★三菱デボネア(初代)は、戦後GHQにより三菱日本重工業、新三菱重工業、三菱造船に分割された3社が1964年(昭和39年)6月1日に合併して新生・三菱重工業となった直後に発売された三菱初のプレステッジカー。前年1963年(昭和38年)10月26日~11月10日開催の第10回東京モーターショーに「コルト・デボネア」としてプロトタイプが展示され、半年間程熟成された後に市場投入された。
クラウン・セドリック・グロリアと同じ国産2リッター級高級車としてデビューしたが、当初より競合他車のような4気筒車がなく6気筒車のみのデボネアはタクシーとしての使用は少なく主にワンランク上のハイヤーとして使用された。また、生涯を通じて自家用としてはあまり売れず、法人、特に三菱系企業の社用車としての使用が多いクルマでもあった。初代デボネアは1986年(昭和61年)8月に2代目デボネアがデビューするまで日本車としては異例に長い22年もの長寿を誇ったため(1960年代にデビューした国産乗用車でデボネア以上に長寿だったのは初代センチュリーのみ)、1970年代末以降は俗に「走るシーラカンス」とも言われた。
デボネア(Debonair)とは、「優雅な」「気品がある」「風格がある」といった意味の言葉であり、内面から完成された美を持つ最高の車といった意味で名付けられた車名であった。
★初代デボネアのエクステリア・デザインは、アメリカ人デザイナー・ハンスSブレッツナーによるものと言われ、同時代のリンカーン・コンチネンタルあたりとも通じるスクエアなアメリカン・スタイルが特徴。初期型には前後に三菱マークが付けられていたが、デボネアがデビューした1964年は戦後未だ20年を経ておらず、当時は三菱マークには戦時中のゼロ戦のイメージが強かったこともあり発売翌年1965年(昭和40年)には三菱マークが外されている。デザイン上は、L字型のテールライトも大きな特徴。
デボネアのボディサイズは同時代のクラウン・セドリックよりやや大きく、当時の小型車枠の限界まで広げられていた。当初のエンジンはOHV直列6気筒(国産6気筒車はプリンスグロリアスーパー6に次いでデボネアが2番目)1991ccで10.0の高い圧縮比から105馬力を発した。サスペンションは前がウイッシュボーン/コイルの独立懸架、後ろはリーフのリジットと極く平凡だが、前後デュオサーボのブレーキには国産車で初めてタンデム・マスターシリンダーが備えらていた。1970年(昭和45年)9月のマイナーチェンジでエンジンが2リッターSOHCの6気筒に換装されて車名が「デボネア・エグゼクティブ」となり、1976年6月のマイナーチェンジでは2600ccエンジンに換装されて車名が「デボネアSE」となった後、排ガス規制への対応と若干の小変更を経て終焉を迎えた。
今回は1960年代までのデボネアのカタログをご紹介します。
【主要スペック】 1964年 三菱デボネア(Mitsubishi Debonair)
全長4670㎜・全幅1690㎜・全高1465㎜・ホイールベース2690㎜・車重1330kg・FR・機関型式KE64型水冷直列6気筒OHV1991cc・最高出力105ps/5000rpm・最大トルク16.5kgm/3400rpm・変速機オーバートップ付フルシンクロ3速コラムMT・前後デュオサーボ式ドラムブレーキ・乗車定員6名・最高速155km/h・東京店頭渡価格125万円(エアコン付140万円)
●1963年10月発行 コルト・デボネア 東京モーターショー配布カタログ(縦17×横30cm・2つ折)
表紙右側の社名は三菱重工となる前の「新三菱重工」

中頁のイラストは何とドアミラー

リアパネルの文字が市販車ではDebonairだったものが、このプロトではMitsubishi

●1964年6月発行 三菱デボネア 簡易カタログ(縦22×横34.5cm・3つ折)

中頁から

●1964年6月発行 三菱デボネア 準本カタログ(縦24×横25.5cm・14頁)
一般にはこれを本カタログとして渡していたのかもしれない。

中頁から


●1964年6月発行 三菱デボネア 本カタログ(縦24×横34.5cm・30頁)
1960年代の日本車のカタログの中でベスト5には入る魅力的なもの。極めて上質で分厚い紙を用い、写真とイラストとで構成された内容は秀逸。

中頁から

フロントには丸い三菱ダイヤマーク

49年経っているので、この美女も今は70歳以上のはず





人物写真とイラストのクルマとを組み合わせる手法は、1960年前後のキャデラックのカタログなどにもみられたもの


リアパネルの文字は市販車ではDebonairに替わっている

ボディカラーは6色

ダッシュボード

6気筒エンジン


スペック掲載頁

●1965年10月発行 三菱デボネア 本カタログ(縦26×横34.5cm・20頁)
前後に付いていた三菱マークがなくなる。ボルグワーナー・オートマチック、パワーウインド、パワーシート追加(オプション)。

中頁から
フロントから三菱のマークが消えた


ボルグワーナー・オートマチック

パワーウインドー、パワーシート

●1967年12月発行 三菱デボネア 本カタログ(縦34.5×横24cm・20頁)
ダッシュボード周り変更

中頁から


ダッシュボード変更

●1969年4月発行 三菱デボネア 本カタログ(縦34.5×横24cm・20頁)
リア両サイドの水滴型ウインカーがなくなる。レザートップ追加。

中頁から
デボネアにも当時流行のレザートップ仕様追加

リアサイドマーカーが無くなった

★オマケ(その1): ダイヤペット 1/40スケール 1964年 三菱デボネア
当時定価400円。米澤玩具ダイヤペット品番133。アンチモニー製。全長12cm。大盛屋の金型を引き継いで生産された初期ダイヤペットの1台。タイヤが大きすぎてバランスが悪かった大盛屋版よりバランスがいい。1960年代には三共や東宝模型のプラモデルも出ていた。




★オマケ(その2): NOREV 1/43スケール 1965年 三菱デボネア
現在も続いている書店売りの国産名車シリーズの1台。定価1790円。ダイキャスト製。全長10.5cm。ボディのプロポーションは往年のダイヤペットが勝る。台座等に1964年の印字があるが、前後に三菱マークがないので1965年10月以降の実車をモチーフにしている。近年の往年の名車としてのリリースでは、ファインモデルからも初期デボネアのアンチモニー製ミニカーが発売されている。


