いいぞ、英国大使!(追記あり) | ロンドンつれづれ

ロンドンつれづれ

気が向いた時に、面白いことがあったらつづっていく、なまけものブログです。
イギリス、スケートに興味のある方、お立ち寄りください。(記事中の写真の無断転載はご遠慮ください)

 
7月9日に、色々と翻訳して書いた記事が、うまく保存できてなくて・・・およそ2時間ほどの作業が無駄になってしまいました。
 
皆様には、英文だけダーっと書かれた元原稿を昨晩お見せしてすみません。
 
気を取り直して、10日の朝にまた書きました・・・。
 
 
・・・・・・・・・・・・・・・
BBCでは、在合衆国の英国大使、サー・キム・ダロック氏がトランプ大統領についての見解を記した外交電報の内容を報道した。 これは英国大衆紙、メイル紙が6日に漏洩情報をすっぱ抜いた衝撃記事で、世界中が騒ぎになったものである。
 
そこには、「トランプ政権は無能で不安定、政権内は類を見ないほど機能不全で分断されている。しかしトランプを軽視してはいけない」と書かれており、どこからこの機密情報が漏洩したのか英国政府は調査を始めたという。
 
The Trump administration has been labelled "inept", insecure and incompetent in leaked emails from the UK ambassador to Washington. Sir Kim Darroch said that the White House was "uniquely dysfunctional" and "divided" under Donald Trump. But he also warned that the US president should not be written off.
 
 
英国外務省では、漏洩は害悪でまことに遺憾としながらも、内容については否定しなかった。
The Foreign Office said the leak of the memos to the Mail on Sunday was "mischievous" but did not deny their accuracy.
 
英紙デイリー・メールが6日に報じたところによると、ダロック大使が2017年から現在まで英外務省へ書き送ったメールの中で、今のホワイトハウスは評判通り「内部対立と混沌(こんとん)」がひどく、「類を見ないほど機能不全に陥り」、トランプ大統領の下で「分裂している」と書いている。 今年6月に本国政府へ送ったメールでは、トランプ政権のイラン政策は支離滅裂」と書いている。(BBC日本版
 
また、「今後、この政権が正常化し、機能不全や予測不能な状態が改善し、分断や外交的無能がましになる期待は少ない。ホワイトハウスが有能になるかは疑問」とも報告。
 
 
「気候変動、メディアの表現の自由、死刑制度などの価値観の違いが、今後前面に立ちふさがって、ブレグジット後の二国間の通商交渉を阻む可能性が高い」、と大使は書いたという。 「トランプとの話し合いはシンプルかつ単刀直入にしないと理解しない」とし、「彼はイギリス訪問で女王陛下にも謁見して上機嫌だが、結局トランプ政権は今後も自己中でアメリカファーストの政策を変えないだろう」と報告した。
 
英国極右政党UKIPの元リーダーで今ブレクジット党の党首のナイジェル・ファラージは「キム・ダロックは大使に適さない。すぐにも辞めさせるべきだ」と騒いだが、法務大臣のDavid Guake氏は「大使が正直で率直なアドバイスを本国に送ってくることは大変に重要だ。漏洩があったことは誠に遺憾だが、我々は大使たちが見たままの真実を伝えてくることを期待している。」と話した。
 
サー・キムはまた、トランプのイラン政策を「一貫性がなく、滅茶苦茶だ。今後改善は期待できない。なぜなら、トランプ政権は分断しているからだ。」と報告した。「トランプがイランと戦争に入れば、世界貿易のシステムは崩壊するだろう」とも書かれており、「トランプの選挙キャンペーンへのロシアの関与において、最悪のシナリオもありうる」としている。
 
外務省のスポークスマンは、「外交官たちの見解は必ずしも大臣や政府の見解と一致はしないが、彼らは正直に報告するために雇われている」と話した。 「大臣や官僚は、受けた意見やアドバイスを正しい方法で取り扱う。大使たちは彼らの見解を機密事項として報告できる状態でなくてはいけない。ワシントンの英国大使館はホワイトハウスとは強力な関係を保ってきたし、悪意ある漏洩の後もそれは変わらない」と話した。 (英国BBC ニュース

https://www.bbc.com/news/uk-48898231

 

1954年生まれのダロック大使は、キャリア外交官として42年間の経歴を持つ。国家安全保障と欧州連合(EU)政策を専門とし、「イスラム国」(IS)やロシアのクリミア半島侵攻、イラン核問題などについてデイヴィッド・キャメロン政権の安全保障問題顧問を務めた後、2016年1月に駐米大使として着任した。 外務省内でも尊敬をあつめるエリート外交官であり、ハント外務大臣からも信頼が厚い。

 

 

アメリカ、ワシントン・ポストのウイリアム・ブースは、英国大使がホワイトハウスをuniquely dysfunctional, 「他に類を見ないほど機能不全」で、トランプは無能で不安定、そして彼の政権は不名誉な崩壊をするかもしれない、と報告したと書いた。

The British ambassador to the United States described the White House as “uniquely dysfunctional,” told his counterparts back home that President Trump was “inept” and “insecure,” and warned that his administration could collapse in “disgrace.”

