リョウくんってば!」
半袖のシャツの端を美那が引っ張る。
「うるせぇっつってんだろ!」
「何で私がこっちに帰って来たとか、聞くことないの!?」
「ねぇよ!」
涼は怒声を上げて美那の手を振り払った。一瞬、ビクっと震えた美那だが、怯まずに目を見詰めようとしたが、涼はすぐに視線を逸らした。
「もうどっか行けって!」
今度こそ涼は逃げ出した。なだらかな丘の頂上で仰向けになり青い空を見上げた。
『どっか行けって!』
言ってしまった。後悔の念が次々と押し寄せてくる。
折角10年ぶりに顔を合わせた幼馴染みで、遠い昔の初恋の人。
「やっちまったな……」
(ま、今更謝っても通じないだろうし)
自棄を起こして、俯せになるとそよぐ草を何本かむしった。
そのまま四半刻ほどが経った頃、再び頭上から声がした。
「リョウくん」
「……なんだよ」
「不貞腐れてるでしょ」
本心では「来てくれてよかった」。そう思っている。
逆説的だが「来てくれると確信していた」
「……別に」
涼の素直でない部分を知っている美那くらいには弱みを見せてもいいのではないかと思う。しかし、生まれ持ったプライドのせいか、どうしても言えない。
でも、今なら―――
「美那」
「何―――」
腕を引き、抱き締めていた。涼は漸く本当の自分の自分を開放したのだ。
「ちょ……リョウくん?」
「俺、やっぱお前がいなきゃ駄目だ」
細々と呟く涼に、美那は小さく笑った。
「私も涼くんだけだよ」
それは小さな恋の始まり。
早朝。
真っ白な砂浜を裸足で歩くと、まだ陽も昇り切っていないというには少し早すぎる時間。しかし目の細かい砂たちはそれぞれに熱を持ち、俺の全身をジワリジワリと温めていった。
(寒いな……)
やはり朝方の海は潮風が冷たい。暖かいのは砂粒たちだけで、俺の身体を温めてくれるほどの熱も持っていない。
叫んだら楽になれるだろうか。
何となく鬱々とした気分を振りほどこうと来てみたものの、足の指の間に砂が挟まって不愉快な思いをするだけだった。
堤防によじ登り、やはり裸足のまま足をブラつかせていると、何となく恋しくなるのがニコチンだったりする。
タバコを咥え、火を点けようとライターを取り出す。
カチッカチッ
「やっべ、オイル切れかよ。クソッ」
思わずライターを投げ捨てそうになったが、寸でのところで思いとどまった。
(はぁ……ツイテねぇな)
そのまま海をぼんやり眺めていると、次第に小さかった光が見る間に昇り、海全体がキラキラと輝きはじめる。
「すげぇ……」
思わず手に持ったままだったタバコを堤防に取り落とし、その光景に見入った。
こんなにキレイなものが存在していたんだ。日本にもこんなにきれいな場所があったんだ。
早起きは三文の得と言うが、まさにその通り。
本当は早起きでも何でもなくて、ただ一晩眠れなかった鬱憤晴らしをしたかっただけだが、思わぬ収穫があった。
海。キレイな海。
俺がいつか―――こんな海みたいにキレイになれたら、彼女の一人くらいは作れんのかな。
「ま、いっか」
今日はこのまま事故らないで帰って、少しだけ眠ろう。
今なら眠れる気がする。こんなにキレイな海に癒されたら、もう眠れる。
姜維は崖の上に座り込んだまま呟いた。
「丞相」
そう、一言。
それを見ていた夏侯覇は重たい鎧を脱ぎ捨て、姜維の隣に腰を降ろした。
「なぁ、姜維殿」
「……はい」
姜維の返事は、無遠慮に隣へ来た夏侯覇への苛立ちも感じさせた。
「お前にとって諸葛亮殿はどんな存在だったんだ?」
「……答えたくありません。少なくとも、今は」
感傷に耽っているのだろう。足を抱き寄せ、膝に顔を埋める。時折鼻を啜る音が聞こえるから泣いているのだろう。それくらいのことは夏侯覇にもわかる。
「俺、邪魔かな」
「…………」
今度こそ姜維は返事をしなかった。
(私は、一人ではありません。でも孤独で仕方が無いのです)
夏侯覇が悪いわけではないのだけれど。姜維が弱いわけでもないのだけれど。
ただ、時間が欲しかった。
愛してはいけない人を愛したことを忘れる時間が。
しかしそれを察するには夏侯覇は精神的に幼い。
ふいに背中が暖かくなった。そしてそれが夏侯覇だと気付くまで、あまりに時間が掛かり過ぎた。
