★1955年三菱3輪トラックTM7/TM8型 三輪ドリームカー ~ 自動車カタログ棚から 173 | ポルシェ356Aカレラ

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★一式陸上攻撃機や紫電改といった大日本帝国海軍の戦闘機を製造していた三菱重工水島航空機製作所(岡山県倉敷市水島高砂町)は、終戦の年1945年(昭和20年)の11月に平和な時代の民需製品製造を目的とする「三菱重工 水島製作所」として再スタートした。水島製作所が新たな時代の自社製品として選んだのがオート三輪であった。1946年(昭和21年)6月に空冷1気筒744ccの試作車XTM1型を完成させ、改良を重ねた後、1947年(昭和22年)5月にTM3型3輪トラックとして市販を開始した。その際、車名は戦闘機製造をイメージさせる終戦後の各方面への影響も考慮してあえて三菱を名乗らず製作所の所在地の地名から「みずしま」と名付けられた。オート3輪「みずしま」の特徴は、当時のオート三輪が未だモーターサイクルの後部に大きな2軸の荷台を付けただけの原始的かつ野蛮なスタイルが主流だった中で、当初より前面の風防と幌のルーフを付けていたことであった。

★1955年(昭和30年)秋、既に5万台のオート三輪を世に送った「みずしま」の車名はローカルで気宇や度量が小さく伝統ある三菱重工の製品にはそぐわないとの理由から、「三菱」の車名に変更されることとなった。
「みずしま3輪トラック」から「三菱3輪トラック」に車名を変えた最初の製品が1955年(昭和30年)12月デビュー三菱3輪トラックTM7型(1.5t積み)・TM8型(2t積み)であった。
丸ハンドル・ドア付全スチール製フルキャビン・前輪ブレーキ・昇降式サイドウインドー・室内ヒーター・クッション入りラテックスシートといったオート三輪初の装備を満載した画期的な車両で、カタログ等でのキャッチコピーは「ドリームカー」であった。それまでのオート三輪の大半はモーターサイクルと同じバーハンドルでドアはおろか屋根さえ付かないものも多かった状況を考慮すれば、オート三輪のドリームカーというコピーはあながち誇大広告ではなかった。
1956年(昭和31年)秋デビューの1957年式よりオート三輪の2大メーカーであるダイハツ・マツダも丸ハンドル、ドア付フルキャビン型をデビューさせたが、三菱は一歩先をいっていた。しかし、簡素・簡便であることによる低価格がウリであったオート三輪の中でコストをかけて考え得る限りのモダン化を一気に進めた結果、TM7型/TM8型は他メーカーでは30~40万円台のところ50~60万円台と突出して高額な車両となったことで思うように販売は伸びずに終わった。販売数も少なかったことから、このTM7型/TM8型は現存車の情報がなく絶滅した可能性もある。

●1956年三菱3輪トラックTM7型の宮城県内の瓦工場で稼働中のスナップ 
(三菱広報誌「三菱3輪トラックグラフ1957年3月号」から)
$ポルシェ356Aカレラ-仙台実車スナップ

★終戦翌年の1946年(昭和21年)6月の試作車から1962年(昭和37年)7月に製造中止するまでの16年間に三菱水島製作所が「みずしま」「三菱」の名で製造販売したオート三輪は計9万1050台であった(軽三輪のレオを除く)。製造中止は他社のオート三輪同様、時代が四輪トラックへ移行したことに伴うものであり、三菱ではジュピターやキャンターといった四輪トラックへ製造販売が移行した。軽3輪の三菱3輪ペットレオ(2012年12月5日の本シリーズ93回目参照)を除いて、三菱3輪トラックは計35車種をリリースし、オート三輪メーカーとしては、マツダ・ダイハツ・くろがねの御三家に次ぐメーカーであった。品質の高さと整備された販売網を持っていたものの、商品バリエーションの少なさと高価格から生涯三輪御三家に追いつくことは叶わなかった。


