© 産経新聞 岸田文雄首相(右)との会談に臨むドイツのショルツ首相=28日午後、首相官邸(酒巻俊介撮影)
 

28日の日独首脳会談ではウクライナ情勢に対する危機意識が共有されたが、防衛力整備をめぐる実際の取り組みでは明確な差が出ている。国防費の国内総生産(GDP)比を2%以上に引き上げる方針をいち早く示したドイツに対し、日本は数値目標を掲げることに消極的だ。「防衛費は必要経費の積み上げの結果」(岸田文雄首相)との立場だが、政権が具体的な意思を示さなければ推進力は生まれない。

 

日独両国の安全保障環境には共通点が少なくない。ともに中国、ロシアという現実的な脅威を抱えるが、防衛費のGDP比は日本が約1%、ドイツが1%台半ばにとどまり、大幅な予算拡大にも慎重な姿勢を取ってきた。

 

ただ、ウクライナ有事を受けてドイツは「覚醒」(外務省幹部)した。ショルツ独首相はロシアによる侵攻から3日後の2月27日、加盟する北大西洋条約機構(NATO)の要請を踏まえ、国防費をGDP比2%以上に引き上げると表明。昨年は470億ユーロだった国防費を今年から1千億ユーロに拡充するなど一気に方針転換した。

 

日本も防衛力増強に意欲を示すが、GDP比での目標設定には慎重だ。首相は今月26日の記者会見で「何が必要かを現実的に議論し、それを積み上げていく」と従来の考えを示した。首相周辺は「GDP比ではまっとうな増やし方にならない。ドイツは(最新鋭の)F35戦闘機を買うと急に言い出しているが、そうでもしないと2%に届かないからだ」と話す。

 

とはいえ、予算の大枠がなければ現実的な議論にならないのも事実だ。安倍晋三元首相は「積み上げていってGDP比5%だったら、5%にするのかという話だ」と〝積み上げ論〟を一蹴し、GDP比2%を国家の意思として示すべきだと訴える。計上すべき項目として、慢性的に不足する弾薬のほか艦船や戦闘機の維持・整備費、自衛隊舎の更新費などを列挙し「いくらでもある」と言い切る。

 

政府は「国家安全保障戦略」など戦略3文書の年内改定に向け作業を加速する。自民党は2%以上を念頭に防衛費を5年以内に大幅増額するよう求めており、茂木敏充幹事長は来年度分として6兆円台半ばの確保を提唱する。連立政権を組む公明党や野党の激しい反発も予測される中、政府が大胆かつ現実的な決断をできるかが焦点となる。(石鍋圭)