 

英国外務省は、「英国民は大使からはホスト国の政情について正直でありのままの分析を報告することを期待している。彼らの見解は必ずしも大臣や政府と一致しないかもしれないが、我々は彼らの正直な意見を聞くために雇っているのだ。 ロンドンに滞在するアメリカ大使がウェストミンスターの政治を観察して本国に送るのと同じように。 世界中の外交官は本国の本庁に、ニュースやゴシップの分析を送り返しているのだ」と話した。

 

トランプは、「我々は特にこの大使を気に入っているわけではない。彼は本国の役に立っているとは思えない」と話した。

 

ダロック大使は、また「トランプを軽視しない方が良い。 ターミネーターが炎の中からよみがえったように、トランプもスキャンダルの炎を生き延びて立ち上がるかもしれないから・・・」とも報告している。
 
ダロック大使は「英国訪問し、女王陛下に謁見してトランプは上機嫌だが、それは過去に何年にもわたって英米の関係を築き上げてきた人々の手柄だ、彼らはトランプの耳に英国の声を届けてくれる信頼できるゲイトキーパーたちである」とも報告している。
 
 
また、英国のガーディアン紙は、「メディアで伝えられるトランプ政権内の過激なナイフでの刺しあいはほぼ真実、この政権が今後もっと安定するかは疑問。 大統領は不安定で政権は不名誉な終わり方をするのでは、とダロック大使は報告した」と書いている。
 
また、ガーディアンでは「ダロック大使の分析はトランプ政権に対する多くの主要コメンテイターと主張を同じくするが、彼のようなトップ外交官からの見解が公になってしまったことは恥ずべき事」とも書いている。 ジェレミー・ハント外相は「これは個人的見解で英国政府の見解ではないし、私の見解でもない。我々はトランプ政権は効果的に機能していると信じ、国際社会において英国の良き友であると考えている」と発表した。
 
ガーディアンは上記した法務大臣のコメントにも触れ、さらに下院保守党の外務委員会書記長であるトム・トウゲンダット氏がBBCラジオ4のインタビューに応えて「漏洩は外交ルールに対する深刻な裏切り行為であり調査が必要だ。外交官は本国政府と安全にコミュニケーションをとれねばならない。そうでなければ人々が必要な情報を伝えることはできない。 すべての事実を手に入れることができなければ、政府は論理的な判断ができない。 要するに、ホスト国の政情の正直な分析が必要、ということだ。調査を行い、犯人が見つかったなら訴追されるだろう。これは英国民と、その雇われ人、つまり漏洩を行った人物の間の信頼を損なう裏切り行為である。」と話した、と書いた。 外務省は調査を開始する、としている。
 
ダロック大使の任期は今年いっぱいだが、次の首相はもっと早くにダロック大使を呼び戻し、次の大使を送り込むかもしれない。 候補には、内閣大臣のマーク・セドウイル氏か、先の財務大臣のジョージ・オズボーン氏の名前が挙がっているそうだ。 過去にトランプは仲良しの極右政党UKIPの元党首、ナイジェル・ラファージを大使にしたらどうだと話していたが、当時、この提案は一笑に付された。

https://www.theguardian.com/politics/2019/jul/07/foreign-office-orders-inquiry-into-leak-of-cables-on-trump

 

 

ニューズウイーク誌のジェイソン・レモン氏は、「英国外務省のスポークスマンは、トランプ大統領を無能で不安定、政権は類を見ないほど機能不全、と本国に報告したダロック大使を弁護した」と書く。

 

Responding publicly with an official statement, a spokesperson for the United Kingdom's Foreign and Commonwealth Office argued that the diplomat had acted correctly in providing an "honest" assessment of the current American administration.
"The British public would expect our ambassadors to provide ministers with an honest, unvarnished assessment of the politics in their country," the spokesperson said, Politico reported Sunday. "Their views are not necessarily the views of ministers or indeed the government. But we pay them to be candid. Just as the U.S. Ambassador here will send back his reading of Westminster politics and personalities."
(英国外務省、FCOのスポークスマンは、公式見解を発表し、アメリカ現政権についての正直な分析を提供した大使の行動は正しかった、とした。 英国民の期待するところは、英国大使が本国大臣たちにホスト国の政情について、正直でありのままの分析を提供することである。 彼らの見解は必ずしも大臣や政府と共通とは限らない。 が、我々は彼らの正直な意見を聞くために雇っているのである。 アメリカ大使が、ウェストミンスターの政治や人物の報告を本国に送っているのと同じことだ。)
 
