西本願寺の隣は東本願寺。
「さっきの人もぜひにと言っていたし」
と、軽い気持ちで行ってみることにします。
阿弥陀堂門から出て堀川通を渡り、総門をくぐってさらに東へ。本願寺伝道院の立派な煉瓦造りの建物を見てさらに正面通を進むと、見えてきたのは金宝寺というお寺。目指す東本願寺は、この寺の裏にあるようです。
「またもぐるりと大回りか」
時刻はもうすぐ12:30。そろそろお昼ごはんが食べたくなる時間です。
「こう暑いと、冷たいビールが飲みたいなあ」
七条通まで下ると、ちょうど交差点の角にレトロな建物のなか卯を見つけました。
「やった。きっとビールもあるぞ」
しかし、このお店ではお昼にビールの提供はしていないらしいことが券売機で判明。仕方なく、先へ進みます。
こうなると、頭の中はビールのことでいっぱいです。だから目に入るお店も、夜には開くはずの居酒屋さんばかり。もしかすると、他に素敵なお店もあったかもしれません。
烏丸七条まで歩いてくると、交差点の向こうに餃子の王将が見えました。
「京都王将と呼ばれることもあるんだし、京都グルメってことでいいじゃないか」
もちろん、頭の中はビールと餃子でいっぱい。お店に入ると順番待ちをしているお客さんもたくさんいましたが、涼しいところで待てるなら大丈夫。旅のメモをまとめているうちに順番がやってきて、餃子とビールで昼ごはんとします。
東本願寺へ来てみたのですが、さっきの西本願寺と似ているなという印象です。
「どこか違うところはないだろうか」
そう思って歩いていると、「スマホでおさいせん」という立て看板を見かけました。二次元バーコードの下に「賽銭箱」とあり、きっとこれでお賽銭を支払うことができるようになっているのでしょう。
「やはりこんな時代がやってきたか……」
今では硬貨を銀行に持っていくと、入金するのにも手数料がかかる時代。二次元バーコートもお寺は手数料を支払うのかもしれませんが、銀行の手数料より安いのかもしれません。
もっと驚いたのは、「撮影行為に関するお知らせ」という立て看板。そこには、「御影堂、阿弥陀堂及び境内における撮影にあたっては、他の参拝者に十分ご配慮下さるようにお願いいたします。」とあります。つまり、撮影は基本的にOKということのようです。
そして太字で、「なお、法要・儀式執行中は、堂内での撮影はご遠慮ください。」とありました。下の方には英語、中国語、韓国語、ポルトガル語で文字が書いてあり、英語は丁寧に説明しているようですが、中国語、韓国語、そしてポルトガル語では、日本語の文の太字の部分のみの訳文となっているようです。
前回京都に来たとき、撮影禁止の場所で撮影する外国人に声をかけている係員をあちこちで見かけました。日本人にとっては、こういった場所で撮影禁止になっているのは不思議には思いません。けれども、私が行った海外の寺院や教会では、基本的に建物内部の撮影を断られたことはありませんでした。礼拝中、一般の観光客の立ち入りを断るところはありましたが、せいぜいそれくらいです。外国人にとって、建物の内部を撮ることを断られるということは、もしかすると理解できないことなのかもしれません。
けれど日本人だって、海外へ行って撮影が禁止されている場所だと気づかずに撮ってしまうこともあるかもしれません。これだけ国を越えて人々が行き来する世の中です。文化の違いを理解し合う努力というのも必要でしょう。
13:45、東本願寺を出てすぐの烏丸七条バス停から26番の市バスで北野白梅町へ向かいます。
実は昨日の夜、せっかくだから夜の京都を歩こうkとも考えました。北野天満宮では8月2日から18日までの日程で北野萬燈会・七夕ライトアップが行われ、高台寺では8月1日から18日にかけて、夜間特別拝観というのをやっているようです。結局は疲れているのを理由に行くのをやめてしまったのですが、京都で過ごす夜は今夜限り。バスで東京に戻るまでに、どちらかには行っておきたいと思うと、北野天満宮から京都駅に向かうのはちょっと距離があります。それならば夜に行くのは高台寺にして、日中は北野天満宮を目指すのです。
私が乗ったバスが四条堀川のバス停に停まったときのこと。一人の若い女性が、中扉からキャリーバッグを持ってバスに乗ろうとしました。すると運転手さんがマイクで、
「キャリーバッグの人、どこ行きます?」
と聞きました。
「京都駅まで」
「反対(のバス停)ですよ」
すると女性はあわててバスを降りていきました。
きっと彼女はガイドブックかスマートフォンを見て、26番の市バスに乗れば京都駅に行けることを調べたのでしょう。しかし、旅先で路線バスを乗りこなすのはなかなか難しいことです。そして運転手は女性の荷物を見て、京都駅方面に行くのではないかと考えて声をかけたのでしょう。
もし、あの女性が間違えてこのバスに乗ってしまったとしても、運転手はなにも悪くありません。でも、ひと声かけてもらったことで、女性にとっての京都のイメージはプラスになったはず。そしてそれを見た人にとっても、京都という街が好きになるきっかけになるはずです。
「みんなにもっと京都のことを好きになってほしいな」
一人の観光客にすぎない私ですが、そんなことを思った出来事なのでした。