できることならスティードで | カエルのブログ

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愛が花咲く魅惑の場所

 
 
 
 
 
 
 
広義の"旅"がテーマとなる、著者初のエッセイ集。
大阪やパリ、スリランカ旅の話から、学校に行く意味を考える「小学校」、2019年7月に亡くなったジャニー喜多川氏との邂逅を綴った「浄土」など、本書の“旅"は、何気ない日常生活から深い思索の底まで多彩。
「小説トリッパー」掲載の14編をまとめ、さらに単行本のための書き下ろしとして、連載と同形式のエッセイ1編とあとがき、および[intermission(小休止)]となる掌編小説3編を収載する。  ~Amazon紹介文より
 
 
若い頃は、流行とノリで海外旅行もしましたが、嵐とNEWSが好きになってからは遠出と言えばライブかロケ地巡りくらい。
旅に全く興味ないわたしですが、シゲさんのエッセイとなれば読んでみるしかない。
自分からあえて手を出さないジャンルの本にワクワクしました。
 
 
もともとチェゲバラもキューバ革命もよく知らないし、ヘミングウェイは「老人と海」を書いた作家くらいの知識しかなかったので、最初は置いていかれそうになるのを頑張って読み進める感じでした。ちなみにチュムチュムのカップリング曲「日はまた昇る」はすごく好きな曲です。
 
『大阪』での「娼年」舞台の話では急に引き込まれて、ホルモンの描写に息をのみました。
『釣行』は無心がテーマで大野さんのことも書かれていてまた興味深く読みました。
 
『岡山』は「ベストエッセイ2018」にも収録された、内容、筆致ともに心に響く一作です。
読んでいて、なぜかこの情景知ってるなあと思ったら、ラジオやクラウドで紹介されていたエピソードだったのでした。
5年ぶりに会った祖父の様子や自分の気持ち、その後の父親とのやり取りまでが、美しくまとまり作品として仕上がっていて、さすがベストエッセイ!と叫びたくなりました。ドラマティックな脚色無しで極上の短編映画のような仕上がり。逆に映像や画像じゃないからこそ滲み出る旨味があると思いました。
 
『浄土』はジャニーさんとの別れ。
最後まで面と向かって褒めてもらっていないことが意外でした。
ジャニーさん逸話は嵐さんからはよく聞きましたが、NEWSのメンバーがジュニア時代以降は直接話をすることも少なくなったのかな、なんて思いました。最悪だよなんて言ってても、きっとシゲさんはジャニーさんの自慢の息子だよ。
 
『スリランカ』は好きになりすぎないということを身につまされる思いで読みました。
 
『肉体』は自然と円環をテーマに『無心』に書かれる哲学へとつながって行く。
あらゆるものは円環になろうと努めている。自然だけでなく観念にもそれは当てはまる。
こんなふうに読んでいると急に哲学的思考が理解できたかのように錯覚してしまうのですが、実際よくわかりません。
ただなんとなく円環を輪廻や食物連鎖、エネルギー保存の法則のようなものとイメージしました。
 
『未完』
できることならスティードでというタイトルにつながる最後から2ページ。
展望台の灯りと南京錠が出てきたときには肌が泡立ちました。
 
一冊の本で「円環」を表現していたと知る瞬間でした。
 
「こんなに円環があふれているのに自分に適用することができずにいたことに愕然とする」とシゲさんは書いていましたが、めっちゃ適用してるやん!何なら応用してるやん!と感情的になるくらいすごい伏線回収です。
 
 
そのために3つの掌編小説が挟まっているんだとやっと気づくのです。
 
 
intermisssion 1  『がまし』では南京錠に書かれた「愛してる」という文字に、「がまし」と書き足して「愛がましてる」にしてしまうエピソードはオシャレな読み切り入れてきたなくらいにしか思っていませんでした。
 
2 『ヴォルール・デ・アムール 愛の盗人』
南京錠の重さで崩れるフェンスと撤去作業する男の話にピンとこなくて調べたら
 
2012年
 
2014年
 
 
これはひどい…
撤去作業ってこういうことね
でも南京錠スポットって世界各国にあるんだと初めて知りました。
 
 
3 ホンダスティード400
2は流し読みしていて意味が分からず、3で廃棄施設への出張の話になって気付き読み戻りました。
ポンデザール橋に詰まった愛がリサイクルされて日本にわたりまた同じ景色を作る、これもまた円環なり。
 
 
エッセイをつなぐ小説が1篇ずつだとどこが面白ポイントかわからないのに、3つが絶妙に組み込まれているから種明かし的に全部面白くなるという不思議な本でした。エッセイというと生身の人間性みたいなものが現れてそれはそれで面白いのですが、『未完』のファンタジー要素で締めくくるところがクリエイターとしてのシゲさんっぽくてとても好きです。