夏侯覇は姜維の衿ぐりを口先で割り開き、陽に当たらない白い首筋に口付けてくる。
「姜維殿」
「やめてください」
「俺が連れてってあげようか?」
「行きたい場所なんて……」
肩に回されていた腕がほんの少し上がり、姜維の首を捕らえる。
「な―――」
そのまま強く締め付けられ、姜維は夏侯覇の腕を引き剥がそうともがいた。
「俺が連れてってあげる、お前の大好きな諸葛亮殿の所へ」
一瞬だけ『それならば、いっそこのまま』なんて思いが姜維の胸をよぎった。
しかしそれはいけないことだとも瞬間的に知った。
「逝きたい?」
「は、なし、て」
今にも掻き消えそうに叫んだその瞬間、気道に一気に空気が流れ込んだ。
「姜維殿、いつも死にたそうな顔してる」
「げほっ、ぐっ」
「俺が慰めてあげるから、いつでも言えよ」
どんな意味でもいいから。
夏侯覇が付け足した言葉にどんな意味が含まれているのか、姜維は瞬時に察した。
しかし、夏侯覇とまぐわうことは諸葛亮を裏切る気がして、返事が出来ない。
それでも。
「…………お願い、します。今、此処で」
「いいの?」
姜維は自ら着ているものを脱ぎ、夏侯覇の前に立った。
「慰めてくれると言ったのは貴方でしょう」
「いいよ」
夕焼けが闇に落ち、静かな夜更けが訪れるまで、二人は小さく抱き合ったままでいた。
貴方はいつもつれなくする。
私が嫌いなのですか?それとも……他に想い人でもいらっしゃるのですか?
おそらく馬が合わないのか、鍾会は艾と仲が悪い。お互いに嫌い合っているのだから、利害関係は一致しているではないか。
一触即発の空気を纏わせる二人の会話。姜維が思うに、きっと司馬懿が艾に鍾会への言伝でも命じたのだろう。
その場に偶然居合わせてしまった姜維は、何で今日はこんなに運が悪いのかと軽く天を仰いだ。
艾の方を向けば、見下ろしてくる艾と目が合い、鍾会の方へ視線を移せば、鋭い眼光が姜維を突き刺す。
「司馬懿殿からの言伝、確かに板した」
「言いたいことはそれだけか、失礼する」
姜維が胸を撫で下ろしたその時。突然鍾会に手首を掴まれ腕を引かれた。
「姜維殿、行くぞ」
「し、鍾会殿……っ」
勢いでつんのめりそうになりながらも、何とか耐えて、大股でずんずんと歩く鍾会を小走りで追い掛けた。
そのまま勢いで陣中の人気のない物陰に連れ込まれ、強引に口付けられる。
「鍾―――」
陣を作っている太い木の幹に押し付けられ、言葉を遮るように左手で口を塞がれた。
「何故あの男と話をしていた」
痛いほどに押し付けられ、姜維は目を瞑った。
ゆっくりと手を離され、正面からジット見詰められる。鍾会の方が背が低い筈なのに、ゆっくりと目を開くと姜維は不思議な圧迫感と威圧感を感じた。
「別に……たまたま居合わせただけです……」
鍾会は不機嫌そうに「ほう」と、姜維にしか聞こえない小声で呟いた。
「あの男には金輪際近付くな」
有無を言わさぬ強い口調と、いつもとは違う強引さに、姜維は目を伏せる。
『お前は私のものだ』とでも言わんばかりの気迫に、姜維は何も言えずに小さく頷いた。
「……はい」
「偶然などという言い訳が通じると思うな。見付けたらその場で斬り殺すものと思え」
「わかりました……」
どうして?私は貴方の人形ではないのに。
従う義理など無い筈なのに、姜維は鍾会の元を離れられないでいた。並んだ天幕の隙間から微かに射し込む松明の灯りが二人を妖しく照らす。
姜維が再び目を閉じたのを見計らい、鍾会が二度目の口付けを施す。
このままどうなるのかを、知る者は誰も居ない。
恋人と同棲中のマンションの一室に入ろうとドアノブに手を掛けた。
その時、丁度部屋の中から勝手にドアが開く。
驚いてドアノブに注がれていた視線を上げると、グレーの髪をした恋人がやたら大きなボストンバッグを抱えて出て行こうとしているところだった。
「隼人、そんな大荷物でどこいくつもり」
「ぁあ?家出に決まってんじゃねぇか」
「そんなこと僕が許すを思ってるの」
もう付き合いだして7年経つ。昨年訪れた倦怠期も過ぎ、漸く安定した生活を送ろうとしていた、その矢先の出来事だった。