またここでも法務大臣の言葉が紹介されている。 "It is disgraceful that it's been leaked, but we should expect our ambassadors to tell the truth, as they see it." (漏洩は恥ずべきことだが、我々は大使たちに見たままの真実を報告することを期待している) 
 
ダロック大使の公電メモはダウニング10の首相官邸に直接送られている。 その中で、トランプがこれまで選挙公約の実現に苦慮しており、メキシコとの壁は1インチも建設できておらず、モスリム教徒の入国拒否も州裁判所の反対にあって実現していない。税改革もインフラ・パッケージも手が届かず、オバマケアに変わるアイデアもでてこない、と指摘しているという。 トランプのイラン政策は一貫性がなく、カオスだ、とも。
 
レモン氏は、「これまで長年にわたり英国とアメリカは良い関係を築いてきたが、トランプ政権下では問題が発生しつつある。トランプのパリ協定脱退、イラン核条約からの撤退など、英国のリーダーたちは大変に批判的に見ている」と書いた。
 

https://www.newsweek.com/british-government-stands-behind-ambassador-calls-trump-incompetent-insecure-1447915

 

 

それにしても、メイル紙はさすがタブロイド紙、ダイアナ妃の時も付きまとってスキャンダルを書き散らしていたが、今回も自国の外交機密をすっぱ抜くとは…。 誰が得をするというのであろうか。 ダロック大使の報告を聞いて、その通りだよと胸のすく思いをした英国人は、中上流階級や知識層には大変に多いと思うが、機密漏洩については本当に困ったものだと頭を振る人も大勢いただろう。

 

日本の駐米大使だったらどうだろうか。 ここまで率直に書くとも思えないが。 そして日本のメディアはおそらくリークがあっても記事にしないような気がする。 さらに、もし記事になったとしたら、日本政府はその大使を即刻呼び戻し、アメリカにへいこら謝り、そして大使を首にするであろう。 なので今回の英国外務省の態度、そして法務大臣の言葉は、大使の率直な観察、分析、報告に続いてあっぱれ!と思うのである。

 

しかし、メイ首相が去った後は、元ロンドン市長、ブレグジット強硬派のボリス・ジョンソンが英国の首相になるとみられているが、彼の予測不可能な言動、ポピュリズム、自己中な性格は、トランプと親和性が高いだろうから、ボリスが首相になったらサー・キム・ダロック大使は、任期である年末を待たずに英国に送り返されるかもしれない。 しかし、ダロック大使は英国でヒーローのように迎えられるだろうことは、予測がつくのである…。

 

(追記) ・・・・・・・・・

日本時間の7月11日、速報が入って、ダロック大使は辞任したようですね。

残念ですが…。

 

メイ首相は、ダロック大使の外交官としての英国への貢献をたたえた。

 

Sir Kim has given a life-time of service to the United Kingdom, and we owe him an enormous debt of gratitude.  Good government depends on public servants being able to give full and frank advice, and I want all our public servants to have the confidence to be able to do that.  And I hope that the House will reflect on the importance of defending our values and principles, particularly when they are under pressure. (サー・キムが英国に生涯をささげる献身をしてくれたことに対し、我々は多大な感謝の気持ちを持たなくてはなりません。 良き政府とは、心から率直な意見を述べる公務員がいてこそ可能であり、すべての公務員がそうできると確信を持っていてほしいと思います。議会は、このような圧力を受けている時にこそ、我々の価値感や主義を守ることの重要性を改めて真剣に考えることを期待したい。)

 

英国政府の偉いところは、これまで「リークした人物」について非難はしているけれども、トランプ政権について率直な見解を述べたダロック大使を全面的に支持し、その優秀さとこれまでの貢献を讃え、さらにリークをすっぱ抜いたメイル紙に対しての批判をまったく行っていないところだ。

 

メイ首相や法務大臣、外務省のスポークスマンが明確にしたいところは、英国の外交官および政府は権力におもねることもしないし、また政権は報道規制も行わない、ということだろう。 情報を得たから、メディアはそれをスクープする。 それに対しては(苦々しく思っていても)、政府にとって都合のわるい情報がすっぱぬかれたとしても、批判はしないのである…。 ジャーナリストとはそういうものだ、と思っているのだろう。 これはどこかの国のリーダーたちにも見習ってほしいところである…・。

 

 

 

 

Sir Kim Darroch has resigned as UK ambassador to the US, amid a row over leaked emails critical of President Trump's administration.
The ambassador was branded "a very stupid guy" by the US president, after emails emerged calling his administration "clumsy and inept".
The Foreign Office praised Sir Kim's "professionalism and class".
The ambassador said he wanted to put an end to speculation, adding the leak had made it "impossible" to do his job.
In a letter to the Foreign Office, Sir Kim said: "Since the leak of official documents from this Embassy there has been a great deal of speculation surrounding my position and the duration of my remaining term as ambassador."
"I want to put an end to that speculation."
"The current situation is making it impossible for me to carry out my role as I would like."