●●●「ある運転手さんの1日」●●● 
(三菱広報誌「三菱3輪トラックグラフ1957年3月号」より)
日本通運岡山支店車両課で貨物の集配業務に従事している正本欣也さんの1日を追った興味深い記事。日本通運岡山支店は、かつて全国の国鉄の主要駅前に必ずあった日通営業所の一つ。白黒記事だが写されている三菱3輪トラックTM7は日通カラーの鮮やかなオレンジだろう。56年前の記事なので現在、正本さんは当時30歳としても現在80代後半、子供たちは還暦を過ぎた位の年代だろう。平凡ながらも幸せな半世紀以上前の日本の家庭。

(1)「家族揃って午前6時半起床、家族一緒に朝食。パパの号令で子供たちも朝の支度やお掃除のお手伝い。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(1)朝食

(2)「午前7時半、坊やは学校、パパは会社へ。美しい奥さんの『早く帰ってね』『あなたお気をつけて』の言葉が今日1日の無事故を誓わせる。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(2)いってらっしゃい

(3)「午前8時半出勤。先ずクルマの点検、調子は上々。」
(注: ナンバーが三輪指定の「6」であることに注意。このクルマの後ろ側からの写真は非常に珍しい。)
$ポルシェ356Aカレラ-日通(3)始業点検

(4)「日通作業課の窓口で今日の作業時間割を貰う。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(4)点呼予定

(5)「国鉄岡山駅の貨物ホームへ乗り込み、ゴマンと積まれた貨物を手際よくトラックに積み込む。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(5)駅ホーム積込

(6)「市内へ配達。所在地の住所は1・2・3と順序よく良く家が並んでいないので、人に道を訊く。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(6)道を訊く

(7)「転ばぬ先の杖。ちょっと調子がおかしければ三菱のディーラーに立ち寄ってクルマを診てもらう。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(7)ディーラー立寄り

(8)「毎日平凡ながらも忙しい作業を終わっての帰宅は午後6時過ぎ。『お父ちゃん、お帰り』の子供の声でパッと心も明るくなって仕事の疲れも吹き飛ぶ。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(8)お帰りなさい

(9)「一家団欒。狭いながらも楽しい我が家。お決まりの1本を戴いた後はパパは子供たちのお相手。」
$ポルシェ356Aカレラ-日通(9)一家団欒



【主要スペック】 1955年 三菱3輪トラック TM8B型
全長5100㎜・全幅1680㎜・全高1860㎜・ホイールベース3300㎜・荷台長3100㎜・車重1310kg・強制空冷OHV直列2気筒1276cc・最高出力36ps/3600rpm・最大トルク:不明(調査中)・最大積載量2000kg・乗車定員2名・電装系6V・変速機4速MT・燃費12km/L・最高速76km/h・販売価格62万5000円


●1955年12月発行 三菱3輪トラックTM7型/TM8型 本カタログ (A4判・4つ折8面)
1955年秋に三菱3輪に車名を変えたものの、このカタログでは表紙に小さく「みずしま」の文字も入れられている。約10年間親しまれ知名度も高かった「みずしま」の名に未練があったのだろう。
$ポルシェ356Aカレラ-本表紙
中頁から
ドリームカーのコピー
$ポルシェ356Aカレラ-本1中(ドリームカー)
$ポルシェ356Aカレラ-本2中(解説)
丸ハンドルの密閉された室内
$ポルシェ356Aカレラ-本3中(室内丸ハンドル)
エンジン
$ポルシェ356Aカレラ-本4中(エンジン)
シャシー
$ポルシェ356Aカレラ-本5中(シャシー)
2トン積みの広い荷台
$ポルシェ356Aカレラ-本6中(2トン荷箱)
$ポルシェ356Aカレラ-本7中(サイド)
裏面スペック&図面
$ポルシェ356Aカレラ-本8裏(スペック&図面)


●1955年12月発行 三菱3輪トラックTM7型/TM8型 簡易カタログ (縦23×横30cm・2つ折)
$ポルシェ356Aカレラ-簡易1表紙
中頁から
$ポルシェ356Aカレラ-簡易1中面