「僕の何が気に入らないの」
仕込みトンファーを取り出し、無理矢理隼人を部屋の中に押し戻す。
「こんなマンションの廊下で揉め事なんて冗談じゃない。早く戻りなよ」
雲雀恭弥の恋人、獄寺隼人はキツク目を光らせたままジリジリと後退した。恭弥が部屋に入ると、オートロックのドアがカチリと鳴り、鍵がかかったことを知らせた。

「で、何で家出なワケ。寝泊まりする場所もないクセに」
「十代目の家にご厄介になることはもう算段済みなんだよ」
「その荷物、よこしなよ」
恭弥が無理矢理ボストンバッグをむしり取る。無造作に床に落とすと、バッグの中身を確認し始めた。
「ふぅん、ホントに着替えや生活用品ばっかり」
今度は無視を決め込み始めた隼人に、恭弥は立ち上がり乱暴に靴を脱ぎ捨てると隼人を壁際に追い遣った。そしてキスでもしてやろうと、顔を近付けたが、隼人はぷいと顔を逸らして逃げた。
「本格的な別れ話はいつするつもり」
「……別れたいわけじゃねーよ」
「じゃあ何なの」
強引にキスをしようと恭弥が隼人の顎を掴んだ時。突然インターホンが鳴り、一触即発の空気を若干ながら和らげた。
「逃げたら承知しないよ」
言うと、恭弥はドアの前に仁王立ちして、来訪者に声を掛けた。
「誰」
「あ、ヒバリさん!俺です沢田―――」
「帰って、小動物。今取り込み中だから」
「そうじゃないんです!これ、嘘なんです!」
「じ、十代目!?」


「何か言い訳はある?」
二人掛けのソファの真ん中に足と腕を組んだ恭弥が、そしてその前には椅子の上に正座をして小さくなっている綱吉と隼人がいた。
「アリマセン」
「提案者は誰?」
「………俺っス」
カクリと頭を垂れた隼人に、綱吉が小さな声で言う。
(獄寺くん、ヤバイよ!ヒバリさん目茶苦茶怒ってるじゃん!)
(巻き込んですんません!)
さしたる距離もないのだから、どんなに声を潜めようとしても聞こえてしまうのだが、それでも言わずには居られなかった。それだけ恭弥の放つ雰囲気は近寄り難いものがあった。
「何でこんなこと考えついたの」
「いや、その……エイプリルフールのつもりで……」
「小動物、黙って」
「はい……」
いつもよりトーンの低い声でぼそりと叱咤され、綱吉は「ひっ」と縮み上がった。
「お前が最近ツレないから、ちょっとからかってやろうと思ったんだよ」
少しだけ視線を逸らし、隼人は呟いた。
すると、恭弥は立ち上がり、ゆっくりと隼人の前まで歩いて行った。
「わお、可愛いこと言えるじゃない」
「誰が可愛いんだよ」
「隼人に決まってるでしょ。こっち向いて」
言われるがままに恭弥の方を向くと、恭弥は軽く屈み隼人にキスをした。
最初は啄むような、しかし次第に激しさを増していく口付けに綱吉がいそいそとその場を後にしたことは言うまでもない。
「春兄……?」
「隆景」
長い髪を硬い床の上に撒き散らし、横たわる隆景に元春は伸し掛った。両腕を隆景の頭の両側に突くと、隆景は不思議そうに左右に突かれた腕を交互に見る。まだ自分が置かれている状況が理解出来ていない風だった。それもそうだろう、十年以上敬愛していた兄に押し倒されているのだから。
太い腕を隆景の背に回すと、隆景は長く息を吐き身体を元春に任せた。解しているのか、この世に憚られようとしている関係を築こうとしていることに。
「春兄?」
隆景はぐったりと身を任せたまま視線だけを元春の方に向けた。
(何をしているのだ、俺は)
しかし元春は本能に導かれるままに、隆景に口付けた。隆景は驚いた様子で二三度瞬きし、ゆっくりと瞼を伏せた。くちゅくちゅと舌の絡み合う音が響く。息苦しくなったのか、隆景の眉が寄った。
少しだけ舌を出したまま、唇が離れると、二人の間を唾液の糸が繋いだ。それは頼りなく、名残惜しそうに次第に細くなり、切れた。
「春、に」
舌足らずに自分を呼ぶ隆景が居た堪れなくなった元春は、隆景を強く抱き締め、長い髪をクシャっと撫でた。
「隆景、許してくれ……俺は……」
その時、隆景の腕が元春の背に回った。
「隆景?」
「はるにい、だいすき」
歳に似合わない幼い笑顔で隆景は言う。
元春はそんな隆景が悲しくて、もう一度あらん限りの力で抱き締めた。