●1956年発行? 三菱3輪トラックTM7型/TM8型 簡易カタログ (縦15×横30cm・3つ折)
2トン積みTM8型に全長がTM7型と同じ4500㎜(8尺)のTM8A型を追加
$ポルシェ356Aカレラ-簡易2表紙
中頁から
$ポルシェ356Aカレラ-簡易2中面
エンジンを隔てて2人乗り丸ハンドルの室内とスペック
$ポルシェ356Aカレラ-簡易2裏スペック&室内


●1957年発行? 三菱3輪ダンプカーTM8AD型 専用カタログ (縦20×横23.5cm・2つ折)
1957年5月の第4回東京モーターショーで初公開されたバリエーション。「モーターショーでの展示期間中に契約が取れ、引き続きダンプの注文が殺到した」と三菱の広報誌には記載されている。
$ポルシェ356Aカレラ-ダンプ表紙
中頁から
$ポルシェ356Aカレラ-ダンプ中面


●三菱3輪TM7型バキュームカー (広報誌「三菱3輪トラックグラフ1957年10月号」掲載写真)
未確認だが、もしかするとこれも専用カタログが発行されているかもしれない。
$ポルシェ356Aカレラ-バキュームカー



★オマケ(その1): 萬代屋(現バンダイ) 1/18スケール 三菱3輪トラックTM8A型
当時定価:不明(調査中)。萬代屋品番533。全長約26cm。1957年9月頃発売。萬代屋と新三菱がタイアップして、三菱製スクーター「シルバーピジョン」が当たる懸賞付として発売され、1958年3月10日に三和銀行会議室にて抽選会が行われた結果、シルバーピジョンは東京主婦連が当選した旨が国立国会図書館所蔵の東京玩具商報に記載がある。初版はフロントに三菱の菱マークとフロントブレーキパイプが別パーツで付く。左テールライトの上に2トン積みのプリントがあるが、全体のプロポーションはTM7型と同じ短尺の全長4500mmで2トン積みの後から追加されたTM8A型のように思われる。
$ポルシェ356Aカレラ-バンダイ(1)
$ポルシェ356Aカレラ-バンダイ(2)
$ポルシェ356Aカレラ-バンダイ(3)


★オマケ(その2) 萬代屋(現バンダイ) 1/18スケール 三菱3輪ダンプカー
当時定価:不明(調査中)。萬代屋品番875。全長26cm。フロントウインドを1枚ガラスにしてヘッドライトデザインを変えたマイナーチェンジを萬代屋独自に施した後、このダンプ以外にエッソとモービルのガソリンタンクローリーのバリエーションもリリースされた。
$ポルシェ356Aカレラ-バンダイダンプ(1)
$ポルシェ356Aカレラ-バンダイダンプ(2)
$ポルシェ356Aカレラ-バンダイダンプ(3)


★オマケ(その3): 米澤玩具(ヨネザワ) 1/15スケール 三菱3輪トラックTM8B型
当時定価:不明(調査中)。全長約34cm。萬代屋製は短尺車に見えるがこちらは長尺車のTM8B型らしいプロポーション。三菱とタイアップして鳴り物入りで発売された萬代屋版に比べるとひっそりと売られた稀少なモデル。三輪トラックのスケールモデルでは最も大きく、絶滅した恐竜を連想させる。
$ポルシェ356Aカレラ-米澤(1)
実車通りに3輪指定の「6」ナンバーがプリントされたリアパネル
$ポルシェ356Aカレラ-米澤(2)
$ポルシェ356Aカレラ-米澤(3)


★オマケ(その4): 1944~1945年 三菱重工水島航空機製作所製 大日本帝国海軍の戦闘機 一式陸上攻撃機G4M1の映像
戦後、オート三輪を製造する前に水島で製造された一式陸上攻撃機の貴重な戦前の映像。機内での食事の様子などが興味深い。